著者
山岡 耕春 中禮 正明 安藤 雅孝
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.185-191, 2002-04-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

The temporal relationship between the interplate and inland earthquakes of Kyushu Island region was investigated. We analyzed this relationship by stacking the temporal frequency of the inland earthquakes with reference to the occurrence time of each major interplate earthquake in the Hyuga-nada region, that occurred between 1900 and 2000. A good coincidence of occurrence between the inland and the interplate earthquakes is recognized. While the tendency of the occurrence after the interplate events has already been pointed out, we found that the inland earthquakes also tend to occur before the interplate events. Abrupt activation of the inland earthquakes within several months before major interplate earthquakes is recognized in addition to the tendency to occurr afterwards. The preceding inland earthquakes may indicate that they are triggered by precursory slow slips around the hypocenters of the Hyuga-nada earthquakes.
著者
松多 信尚 太田 陽子 安藤 雅孝 原口 強 西川 由香 Switzer Adam LIN Cheng-Horng
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.88, 2010 (Released:2010-11-22)

台湾はユーラシアプレートとフィリピン海プレート上のルソン弧の衝突によって形成されている.その衝突速度は82mm/yr程度で衝突しており,多くの活断層やプレート境界が存在する.特に東海岸に大津波を起こす可能性のある給源としては,琉球トレンチと沖合の海底活断層が考えられる.もしそこで地震が発生すれば,東海岸の海底地形は急に浅くなることから,大きな津波が来襲すると考えられる.台湾の歴史津波記録は少ない.東海岸の詳細な記録があるのは日本統治時代以降である.その中には東海岸に大きな津波の襲来した記録はなく,チリ地震などでも津波が台湾に押し寄せたことは無かったため,台湾では東海岸には津波が来ないと信じる人が多い. しかし,台湾の東海岸は無人だったわけでなく,阿美族と言われる原住民族が主にすんでいた.彼らの伝承の中には”津波”を思わせる伝承も少なくない.その例の中に,阿美族の創世神話の一つがある. これは通りすがりの旅人の神がそこに住んでいた神の一家を懲らしめるために海の神に頼んで大波を起こすという話である.その中で海の神が旅人の神に「今日から五日後,月が丸くなった夜に海ががたんがたんと鳴るでしょう.その時あなた方は星のある山をめがけて逃げなさい」と言い,いよいよその日,旅人の神は星の輝く山に向け逃げ,山頂に着いた頃海はにわかに鳴り始め大波はみるみる高まって,そこに住んでいた神の一家を押し流す.しかし,大波に襲われた一家はかろうじて助かる.それを不満に感じた旅の神は再度海の神に頼むと,海の神は再度大波を起こす.とある.これは,まさに津波が押し寄せたと考えられる.南西の島に住むタオ族の伝説にも津波を思わせる言い伝えがある.この神話も突然大波が押し寄せたという.このように東海岸には津波が押し寄せたと思われる伝承が点在する. 最近の津波の記録と思われる話が成功という町に存在する.これは昭和12年に印刷された安倍明義著「台湾地名研究」にある.その中の新港(現在の成功)の説明には「この地名は大正九年にマラウラウを新港に改めた.」とあり,「8,90年前に畑地が津波に洗われて草木が皆枯死したために,その有様をラウラウといい地名とした」とある.8,90年前とは,経験者が生存している可能性もあり,確かな出来事と思われる.これは,1840-50年頃と思われる.我々はこの言い伝えを頼りに成功で津波堆積物を探す調査を実施した. 成功には5段の完新世段丘が分布する.川沿いの_I_面と_II_面は,厚い堆積物が見られる.これは,氷期でできた谷を埋めた堆積物と考えられる.一方東側に見られる海成の面と川沿いの_III_面の堆積物は厚くなく,基盤を確認することが出来る. 阿美族の集落は高位の段丘の上にあり,成功の地名の由来になった津波が阿美族の集落に被害が及んだ報告はない.したがって,最高位段丘まで遡上したことはないと考えられる.一方,_IV_,_V_面のみに津波が遡上したのであれば,その範囲は限られており,地名の変更を行うほどのインパクトがあったとは考えがたい.したがって,我々は_III_面まで津波が遡上したと考えて,掘削調査を行うことにした. 成功の町の中心部が位置する_III_面は_II_面によって川の陰になっており,堆積物は河成の礫質ではなく,海の影響が強い砂質で構成されると予想された.この_III_面の範囲は日本統治時代以前は湿地であり,日本人が段丘崖の基部に排水溝を掘ることで利用できる土地となったという.この話からこの範囲には湿地性の堆積物が予想された. 我々はまずハンドオーガーによって予備調査を新港中学校の西南の地点で行った.その結果,peatに挟まれた海の貝を含む砂が見られた.我々はこの砂の下位のpeatの年代を測定し,上部が1810-1570 Cal Yrs B.P.,下位が3070-2860 Cal Yrs .B.P.という値が得られたため,同地点を中心にジオスライサー調査を行った.その結果,陸生のカタツムリの殻が見られるpeat質な地層の間に厚さ50cm程度の二枚の海生の貝を含む砂層を確認し,砂層の間の地層から2340-2150 Cal yrs B.P.,下位の層から2990-2790 Cal yrs B.P.の年代を得た.これらの年代には,すでに海水準は安定しているため,海水準が上昇することはない.また,この地は7-15m/kyr程度の速度で隆起している.したがって,砂層堆積時の標高はかなり低かったと考えられ,離水した地域にイベント的に海水が入り込んだことは事実だが,津波と断定するのは難しい.しかし,我々は砂層が上方に細粒化することなどから,津波の可能性が高いと考えており,珪藻分析などを行う予定である. 調査の目的であった最近の津波の確実な証拠は認められなかった.
著者
大倉 敬宏 安藤 雅孝
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.464-470, 1994-10-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2

