著者
田中 総一郎
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.77, 2017

第43回日本重症心身障害学会を、杜の都仙台で開催させていただくことになりました。今回のテーマは「重症心身障害児者のいのちを育むこころと技」です。ご家族、医療、福祉、教育、行政などさまざまな立場の皆さまが、大切に重症心身障害児者のいのちを育まれてきた、そのこころと技を持ち寄る場所になり、お互いのはげみになればうれしく存じます。本学会の会員は、医療職、教職、福祉職と幅広く約2,000人の先生方によって成り立っています。多職種連携のキーワードは、相手に対する「リスペクト」と「おおらかさ」といわれます。それぞれ受けてきた教育や専門とする分野は違っても、同じ方々の幸せを願っています。生命を守る医療の視点と生活の豊かさを創る教職と福祉の視点、この両眼を大切にしていきたいですね。教育講演では、長年にわたって重症心身障害教育に尽力してこられた東北福祉大学の川住隆一先生と、多職種連携や地域包括ケアなどこれからの在宅医療の考え方について医療法人財団はるたか会の前田浩利先生にお話しいただきます。平成23年の東日本大震災と平成28年の熊本地震の経験は、重症心身障害児者の防災に大きな教訓を残しました。シンポジウム1「災害に備えて−たいせつにしておきたい普段からのつながり−」では、宮城と熊本から、医療が必要なこどもたちの災害時の対応と地域づくり・街づくりを大切にした復興についてお話しいただきます。シンポジウム2「家族と暮らす・地域で暮らす−重症心身障害児者の在宅医療・家族支援−」では、大切に守り育てられた重症心身障害の方々の在宅医療と家族支援をどのように地域で展開していけばよいかを考えてまいりたいと思います。シンポジウム3「重症心身障がい児者と家族の生活世界を広げる支援」では、小児訪問看護の視点から子どもや家族に寄り添った支援制度のあり方を討論いただきます。昨年好評をいただきました看護研究応援セミナーは、今年も引き続き第2回を開催いたします。また、今回から新しい試みとして、講義と実技を組み合わせたハンズオンセミナーを行います。「重症心身障害児者の伸びる力を信じる食事支援」では、実際に再調理したり食べたりする経験を通しておいしく楽しい食事支援を学びます。「呼吸理学療法・排痰補助装置」では、急性期と慢性期の呼吸理学療法の実際と排痰補助装置を実技研修で体感します。それぞれ第2部の実技は事前登録制ですが、第1部の講義はどなたでも聴講できますので当日会場へお越しください。2日目の午後は市民公開講座として広く一般の方々にもお越しいただける場としました。本学会の目玉であるファッションショーは、地元のファッション文化専門学校DOREMEと陽光福祉会エコー療育園のご協力をいただき、7人のモデルさんがドレスや着物などで登場します。特別講演「生きることは、聴くこと、伝えること」では、仙台市在住の詩人、大越桂さんと昭和大学医療保健学部の副島賢和先生による対話形式で、いのちと言葉についてお話しいただきます。大越さんは、出生時体重819グラム、脳性まひや弱視などの障がいや病気と折り合いながら生きてきた重症心身障害者です。「自分は周りが思うより、分かって感じているのに伝えられない。私はまるで海の底の石だった。」喉頭気管分離術を受けた後に13歳から支援学校の先生の指導のもと筆談を始めました。今は介助者の手のひらに字を書いて会話します。「生きることを許され、生きる喜びが少しでもあれば、石の中に自分が生まれる。」副島先生は昭和大学病院の院内学級の先生です。病気の子どもである前に一人の子どもとして向き合ってこられました。「もっと不安も怒りも表に出していいよ。思いっきり笑って自分の呼吸をしていいんだよ」と子どもをいつもそばで支えてくれます。皆さまご存知の小沢浩先生も絡んで、楽しい時間となるでしょう。一般演題には303演題の申し込みをいただきました。プログラム委員会の審議の結果、口演141題、ポスター162題と決定いたしました。プログラム委員会の先生方にはお忙しい中を本当にありがとうございました。この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。プログラム委員会(敬称略、50音順)相墨 生恵 植松 貢 遠藤 尚文 小沢 浩 梶原 厚子 菅井 裕行 田中総一郎 遠山 裕湖 冨樫 紀子 萩野谷和裕 前田 浩利爽やかな秋の仙台で、皆さまにお目にかかれますことを楽しみにいたしております。
著者
小林 康子 田中 総一郎 大沼 晃
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.153-158, 2003-03-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
12
被引用文献数
2

“哺乳ビン依存状態” と考えられる発達障害児5例 (男児4, 女児1) (本症診断時年齢2.9±0.9歳) を検討した. 全例において中等度~重度発達遅滞 (DQ17~37: 本症診断時) を認めた. 全例, 口腔異常反射なく, 準備期, 口腔期, 咽頭期にも問題はなかった. 全例, 哺乳ビンからのミルク摂取は可能であるが, 離乳食に対しては強い拒否的反応を示し, 長期間離乳食を摂取していなかった. これらの症例に対し, 一時的に抑制して強制的に食べさせることを試みたところ, 予想に反して離乳食摂取は短期間で可能となった. 本症の拒否的反応は, 必ずしも離乳食摂取の拒否を意味していないと考えられた. 離乳食摂取時の強い拒否的反応を摂食拒否ととることが, 本症をつくる一因となるのかもしれない. また, 対策として摂食時の抑制と同時に, 哺乳ビンの中止も効果的であった. 本症では, 飲む, 食べる機能の切り換えがうまくいかない可能性も示唆された. 長期間離乳食が進まない発達障害児の場合, 本症も念頭において対応する必要があると思われた.
