著者
久田 智也 唐鎌 元気 生田 領野
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

本研究では、Heki [2011]で地震の先行現象として報告された電離圏総電子数(TEC)の増加について、確率論的な検証を行った。Heki [2011]では、2011年東北沖地震発生の約40分前に震源域周辺でTECが上昇したことを報告しており、その後のHeki and Enomoto [2015]では、地震前のTECの時系列にAICを適用して、上昇が起こった時刻と増加率を評価した。また、増加率の閾値(3TECU/h以上の絶対的上昇かつ75%以上の相対的上昇)を超えるTECの変化は、稀にしか起こらないことを示し、5つの巨大地震の前に検出されたTECの上昇が偶発的に一致したのではなく、地震の先行現象である可能性を強く示唆した。我々は、61日間の平時のTECの観測値から、Heki and Enomoto [2015]が設定した閾値を上回るTECの上昇が、本当にまれにしか起こらない現象かどうかを、対象とする衛星を変えて検討した。TEC変動の時系列は衛星毎にその形状が異なるため、閾値を超えるTECの上昇を観測する回数や時刻も衛星毎に異なる。そこで先行研究から、観測に用いる衛星の数と観測期間を変えて、閾値を上回るTECの上昇の発生頻度を比較した。先行研究では地震の前後計21日間について1つの衛星(15番衛星)のみで頻度を算出し、計84時間で7回のTECの上昇が検出された。本研究では地震の前後計61日間について、先行研究と同じGEONET観測点(ID:3009)から、視野に入る全ての衛星を対象として頻度を算出した.その結果、仰角マスク25°、計305時間では201回のTECの上昇が検出された.先行研究では現象の発生率は1時間あたり0.08回であったのに対し、本研究では0.66回となった.Heki and Enomoto [2015]では、調査した巨大地震8つのうち5つで、地震発生90分以内に閾値を上回るTECの上昇が見られたと報告されている.ポアソン過程を仮定すると、先行研究の84時間で7回の検出頻度の事象が、8つの地震のうち少なくとも5つで偶然観測される確率は0.09%であるので、これらの地震の発生と無関係な事象であるとは考えにくい。しかし本研究の305時間で201回の検出頻度を仮定して同様の確率を算出すると●%であり、地震の発生前に偶発的に検出されたとしても不思議ではない。観測されるTECの上昇の回数は衛星の仰角マスクに依存する。仰角マスクを低くすると視野内の衛星数の増加により現象の検出回数も増加するが、低仰角ではTECの挙動が不安定になるため、より過剰に上昇が検出される。先行研究で採用している衛星の最低高度は20°から25°程度であり、本研究でも25°とした。しかし視野内に存在している衛星の数と、検出されたTECの上昇数を比較すると、37°程度より低い仰角マスクではこの不安定の影響があるようである.よって仰角マスクを37°に設定すると、TECの上昇回数は計305時間で100回であった。この時、8つの地震のうち少なくとも5つの地震で地震発生90分前にTECの上昇が観測される確率は、51.6%となる。やはり5つの巨大地震と、その前のTECの上昇が偶然一致した可能性は否定できない。閾値を超えるTECの変動は、視野に入る衛星のうちの一つだけで起こっていることが多い(全体の67%)。このため先行研究は、15番衛星以外の多くの衛星で単独で起こっているTECの上昇を見逃したことで発生確率を過小評価する結果となった.25°=64.5%37°=14.8%
著者
安藤 雅孝 生田 領野
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

フィリピン海プレートの北西域端では、琉球海溝に沿って沈み込み、台湾東海岸では衝突する。この地域で、我々が最近実施した津波堆積物の調査、海底地殻変動観測に基づき、琉球海溝南西部の巨大地震のテクトニクスについて議論する。1.宮古島・石垣島沖での巨大津波本地域では、過去数千年にわたり、巨大な津波が繰り返し発生したことが知られている。我々が行った石垣島での津波堆積物の調査から、過去2000年にわたり、ほぼ600年に一回の割合で巨大津波が発生したことを明らかになった(Ando et al. 2017)。これらの地震のうち、最新の1771年八重山地震の際には、石垣島沿岸では地割れが生じ、揺れは震度V弱(またはそれ以上)に達したことも判明した。この地震による、400km離れた沖縄本島での震度は、IVと推定されおり(宇佐美 2010)、1771年地震は“津波地震”ではなく、通常の地震である可能性が高い。1771年地震の東側でも、別の巨大津波がそれ以前に発生したことが知られている。下島(宮古島市)には、日本で最大の津波石(帯石)が打ち上げられており、珊瑚のC14年代測定から、11世紀以降、1771年以前に、巨大津波によるものと推定される。このような結果を総合すると、琉球海溝南西域沿いには、長さ250kmを超える巨大地震発生域があると考えられる。Nakamura(2009)のプレート境界面上の逆断層地震モデルを採用すると、プレートの地震性カップリング率は20%程度と低くなる。2.琉球海溝の後退と伸張歪み場GPS観測によると、沖縄諸島は4–6cm/yの速度で南〜南東に向かって移動する。この変動は琉球海溝が南東に後退するために生じるもので、先島諸島は1–3x10-8/yの伸張歪み場にある。この伸びに応じて、背弧の沖縄トラフでは、マグマの貫入が起きるものと考えれる。2013年4月には与那国島の北50kmの沖縄トラフ内で、2日間にわたりマグマが貫入したと推定された(Ando et al., 2015)。2013年7月から9月の間に、その地点から西100kmで、マグマ貫入が生じたと、海底地殻変動観測から推定されている(香味・他、2017)。琉球海溝南西域では、海溝が後退しつつ、プレート沈み込みに伴う歪み応力を蓄積し、巨大地震を発生させるものと考えられる。カップリング率の低い伸帳応力場でも、巨大地震が繰り返し発生しうることは注目される。3.海底地殻変動観測結果2014年に、波照間島(西表島の南)の南60kmに、海底地殻変動観測点が設置され、観測が継続されている。この結果から、観測点が西表島に対し南に移動していることが明らかになった。ただし、観測期間は2年間と短く、結果の信頼性はまだ低い。海溝付近でも伸張場であることを確かめるには、さらに3年間の観測が必要である。一方、台湾東海岸には、琉球海溝から沈み込むプレート間カップリングの検証を目的として、3カ所に海底地殻変動観測点が設置された。その内の一つの宜蘭沖の観測点の2012年〜2016年の地殻変動観測結果が明らかにされた(香味・他、2017)。それによると、速度ベクトルは、南向きに4cm/y、東向きに8cm/yで、60km西の陸域の変動と調和的である。ただし、観測点が海溝から離れ過ぎているため、プレート間カップリングの有無を検証するに至っていない。さらに、海溝に近い他の2地点での観測を継続する必要があろう。今後、波照間沖、台湾沖での海底地殻変動から、この地域の巨大地震の準備過程が、解明されよう。4.まとめ琉球海溝南西域の巨大地震発生のメカニズム解明には、波照間島沖の地殻変動観測を継続し、かつ台湾東海岸に海溝に近い海底地殻変動観測を継続して行う必要がある。