The relation between the Pinatubo eruption of 1991 and the Philippine earthquake of 1990 is studied on the basis of strain changes calculated from a fault model of the Philippine earthquake. At Pinatubo volcano, which is located 100 km away from the earthquake fault, the volumetric strain change induced by the earthquake is about 10-6. This caused gradual squeeze up of magma to the surface and the Pinatubo volcano erupted eleven months after the earthquake. The volumetric change calculated by a fault model of the 1990 earthquake is, however, several orders of magnitude smaller than the total volume observed during the eruptions. The magma squeezing model alone cannot explain the whole volume of ejected magma. A possible interpretation is that the volumetric strain change could have squeezed up magma in the magma reservoir, resulting in lowering the density of magma and enhanced the magma to rise further more. Such a positive feedback process could have occurred after the Philippine earthquake of 1990. It is possible that the Philippine earthquake triggered the activity of Pinatubo volcano.
著者
岡田 篤正 安藤 雅孝 佃 為成
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.2, pp.81-97, 1987-04-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
35
被引用文献数
6 2

Four trenches (Trenches A-D) were explored across the Yasutomi fault (a strand of the Yamasaki fault system) to date recent past faultings. Trench A was 3 m deep and 28 m long across the fault (Upper in Fig. 3 and Fig. 4), and the additional excavation was made down to 5 m deep (Fig. 5) from the western wall of trench A. The sizes of other tenches are similar to that of trench A. Since this site was being developed after this trenching for the building lot of a factory, many pieces of important geological evidence were gradually exposed with progress of the construction. This enabled us to make a further detailed geological and geomorphological study of the Yasutomi fault. The results are summarized as follows : 1) Yasutomi fault, which has been considered to be predominantly left-slip active one estimated from tectonic morphologies, was geologically confirmed that this had dislocated with predominantly lateral-slip component at least since a few tens of thousand years.2) Widely sheared zones appeared along the north side of the active trace do not accompany any tectonic features. Therefore, this straightly trending depressional zone is to be recognized as a fault-line valley. A new fault was originated along the southern rim of pre-existed weak zone probably since the late Quaternary.3) The valley-filling deposits are disturbed at the lower part of the trench but not at the upper part this suggests that the fault has not moved since the deposition of the upper horizon although small earthquakes have been reported to occur frequently around the fault. Sense and amount of vertical offset, drugged structure and other fault features vary laterally along this, as common in high angle strike-slip fault.4) The latest displacement occurred between late 7 th and 12 th Centuries, probably associated with the 868 Harima Earthquake (M=7.1). Two more faultings were also inferred from C-14 dates of disturbed and undisturbed strata within a deformed zone of the fault, although they are less reliable. The recurrence interval of earthquakes as large as the 868 event is estimated to be at least 1000 or possibly a few thousand years along this strand of the Yamasaki fault system.
著者
中村 衛 松本 剛 古川 雅英 古本 宗充 田所 敬一 田所 敬一 安藤 雅孝 古川 雅英 松本 剛 古本 宗充
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

