著者
白木 信義 福屋 真悟 久米 康隆 生駒 成亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1453, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】階段昇降動作の自立は日常生活における活動範囲へ影響を及ぼし,中でも降段動作は,前方降段のみならず側方降段,後方降段を行うことで機能代償を図ることもあり,その実用性について運動学的,運動力学的な調査を行った報告もみられる。降段動作は重心を前下方へ移動するため,支持脚においては主に膝関節伸展筋の遠心性収縮を求められる動作であり,矢状面における関節角度や関節モーメントの変化を調査した報告がみられる。しかし,降段動作における重心移動には,前額面における支持脚の股関節内転角度の変化も寄与していると想定されるが,そこに着目した調査はみられない。そこで今回,前方降段時と側方降段時における支持脚関節可動域の前額面,矢状面における角度変化の違いを調査し,運動学的な知見を得ることで動作特性の一部を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は整形外科的,神経学的疾患のない健常成人男性10名とした(年齢24.6±3.9歳,身長169.7±6.0cm,体重57.5±6.0kg)。降段動作は前方降段,側方降段の2種類とし高さ10cmの台からの降段動作を支持脚(上方脚)を左として実施した。動作開始,終了時とも,両上肢を胸の前で組み,体幹は伸展位とし,支持脚踵部は極力浮かさないよう指示した。その動作をビデオカメラにて前額面から前方降段,側方降段とも各3回ずつ,そして矢状面から同様に各3回ずつ撮影を行った。なお,ビデオカメラは三脚で固定し被験者からの距離は5mとした。支持脚の股関節内転角度を前額面から,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度を矢状面から計測するため,蛍光マーカーを前額面計測用に両上前腸骨棘,左膝蓋骨近位部に,矢状面計測用に左下肢の大転子,大腿骨外側上顆,外果,第5中足骨頭に貼付して撮影を行った。撮影完了後の動画データをArea61ビデオブラウザにて画像データに分割し,各動作開始直前肢位,そして各3回行った降段動作時における振り出し側の足部が床面につく直前のデータを抽出した。その各データにおける支持脚股関節内転角度,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度を,ImageJにて計測を行った。各動作時における足部が床につく直前の3回のデータについてはその平均値を採用し,その値と動作開始直前肢位の値との差から角度変化を求めた。その結果をもとに,前方降段時と側方降段時における支持脚股関節内転角度,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度の違いをそれぞれ対応のあるt検定にて比較検討した。【結果】股関節内転角度は,前方降段時3.8±2.8°,側方降段時1.5±1.6°となり有意に前方降段時が大きかった(p<0.05)。膝関節屈曲角度は,前方降段時38.2±6.0°,側方降段時30.3±4.7°となり有意に前方降段時が大きかった(p<0.01)。足関節背屈角度は,前方降段時23.2±5.0°,側方降段時16.0±6.5°となり有意に前方降段時が大きかった(p<0.01)。【考察】当初,前方より側方降段時の方が,支持脚股関節内転角度がより大きくなり,その分,膝関節の屈曲角度を減じることで,膝関節への負荷を減らした動作方略を取ると予測したが結果は違っていた。前方降段においては,振り出し側下肢の股関節屈曲,支持脚股関節より頭側の身体質量の前方移動に伴う前下方への加速度が発生するため,受動的に支持脚膝関節屈曲,足関節背屈が要求され,その加速度を制御するため支持脚膝関節伸展筋,足関節底屈筋には重心移動,加速度変化に伴う遠心性収縮の調整が要求されると考える。そのため,前方降段のほうが膝屈曲角度の変化が大きい状況であったと考える。