著者
山中 すみへ 田中 界治 田中 久雄 西村 正雄
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.307-313, 1977 (Released:2010-03-02)
参考文献数
31

歯科診療においてアマルガムは重要な充填材料であるが, アマルガム使用による水銀の環境汚染が新たな問題となってきた。とくに最近, 河川や魚介類の水銀汚染が社会問題になり, 排水基準も5ppb以下に規制されるようになった。そこで, 歯科診療における各ステップの排水や排水口のスラッジ, 周辺の土壌などの水銀濃度を分析して, 歯科診療による水銀の排出, 環境への汚染の実態を調べた。バキューム管で吸引され。汚物水, うがい水, ユニット直下の排水, そして歯科診療所の最終排水と大量の流水に希釈されるに従って排水中水銀濃度が減少しているが, 排水を通じての水銀の放出は決して少なくはないことが明らかとなった。とくに最終排水中水銀濃度は平均値で11.3ppbであり, ほとんどの歯科診療所は現在の排水基準値の5ppbを上まわっていた。また歯科診療所周辺の土壌中にも比較的高い水銀濃度を認め, さらに排水口のスラッジでは10600ppmと非常に高く排水中の水銀を濃縮していることを示した。以上のことから歯科診療から排出された無機水銀は, メチル水銀に変換する危険性が余りないとはいえ, 排水を通じて環境への水銀汚染は, 土壌やスラッジヘの蓄積によりかなり高濃度となっていることが明らかとなったので, 対策の必要性を改めて確認した。