琉球海溝に固着域が存在するか否かを明らかにするため、中部琉球海溝で海底地殻変動観測を開始し、琉球海溝付近前孤側でのプレート間カップリングを検出する試みをおこなった。2年間の観測から、海底局群が沖縄本島に対して北西方向に7cm/yrで移動したことが明らかになった。予想される固着域の幅は約30-50kmである。このように琉球海溝の海溝軸付近には固着域が存在しプレート間カップリング領域が形成されていることが明らかになった。
著者
山岡 耕春 中禮 正明 安藤 雅孝
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.185-191, 2002-04-25
参考文献数
9
被引用文献数
2

The temporal relationship between the interplate and inland earthquakes of Kyushu Island region was investigated. We analyzed this relationship by stacking the temporal frequency of the inland earthquakes with reference to the occurrence time of each major interplate earthquake in the Hyuga-nada region, that occurred between 1900 and 2000. A good coincidence of occurrence between the inland and the interplate earthquakes is recognized. While the tendency of the occurrence after the interplate events has already been pointed out, we found that the inland earthquakes also tend to occur before the interplate events. Abrupt activation of the inland earthquakes within several months before major interplate earthquakes is recognized in addition to the tendency to occurr afterwards. The preceding inland earthquakes may indicate that they are triggered by precursory slow slips around the hypocenters of the Hyuga-nada earthquakes.
著者
堤 浩之 岡田 篤正 中田 高 安藤 雅孝
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.40, pp.p113-127, 1992-12
被引用文献数
1

四国中央部における中央構造線の活動的なセグメントのひとつ岡村断層のトレンチ発掘調査を1988年3月愛媛県西条市で行なった。断層と地層の変形構造を水平方向に明らかにすることにより断層運動に伴う水平変位量の解明を試みた。壁面で観察される断層の構造は横ずれ断層に共通する特徴を備えている。断層を挟んでの地層の食い違いは右ずれを示し, 断層変位地形から推定される岡村断層の変位のセンスと一致する。地層の変形と^<14>C年代測定結果に基づいて最近2回のイベントを解読した。最新イベントは断層がすべての自然堆積の地層を切断するためその時期を確定することはできないが, それに伴う変位量が右ずれ約5.7 mと求められる。それより1回前のイベントはB.C. 1405~925年にあったと推定される。特定の谷がら供給される地層の年代と供給源との位置関係から過去1万数千年の岡村断層の右ずれ変位速度が6.8 mm/yr以下と推定される。
著者
安藤 雅孝 生田 領野
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