加えて,前下方への重心移動を膝関節,足関節のみで制御するのではなく,支持側股関節にも,股関節内転での重心の下方移動が要求されるため,前方降段のほうが股関節内転の変化が大きい状況であったと考える。逆に,側方降段では,上記の重心移動,加速度変化は,前方降段時ほどは要求されず,支持脚の股関節外転筋,膝関節伸展筋,足関節底屈筋も制御しやすい状況となり,最低限の股関節内転,膝関節屈曲,足関節背屈角度にて降段動作が行えたのではと考える。しかし,それを証明するためには筋電図による計測や,関節モーメント,床反力などの運動力学的な評価を加える必要があると考えるため今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】降段動作の動作特性を運動学的,運動力学的に詳細に把握することで,理学療法における各関節への負担を考慮した動作指導,治療の実施へつなげることが可能になると考える。
著者
成政 貴弘 田中 佑一 福島 遼太郎 西牟田 亮 西原 翔太 杉本 瑞歩 生駒 成亨
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0614, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】スタティック・ストレッチング(以下,SS)の効果として関節可動域拡大が報告されている一方,近年はSS直後の筋力低下が指摘されており,運動療法やスポーツの直前など,場合によっては対象者に不良な効果となる報告も散見されている。多くの先行研究ではSSの時間や実施後の筋力やパフォーマンスに注目しており,柔軟性の違いとSS前後の関節可動域(以下,ROM)や筋力変化の関連性についての報告は未見である。両者の関係を明らかにすることで柔軟性の違いを参考にSSを実施する指標の1つとなると考え,本研究では筋の柔軟性の違いとSS前後のROM,膝関節屈曲等尺性筋力の関連性を明らかにすることとした。【方法】対象は健常人男性18名36脚(平均年齢:24.7±3.1歳)で,対象筋をハムストリングスとした。測定は対象者のSS前後でROM測定と筋力測定を行った。SS前の筋力測定から5分経過後にSSを実施し,SS直後にROM測定をしてSSから3分経過後に筋力測定をした。SSとROM測定は背臥位で骨盤と非検査側の大腿部をベルトで固定した。ROM測定はStraight Leg Raising(以下,SLR)角を2名で測定し,疼痛閾値直前にて1°刻みで1回測定した。SSは股関節最大屈曲位から膝関節伸展を他動運動で実施し,痛みの感じない最大伸張位にて2分間実施した。筋力測定は,BIODEX system4を用いて膝関節屈曲45°で3秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を30秒のインターバルを挟み3回測定し,最も高いトルク値を最大トルクとした。統計学的処理は,正規性を確認した後,SS前のROMとその変化量の関係及び最大トルクの変化量をピアソンの相関係数にて分析し,統計学的有意水準を5%未満とした。【結果】SS前のROMが66.2±9.1(°),SS後のROMが74.3±10.9(°),ROMの変化量が-8.1±5.4(°)であり,SS前のROMとその変化量に有意な相関は認められなかった。しかし,SS前の最大トルクが89.0±14.7(Nm),SS後の最大トルクが84.2±13.4(Nm),最大トルクの変化量が4.8±7.5(Nm)であり,SS前のROMと最大トルクの変化量は有意な正の弱い相関(r=0.39,p<0.05)が認められた。【結論】SSによる筋力変化の生理学的な反応として,筋繊維の筋節が伸長される事が報告されている。また,足関節底屈位で1週間不動化させたラットの柔軟性低下と筋節の短縮が報告されており,柔軟性の低下している筋は筋節が短縮していると推察する。筋力と筋節の関係は同様の関節角度でも筋節が至適長のときに筋力は発揮しやすいと考えられており,柔軟性の低い対象者,高い対象者共に同様のSSによる筋節の伸張が生じたが,柔軟性の低い対象者はSS前の筋節が短縮しており,柔軟性の高い対象者より至適長から筋節の伸張が少なかったため筋力低下が少なかったと考える。本研究結果により,SSは対象者の柔軟性によって実施後の筋力変化が異なる可能性が示唆された。SSは対象者の柔軟性の違いによる筋力変化や目的,用途を考慮した上で実施することが必要と考える。
