著者
廣野 知子 田島 徹朗 廣野 拓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0291, 2004

【はじめに】今回、先天性両上肢欠損女児を担当する機会を得た。両上肢の欠損が先天性ということもあり、これまでにほとんどのADLを、両下肢と残存上肢によって獲得している。また、学校生活においても普通小学校であるにも拘わらず、30人といった小規模校で複式学級であるため、級友や学校の受け入れ態勢が整っている。なお、いじめ等の問題もなく、クラブ活動をはじめ社会参加も積極的に行なわれていた。しかし、第二次成長期(思春期)にさしかかるに伴い、機能的・心理的問題に変化が生じ、特に、女性特有の月経処置動作が問題となってきた。今回、機能面を考慮しつつ、月経処置動作について、若干の考察を加え報告する。<BR>【症例】10歳女児 診断名:先天性両上肢欠損(原因は不明)身長142.0cm 上肢長右20.0cm、左29.0cm(骨折による内反変形強度)左上肢は、X-P上、肘関節が確認できるが、関節機能は有しておらず、骨性強直状態である。来院目的として、成長に伴う1)新たな義手作成、2)月経の処置方法、3)ハムスト短縮に伴うADLの制限、4)肩甲帯挙上および外転変形(左>右)が上げられる。<BR>【経過及び考察】現在、6歳時に作成した両上腕義手(両側フック)にて、義手の基本操作は獲得されている。また、ADLは、両下肢と残存上肢の機能のみでほぼ自立している。しかし、更衣動作において、下着を上げる動作は、右側が短肢であるため十分に引き上げられず、介助を要することが多い(ゴムの緩いものであれば可能)。現在、対策として新しい電動義手を用いることを検討してはいるが、機器の対応サイズ・重量・左上肢の変形の問題により、使用に十分耐えうる義手の早急な作成が難しい状況である。また、本人・両親は義手なしでの動作獲得も希望しているため、同時に両下肢と残存上肢での動作獲得も目標として取り組んでいる。本症例は、障害が先天性であることから、上・下肢に十分な機能を有しているため、それを生かし、環境を整備することを一番に考えた。まず、1)月経処置動作を多種多様の生理用品サンプルを利用して、実際に行わせ、その方法を検討した。2)トイレは、洋式を想定し、上・下肢にてナプキンをショーツにセッティングできるように、前方に15cmの台を設置した。しかし、この環境設定は、自宅及び学校等の限られた生活範囲内での問題は解消されるものの、その他の場面においては十分とはいえず、現在もその方法を検討中である。また、下着を上げる動作において、生理用ショーツは、肌への密着度が非常に高く、自力での着用が困難となっている。このため、ショーツにリング・フックを取り付けるなど、自力での着用ができるよう考案中である。また、今後は、子供から大人へと心理面の変化も伴うため、心のケアも含め、社会に対する適応性を高めることを課題にしながら、当面は中学校進学への準備(環境設置等)に取り組んでいく予定である。