フィリピン海プレートの北西域端では、琉球海溝に沿って沈み込み、台湾東海岸では衝突する。この地域で、我々が最近実施した津波堆積物の調査、海底地殻変動観測に基づき、琉球海溝南西部の巨大地震のテクトニクスについて議論する。1.宮古島・石垣島沖での巨大津波本地域では、過去数千年にわたり、巨大な津波が繰り返し発生したことが知られている。我々が行った石垣島での津波堆積物の調査から、過去2000年にわたり、ほぼ600年に一回の割合で巨大津波が発生したことを明らかになった(Ando et al. 2017)。これらの地震のうち、最新の1771年八重山地震の際には、石垣島沿岸では地割れが生じ、揺れは震度V弱(またはそれ以上)に達したことも判明した。この地震による、400km離れた沖縄本島での震度は、IVと推定されおり(宇佐美 2010)、1771年地震は“津波地震”ではなく、通常の地震である可能性が高い。1771年地震の東側でも、別の巨大津波がそれ以前に発生したことが知られている。下島(宮古島市)には、日本で最大の津波石(帯石)が打ち上げられており、珊瑚のC14年代測定から、11世紀以降、1771年以前に、巨大津波によるものと推定される。このような結果を総合すると、琉球海溝南西域沿いには、長さ250kmを超える巨大地震発生域があると考えられる。Nakamura(2009)のプレート境界面上の逆断層地震モデルを採用すると、プレートの地震性カップリング率は20%程度と低くなる。2.琉球海溝の後退と伸張歪み場GPS観測によると、沖縄諸島は4–6cm/yの速度で南〜南東に向かって移動する。この変動は琉球海溝が南東に後退するために生じるもので、先島諸島は1–3x10-8/yの伸張歪み場にある。この伸びに応じて、背弧の沖縄トラフでは、マグマの貫入が起きるものと考えれる。2013年4月には与那国島の北50kmの沖縄トラフ内で、2日間にわたりマグマが貫入したと推定された(Ando et al., 2015)。2013年7月から9月の間に、その地点から西100kmで、マグマ貫入が生じたと、海底地殻変動観測から推定されている(香味・他、2017)。琉球海溝南西域では、海溝が後退しつつ、プレート沈み込みに伴う歪み応力を蓄積し、巨大地震を発生させるものと考えられる。カップリング率の低い伸帳応力場でも、巨大地震が繰り返し発生しうることは注目される。3.海底地殻変動観測結果2014年に、波照間島(西表島の南)の南60kmに、海底地殻変動観測点が設置され、観測が継続されている。この結果から、観測点が西表島に対し南に移動していることが明らかになった。ただし、観測期間は2年間と短く、結果の信頼性はまだ低い。海溝付近でも伸張場であることを確かめるには、さらに3年間の観測が必要である。一方、台湾東海岸には、琉球海溝から沈み込むプレート間カップリングの検証を目的として、3カ所に海底地殻変動観測点が設置された。その内の一つの宜蘭沖の観測点の2012年〜2016年の地殻変動観測結果が明らかにされた(香味・他、2017)。それによると、速度ベクトルは、南向きに4cm/y、東向きに8cm/yで、60km西の陸域の変動と調和的である。ただし、観測点が海溝から離れ過ぎているため、プレート間カップリングの有無を検証するに至っていない。さらに、海溝に近い他の2地点での観測を継続する必要があろう。今後、波照間沖、台湾沖での海底地殻変動から、この地域の巨大地震の準備過程が、解明されよう。4.まとめ琉球海溝南西域の巨大地震発生のメカニズム解明には、波照間島沖の地殻変動観測を継続し、かつ台湾東海岸に海溝に近い海底地殻変動観測を継続して行う必要がある。
著者
安藤 雅孝 BART BAUTUST RAYMUND S. P 山田 功夫 伊藤 潔 渋谷 拓郎 尾池 和夫 BAUTISUTA Bart PUNOGBAYAN Raymund S. GARCIA Delfi PUNONGBAYAN
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