著者
田中 総一郎
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.47-48, 2014 (Released:2021-08-25)

Ⅰ.災害から逃げのびる 東日本大震災による被害者の死因の90.5%が溺死であった。また、被災3県の障害者手帳を有する方の死亡率(1.5%)は、一般の方(0.8%)の約2倍に及んだ。これは、障害児(者)を津波被害から守る避難支援の方策が機能しなかったことを物語る。2005年に内閣府は、自力では避難することができない高齢者や障害者の避難を支援する「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を策定した。2012年には、全体計画は87.5%の市町村で策定済であったが、個別計画は33.3%に過ぎなかった。宮城県の医療を必要とする子どもたち113家庭を対象としたアンケート調査(2012年10月)では、このプランを知らなかったのは57.2%、この制度に登録していないのは79.6%であった。また、震災時に登録していた15人のうち実際に援助が得られたのは3人(20%)であった。今後の周知と、実際の支援を見直す必要がある。 Ⅱ.安全に過ごせる場所を見つける 1995年の阪神淡路大震災では、神戸市内養護学校の児童生徒262人の59%が自宅に留まり、39%が避難した。その避難先は、避難所が10%、親戚・知人宅は28%であった。東日本大震災では、医療を必要とする子どもたちの家庭の62%が自宅に留まり、38%が避難した。その避難先は、避難所が12%、親戚・知人宅が12%、自家用車内が11%であった。避難所を選択しなかった理由として、夜間の吸引音や、奇声を発する子どものことを気兼ねしたことが多くあげられた。阪神淡路大震災から東日本大震災の間、16年経っても、避難所は障害児(者)にとって避難しにくいところのままであった。 子どもたちが普段通いなれている学校や施設が福祉避難所になることは、安否確認、必要な物資の把握、子どもたちの精神的安定のためにも今後取り組まれるべき方策であると思われる。 Ⅲ.普段からの防災 人工呼吸器や吸引器など電源が必要な家庭では、電源の確保や自家発電機、電源を必要としない手動式・足踏式吸引器が注目を集めた。学校や福祉施設への自家発電機の配置、常時服用している薬剤のお預かりなど、防災への意識も高まっている。 子どもの薬剤は、錠剤やカプセルを常用する大人と違い、散剤やシロップが多く、詳細な情報がないと処方しにくい特性がある。薬を流失した、または、長期にわたる避難生活で内服薬が不足したときに、遠くの専門病院まで処方を受けにいくことは困難である。今回の教訓として、処方内容や緊急時の対応法などを明記した「ヘルプカード」の作成と携帯が提案されている。医療と教育、福祉が協力して推進すべき課題である。 Ⅳ.それでも困ったときは 災害時の備えを十分に行っても、「想定外」な不測の事態は起こりうる。このようなときに頼りになるのは、普段からのつながり、信頼関係、きずなである。 たび重なる津波被害を受けてきた三陸地方に伝わる「つなみてんでんこ」は、「津波のときは人に構わず、一人ひとりてんでに逃げる」ような一見冷たい印象を与えるが、実際には異なる。「家の人が戻ってくるまで家で待っている」子どもがたくさん犠牲になったこの地方では、「お母ちゃんはちゃんと逃げているだろう、だからボクも待っていないで一人で逃げる。そうすれば、あとで迎えにきてくれるはずだ」と子どもたちに教えているという。普段からの信頼関係があってはじめて、「つなみてんでんこ」は成立するのである。 このような悲惨な体験から立ち上がる力(レジリエンシー)を次世代に育むためには、絆を信じる力が重要である。負の遺産を正の遺産に変えていくためのキーワードは、この「絆を信頼する力」であるといえる。
著者
田中 総一郎
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-2, 2017

