- 著者
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田口 雄作
吉川 清志
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 地理学評論 (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.11, pp.769-779, 1983-11-01 (Released:2008-12-24)
- 参考文献数
- 11
- 被引用文献数
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1981年8月24日午前2時12分頃,利根川支流小貝川の左岸堤防が,台風8115号のもたらした降水による増水のため,茨城県竜ヶ崎市内で決壊した.冠水域は竜ヶ崎市を中心に,約3,300haに及んだ. 筆者らは,冠水域内の165地点の標高点において,洪水痕跡から浸水流の最高水面標高の測定を行なった.また,氾濫時に撮影された空中写真の判読等によって検討を加えた結果,浸水流の挙動に関し,次のような知見を得た. (1) 浸水流は北上流,直進流,南下流の3つの主要な流下方向を有していた.このうち,最も水勢が強く,浸水流の主流となったのは南下流であった. (2) 浸水流は水勢の強い時には,地表面の起伏にあまり支配されずに直進するが,流心から離れるに従って,あるいは水勢が弱まるに従って,地表の低まりに追従する. (3) 論所排水は,洪水排水総量は多かったかもしれないが,浸水流の主要な流路ではなかった. (4) 江戸時代に築かれた内堤防の存在の有無が,今回の冠水域の拡大に,大きな影響を及ぼした. (5) 古文書など諸資料から,経験的な土地利用,防災対策を読み取り,活用することは,現代社会にとっても大いに重要である.