著者
田宮 聡 岡田 由香 小寺澤 敬子
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.450-457, 2016 (Released:2019-08-21)
参考文献数
23

多言語環境が子どもの言語発達に及ぼす影響についての理解を深めるために,日英のバイリンガル環境で生まれ育ったA(女児)の言語発達について報告した。Aは生下時から日英両語に暴露されうる環境で生活していたが,両語の発達はともに遅れていた。その遅れがバイリンガル環境のためと説明されたこともあったが,保護者はAの発達を心配し,小学1年生で帰国して児童精神科を受診した。Aには言語発達遅滞以外に,社会性やイマジネーションの困難さとともに知的能力障害も見られ,自閉症スペクトラム障害と診断された。Aの日本語の発達については,語彙の乏しさ,単語の形態の誤り,文法の誤り,会話のかみ合わなさなどが観察された。これらの問題を,バイリンガル特有の言語特性である,転移,プロフィール効果,コードスイッチングとの関連で考察した。Aの日本語の遅れはバイリンガル環境によるものではなく,発達の問題であると考えられた。
著者
田宮 聡
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.277-281, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
5

自閉症スペクトラム障害 (ASD) と多言語使用に関して以下の 3 点を取り上げる。  ①多言語環境は ASD 児の言語発達に悪影響を及ぼさないか?  ② ASD 児が多言語を習得することは可能か?  ③子どもの言語発達の問題は多言語環境の影響か? 障害か?  ①と②についてはカナダの研究を紹介する。この研究では, ASD 児 75 名 (平均年齢 4 歳半) を, モノリンガル群, 同時バイリンガル群, 継起バイリンガル群に分けてその言語発達について検討した結果, 3 群間に有意差は認められなかった。現在では, 多言語環境は ASD 児の言語発達に悪影響を及ぼすことはなく, ASD 児が多言語を習得することは可能と考えられている。  ③については, 多言語使用児の言語発達を評価する際には, 多言語使用にみられる特徴を念頭に置く必要があることを症例 A 子を通じて示す。A 子は, 英語が使用される海外の地域で育った。コミュニケーションの困難さのために 7 歳時に児童精神科を受診したが, A 子の言語発達の問題は多言語環境によるものではなく, ASD によるものと考えられた。