著者
奥田 耕助 田中 輝幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.183-186, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
28

Cyclin-dependent kinase-like 5(CDKL5)遺伝子はXp22領域に位置し,mitogen-activated kinases(MAPKs)およびcyclin-dependent kinases(CDKs)と相同性のあるリン酸化酵素CDKL5をコードする.2003年以降,早期発症難治性てんかんを伴う重度発達障害である「X連鎖性ウエスト症候群」および「非典型レット症候群」の患児においてCDKL5遺伝子変異の報告が相次ぎ,CDKL5はてんかん・発達障害の原因遺伝子として注目を集めている.CDKL5遺伝子の主な病因変異は,リン酸化酵素活性の阻害かタンパク質自体の喪失を来すloss-of-function変異である.CDKL5タンパク質は神経細胞の核と細胞質に分布し,細胞質では成長円錐,樹状突起,樹状突起スパイン,興奮性シナプスに局在する.これまでにCDKL5は,Rho-GTPase Rac1と相互作用し,BDNF-Rac1シグナリングを介して神経細胞樹状突起の形態形成を制御すること,興奮性シナプス後部においてNGL-1をリン酸化し,NGL-1とPSD-95の結合を強化し,スパイン形態とシナプス活動を安定化すること,さらにパルミトイル化PSD-95と結合し,その結合がCDKL5のシナプス標的と樹状突起スパイン形成を制御することなどが明らかにされた.また2つの研究室からCdkl5ノックアウトマウスの作製・解析が報告され,活動性変化,運動障害,不安様行動の減少,自閉症様の障害,恐怖記憶の障害,事象関連電位の変化,複数のシグナル伝達経路の障害,けいれん誘発薬に対する脳波反応の異常,樹状突起の分枝異常,歯状回神経新生の変化などが同定された.以上の結果と我々独自のデータから,CDKL5は興奮性シナプス伝達を調節し,ヒトのCDKL5変異に伴う病態がシナプス機能異常であることが示唆される.
著者
稲津 哲也 田中 輝幸 片山 将一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

Cyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5)はタンパク質リン酸化酵素であり、その遺伝子の変異は精神発達遅延、てんかん等を伴う重篤な疾患であるレット症候群を発症させることが知られている。しかし、有効な治療法は存在しない。本研究では、日本古来より用いられる漢方薬である「抑肝散(ヨクカンサン)」を用い、ヒトiPS細胞、Cdkl5ノックアウトマウス(KO)等における抑肝散の効果について検証し、最終的に有効成分の単離を実施し、レット症候群(特にCDKL5 欠失症(CDKL5 deficiency disorder))の治療薬創製を最終的な目標と定める。