著者
田中 繁史
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究の目的シバ草地は生産性が高く,一度定着すれば無施肥でも良質な草資源として長期にわたり利用可能で低投入・環境保全的であると同時に,生物多様性の維持,土壌流〓防止,景観維持など,多面的機能も非常に高い。荒廃人工草地をシバ草地へ更新する場合,シバは被陰に弱く,周囲の雑草との光競合に負けてしまうことが多いため.定着までには繊細な管理が必要である。特に放牧管理下では嗜好性の悪いエゾノギシギシやヒメスイバなどの雑草が残り,繁茂してしまう。そこで,荒廃革地の早期シバ草地化を目的として,(1)放牧管理下(20ha,うち草地3.1ha/日本短角種,計8頭,246-546kg,定置放牧)にある移植2年目のノシバ苗を対象に掃除刈りの効果を検証することとした。また,近年開発されたシバ新品種"たねぞう"は,匍匐茎の数が多くかつ長く,生育が早いことから,良好なシバ放牧地の造成が可能であると期待されている。そこでたねぞうの有用性を確認することを目的に,(2)たねぞう苗とノシバ苗の糞上移植後の初期定着の比較(定着評価,草高)を行った。結果および考察(1)ハンマーナイフモアによる掃除刈り約2ヵ月後のノシバ出現メッシュ数(1メッシュ5cm×5cm)は,掃除刈り無区21±26.8メッシュに対して,有区27±16.2メッシュであり,有意な差はなかった(t検定)。掃除刈りの頻度が年1回であることおよび放牧圧が高い環境下だったことが影響していると考えられた。(2)糞上移植したノシバ苗とたねぞう苗の初期定着を明らかにするために移植約3ヵ月後に,旺盛(A)から枯死(D)までの4段階(A~D)で評価した結果,定着と評価した苗(A評価+B評価)の割合はノシバ46.2%に対してたねぞう72.2%であり,たねぞうの高い活着力が明らかになった(P<0.01, Mann-Whitney検定)。一方,定着と評価した苗の草高(平均±標準偏差)は,ノシバとたねぞうでそれぞれ10.34±3.26cm(n=6)および13.07±2.75cm(n=13)であり,両間で有意な差はなかった(t検定)。
著者
小倉 振一郎 佐藤 衆介 田中 繁史 菅原 英俊 松本 伸 阿部 國博 清水 俊郎 小寺 文
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.153-159, 2008-07-15

近年、わが国の養蚕業の衰退にともない遊休桑園が急速に増加している。その対策の一つとして、肉用牛による桑園の放牧利用が注目されている。桑は草食家畜に対して高蛋白かつ高消化性であることに加え、生産力が高いことから、飼料資源としてきわめて有用である。また、牛放牧による遊休桑園利用は、省力的に荒廃地の植生管理ができるほか、未利用資源が家畜生産に貢献するというメリットがある。電気牧柵による小規模放牧方式の導入により、省力的にかつ低コストで桑園の畜産的利用が可能である。すでに福島県では、電気牧柵による黒毛和種の放牧とマクロシードペレットを組み合わせることにより遊休桑園を牧草地化できることを実証している。宮城県においては、気仙沼・本吉地域一帯が、かつて東北地方の中でも福島県阿武隈地域、宮城県丸森地域と並んで養蚕業が盛んな地域であったことが知られている。しかし近年、遊休桑園が急速に増加し、荒廃化が急速に進行しているため、その対策が喫緊の課題となっている。こうした背景から、地域環境の保全および農林業の活性化を図るため、2005年秋に同地域内の南三陸町の遊休桑園において、黒毛和種の放牧が開始された。桑園放牧の普及にあたっては、桑の生産性と化学成分、ならびに放牧牛の行動、健全性といった基礎的知見の集積が不可欠であるが、こうした知見はこれまでにほとんど得られていない。そこで、南三陸町の遊休桑園における桑葉の現存量および化学成分、ならびに放牧牛の行動と血液性状からみた健全性について実証試験を行ったので報告する。