当研究の目的は,(1)西太平洋超高性能地震観測網計画の一環としてフィリピン国に観測システムを設置し,記録の収録と解析を行うこと,(2)フィリピンの地震危険度の推定と地震発生機構・テクトニクの研究を行うことである。以上(1),(2)の順で成果の概要を述べる。(1)超高性能地震計は,平成3年度にフィリピン火山地震研究所のタガイタイ観測点に設置し順調に記録の収録が開始された。記録の解析は現在進められており3カ月以内の報告できるものと思う。地震の収録は,連続収録とトリガー収録の二つの方式を取っている。連続収録は1点1秒,トリガー収録は42点1秒サンプリングを行っている。トリガー記録は,1年で約200点収録されている。現在の問題は,時刻較正と停電対策の2点である。現システムはオメガ電波を用いて時刻較正を行っているが,受信状況等多くの難点を持っている。このため,GPSを用いて時刻較正を行う予定であるが,市販品は高価なため,渋谷(分担者)が手づくりで作製する計画を持っている。停電はフィリピンでの大きな社会問題である。経済的な進展のみられないフィリピンでは,この1〜2年に電力事情が急激に悪化してきた。昼間に5時間程度の停電は普通である。自動車用バッテリーで停電対策を取っているが,長期間の停電を繰返すとバッテリーは回復不可能となる。このため,停電時はファイル書き込みを止め,復電時にも電圧回復まで収録を待つような対策を取る必要がでてきた。これらは,平成5年度5月頃に2名が訪問し実施する予定である。計画立案時や設置の際には予想されなかったことではあるが,発展途上国での研究計画は万全の対策を取る必要があることを示している。(2)地震危険度等 フィリピンは,1990年にフィリピン地震が発生し,1991年にピナツボ山が大噴火,1993年1月にはマヨン山が噴火をした。このようにフィリピンはルソン島を中心に地震火山活動が活発になっている。河高性能地震計を置いているタガイタイ観測所はタール火山の外輪山にあり,マグマ性の地震活動の監視も兼ねている。タール火山の近年の地震活動は高く,噴火の可能性が高いと言われている。火山の噴火や災害の防止軽減のためには,噴火規模の推定が必要である。この基礎資料として,マグマ溜りの位置,深さ,規模,および部分溶融面の位置や深さの情報が欠かせない。平成5年2月末から2週間にわたり,人工地震を用いた地殻構造調査が行われた。平成4年12月に研究協力者の西上がフィリピン火山地震研究所の研究者と共に,発破点の選定,地震計の設置点の調査,業者の折衝等を行い,2月末の本調査へ向けての準備を完了させた。深さ50mの発破孔を2本掘削し,200kgのダイナマイトを人工地震源として,地震探査を実施する予定を立てた。発破点はタール湖(カルデラ湖)西岸に置き,観測点を東岸沿いに南北に展開し,扇状放射観測を行った。発破を2度に分けた理由は,収録システムが日本側とフィリピン側と併せて16組しかなく,1回で東岸域に並べると間隔が荒くなり,マグマ溜り検出には適さないことがわかったためである。本調査では,1回目の発破では東岸の北側に,2回目の発破では南側に展開した。これにより32組の収録システムにより地震探査が行われたと同じくなり,かなり詳しい調査が可能となった。日本から8名,フィリピン側から10名の参加があり,かなりハードなスケジュールをこなし調査・観測を成功させることができた。観測点へは陸路から近づくのは難かしく,ボートを用いて観測システムや観測者の輸送を行ったが,観測期間中は風が強く波が荒かったようだが,これらの困難に果敢に立ち向かい実験を成功に導いた。今年度の研究実績をまとめると,(1)超高性能地震計が稼動し,順調に記録が取れ始めたこと,(2)フィリピン国では始めての研究を目的とした人工地震を用いた地震探査が行われたことがあげられる。後者の探査は,フィリピン側に大きな影響を与えると共に,日本側研究者にも種々の困難を乗り越え共同研究を行う重要さを教えてくれた点は貴重であった。平成5年度からも更に発展した形で国際学術研究が行われる予定である。
著者
安藤 雅孝 田部井 隆雄 渋谷 拓郎 大倉 敬宏 平原 和朗 鎌田 浩毅 石川 尚人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

[GPS観測]1.フィリピン諸島の南方の海域(モルッカ海)におけるプレート沈み込み様式を推定するために、インドネシア・スラウェシ島北東端のManadoとミンダナオ島中央のDavaoなど10カ所でGPS観測を行ない、これらの地域の変動速度を(傾斜角30度,固着域下限の深さ60km),南部では東傾斜モデル(傾斜角50度,固着域下限の深さ40km)が得られた。2.マコロード回廊周辺およびフィリピン断層沿いの14カ所でGPS観測を今年度も継続して行った。ユーラシアプレートに相対的な速度場を求めたところ、すべての観測点で西ないし北北西向きに5-9cm/yearの値が得られた。しかし、マコロード回廊の北側と南側ではユーラシアプレートに対する速度が系統的に異なり、マコロード回廊内および回廊の南側が、北側の地域に対して年間2cmの大きさで東ないし北東方向に変位していることが明らかになった。また、マコロード回廊内で2〜4×10E-7の南北ないし北北西-南南東方向の伸長成分が検出された。[地球年代学]フィリピン海溝での沈み込みの開始時期に制約を与えることを目的として,ルソン島ビコール半島の13の火山から37試料を採取し,そのK-Ar年代と化学組成の測定を行った.その結果,ビコール半島のフィリピン火山弧の活動は約7Maにまでさかのぼることが分かった.本研究のデータとSajona et al.(1993,1994)のデータをあわせてみると,沈み込みが北から南へ伝播したというモデルと調和的である.また,パラワンブロックの衝突時期が8-9Maと推定されていることと今回のデータは矛盾しない.[火山地質]1991年ピナツボ山噴火時に形成された火砕流堆積物に対して残留磁化の段階熱消磁実験を行った。結果、ある地点の試料は320-440℃まで温度領域で方向が類似する安定な磁化成分が検出された。これは、火砕流中央部が定着時に最大その温度まで上昇したこと示唆する。また、別の地点の試料のほとんどはマグネタイトのキュリー温度(580℃)までの温度領域で認められる類似した方向をもつ安定な一つの磁化成分を示した。このことは、その温度以上に最下部が上昇していた可能性を示す。