著者
小田 辰也 岩切 大輔 生駒 成亨 田中 信行
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.86, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】びまん性軸索損傷(diffuse axonal injulry 以下DAI)は6時間以上の意識障害に加え、画像上その原因としての頭蓋内点処病変を認めず低酸素や脳虚血によらない遷延するびまん性脳損傷を指す.一般的にDAI後の予後は不良とされる報告が多く、長期的な経過を辿る例も少なくない.今回、DAIにて予後不良が予測されたが良好な経過を辿った学童について、文献的考察を交え以下に報告する.【症例紹介】11歳男児.自宅ロフトから転落し受傷.搬送時GCSは7点(E1V2M4).24時間以上の意識消失あり.MRIにて脳梁後部・峡部・膨大部への挫傷、多発点状出血痕を確認.CTにて約4mmの正中構造偏位を確認.医師よりDAI、骨盤骨折、肝損傷と診断.同日入院の運びとなる.【経過及び所見】受傷2日目、理学療法士、言語聴覚士介入開始.受傷10日目、作業療法士介入開始.介入時GCSは11点(E4V2M5).利き手は右.常時苦悶様表情.発話は奇声のみ.口答指示・文書理解困難.身体機能面は左側良好.麻痺症状はないが右側上下肢運動無視あり.上下肢深部腱反射は亢進.バビンスキー反射は右陽性、左陰性.足クローヌスは右陽性、左陰性.高次脳機能面は紙面上検査困難.観察、保護者情報より注意機能低下、発動性低下、易疲労性、衝動行為、性格変化、興味欠損を確認.FIM45点.実用歩行困難.摂食嚥下、呼吸、排泄は良好.受傷14日目、実用歩行獲得も右側上肢運動無視継続.課題指向型の食事動作訓練導入.評価手段としてshapingを作成し段階的難易度を指定.介入時は右手での物品使用困難.易疲労性と注意転動のしやすさから、途中で席を立つ、手掴みで食べる等の行為が頻発.受傷18日目、右手の補助的使用を確認.受傷21日目、右手で道具を使用し全量摂食可.左手の補助的使用を確認.受傷24日目、MRIにて浮腫減少を確認.shaping上の課題はすべて獲得.単語レベルの発話出現.内容は他罰的で脈絡を欠くものが主.簡単な音読、文書理解可.易怒性、衝動行為は残存.受傷26日目、誘因なく言語機能、衝動行為改善.受傷前後の記憶あり.紙面上検査可.記憶、知能、遂行機能、語彙年齢良好.選択性注意、語の流暢性に問題あり.FIM109点.自宅復帰可能と判断され、受傷33日目、自宅退院の運びとなる.【考察】本症例の意識消失時間、CT所見よりGennarelliらの分類の中等度DAI.TCDBにおけるCT分類のびまん性脳損傷Ⅱと考えた.これら分類の転帰良好率は30%台と低く、予後不良と長期的経過が予測された.臨床症状・画像所見より、右側上下肢運動無視は左側皮質脊髄路由来の神経線維への軸索流途絶に加え、肢節運動失行・補足運動野由来の症状が考えられた.言語障害は前頭葉内側部症状を主に呈し、尚且つ聴覚理解・復唱・呼称障害から運動性失語が考えられた.上記症状遷延によりlearned non-useによる左半球退行障害併発を予測.予後不良に拍車をかける危険性が考えられた.その予測に反し、受傷26日目、誘因なく言語機能、情動面の改善を確認.その要因として浮腫軽減による軸索流改善は勿論、小児特有の脳可塑性の高さが影響したと考えられた.また、脳幹網様体からの上行性投射による大脳皮質への賦活が阻害されなかったことも、症状改善に寄与したと考えられた.上記要因と訓練によるneuro feedbackにより脳機能再構築が促進された結果、機能改善に至ったと考えた.小児中途障害例は、先天障害例と比較し障害部位が多彩な為、体系化された対処手段が構築されていないのが現状である.今後、DAI後の転帰不良因子の比較検討を行い、予後予測の判定等に役立てられるようにしていきたい.【倫理的配慮,説明と同意】報告にあたり、当院の倫理委員会の承認(承認番号16-003)及び、対象者、家族の同意を得た.