著者
田原 モト子 岸田 恵津 三崎 旭
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 : Nippon eiyo shokuryo gakkaishi = Journal of Japanese Society of Nutrition and Food Science (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.111-118, 2000-06-10
参考文献数
28
被引用文献数
1

北アメリカ原産のイネ科マコモ属の単子葉植物, ワイルドライス (<i>Zizania palustris</i>) は, その独特の風味が好まれている。我々はその特異なテクスチャーに関連する成分としてデンプンおよび細胞壁多糖に着目し, ワイルドライス製品の多糖成分の分画を行い, 特にデンプンの性状を調べた。<br>1) ワイルドライス粉末からアルカリ浸漬法によりデンプンを分離し, この上清からエタノール沈澱により水溶性多糖を分離した。ふるい上の残渣を脱脂・除タンパク後再度デンプンを分別し, 不溶性残渣から細胞壁標品を得た。<br>2) ワイルドライスからのデンプンの収量は30.5%であり, ウルチ米の半分以下であった。ワイルドライスの細胞壁標品の収量 (3.54%) は, ウルチ米 (0.12%), モチ米 (0.3%) と比較すると, 細胞壁の含量が著しく高いことを示唆している。<br>3) デンプン画分の走査電子顕微鏡写真から, ワイルドライスのデンプン粒の形はウルチ米と類似の多面体で, サイズはやや小さく, 1.5-6μm程度の粒径であった。細胞壁標品の走査電子顕微鏡像から, ワイルドライスの細胞壁はウルチ米に比し相当厚く強固な様子が観察された。<br>4) デンプンをイソアミラーゼおよびプルラナーゼで完全に分枝切断し, ゲルろ過により鎖長分布を調べた結果, ワイルドライスのFr. I (アミロース) の比率は23.8%で, ウルチ米よりかなり高かつた。一方, Fr. III (アミロペクチンの短鎖長, DP 10-30) とFr. II (長鎖長, DP 30-60) の比は3.5で, ウルチ米 (2.6) よりも大きかった。<br>5) 上記の枝切りデンプンの精密鎖長分布を, 陰イオン交換高速液体クロマトグラフィーにより解析した結果, 短鎖部分の鎖長分布はワイルドライスでは11糖が最多で, またウルチ米, モチ米と比べて10-14糖部分の含量 (モル%) が高く, アミロペクチンの微細構造も米とは異なることが示唆された。