第43回日本重症心身障害学会を、杜の都仙台で開催させていただくことになりました。今回のテーマは「重症心身障害児者のいのちを育むこころと技」です。ご家族、医療、福祉、教育、行政などさまざまな立場の皆さまが、大切に重症心身障害児者のいのちを育まれてきた、そのこころと技を持ち寄る場所になり、お互いのはげみになればうれしく存じます。また、副題を「うまれてきてよかったと思える社会作り」といたしました。病気や障害のために生きづらさを抱えた方々ですが、日々携わる私たちはその幸せをいつも願っています。そして、その笑顔が実は私たちの幸せでもあることに気づきます。お互いに支え支えられる関係から、うまれてきてよかったと思える社会を作りたいですね。特別講演「生きることは、聴くこと、伝えること」では、仙台市在住の詩人、大越桂さんと昭和大学医療保健学部の副島賢和先生による対話形式で、いのちと言葉についてお話しいただきます。大越さんは、出生時体重819グラム、脳性まひや弱視などの障がいや病気と折り合いながら生きてきた重症心身障害者です。「自分は周りが思うより、分かって感じているのに伝えられない。私はまるで海の底の石だった。」喉頭気管分離術を受けた後に13歳から支援学校の先生の指導のもと筆談を始めました。今は介助者の手のひらに字を書いて会話をします。「生きることを許され、生きる喜びが少しでもあれば、石の中に自分が生まれる。」副島先生は昭和大学病院の院内学級の先生です。病気の子どもである前に、一人の子どもとして向き合ってこられました。「もっと不安も怒りも表に出していいよ。思いっきり笑って自分の呼吸をしていいんだよ」と子どもをいつもそばで支えてくれます。皆さまご存知の小沢浩先生(島田療育センターはちおうじ)も絡んで、楽しい時間となるでしょう。平成28年6月3日に公布された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」では、医療的ケア等を必要とする障害児が適切な支援を受けられるよう、保健、医療、福祉その他各関係分野の連携推進に努めることとされています。これからは、自らの専門性を高めることと同じくらいに、いかに他分野の方とコラボレーションできる力があるかが問われます。教育講演1「超重症児(者)への療育・教育的対応について」では、長年にわたって重症心身障害教育に尽力してこられた東北福祉大学の川住隆一先生にお話しいただきます。教育講演2「重症心身障害児(者)の在宅医療のあり方」では、医療法人財団はるたか会の前田浩利先生に、多職種連携や地域包括ケアなどこれからの在宅医療の考え方についてお話しいただきます。平成23年の東日本大震災と平成28年の熊本地震の経験は、重症心身障害児(者)の防災に大きな教訓を残しました。シンポジウム1「災害に備えて~大切にしておきたい普段からのつながり~」では、座長を仙台往診クリニックの川島孝一郎先生にお願いして、震災後早くから被災地の在宅医療に力を注いでくださった石巻市立病院開成仮診療所の長純一先生、障害者や高齢者を巻き込んだ町内会作りを提唱する大街道おたがいさまの会の新田理恵さん、人工呼吸器の子どもたちをいち早く医療機関へ収容してくださった熊本再春荘病院の島津智之先生、安心できる日常生活への復帰のシステム作りを準備してくださった社会福祉法人むそう戸枝陽基さんにお話しいただきます。シンポジウム2「家族と暮らす・地域で暮らす~重症心身障害児者の在宅医療・家族支援~」では、座長をさいわいこどもクリニックの宮田章子先生にお願いして、福井県で初めての在宅医療専門クリニックを立ち上げたオレンジホームケアクリニックの紅谷浩之先生、0歳から100歳までなんでも相談に応じることで切れ目のない看護を実践されてきた医療法人財団はるたか会の梶原厚子さん、日本初の医療的ケアの必要な子や重症心身障害児の長時間保育を実施する障害児保育園ヘレンを開園された認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さん、相談支援専門員として理学療法士として保育士として子どもとご家族に寄り添う社会福祉法人なのはな会の遠山裕湖さんにお話しいただきます。今回から新しい試みとして講義と実技を組み合わせたハンズオンセミナーを行います。つばさ静岡の浅野一恵先生には「摂食嚥下療法・まとまり食」について、うえだこどもクリニックの上田康久先生と群馬県小児医療センターの臼田由美子先生には「呼吸理学療法・排痰補助装置」についてコーディネートしていただきます。参加人数に限りがございます。お申込み方法など詳細はホームページに記載いたしますので、皆さま奮ってご参加ください。一般演題やポスター発表など、多数ご応募いただけましたら幸いに存じます。爽やかな秋の仙台で、皆さまにお目にかかれますことを楽しみにいたしております。