著者
田島 照久
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、キリスト教による再解釈によってゲルマン的民間習俗が現在のキリスト教文化圏とくにドイツ語文化圏に残存している状況を、調査を通じてうかびあがらせ、さらに教会暦のうちに取り込まれたゲルマン的要素をキリスト教の祝祭の調査分析を通じて明らかにすることができた。さらにキリスト教の現代におけるヨーロッパ土着化の姿を神学思想面および図像学的側面から跡づけることも試みることができた。平成13年度はキリスト教文化圏の中に公然として残存しているゲルマン的習俗の代表とも言うべきファストナハト(謝肉祭)について現地調査と映像資料の収集を中心的に行った。2月にドイツのアレマン地方の古習俗の残存するエルツァハの伝統的仮面行列、さらにフライブルク市の「バラの月曜日の大仮面行列」、オッフェンバッハの「魔女集会」などを現地調査することができた。平成14年度は春から初夏にかけて行われる、「春祭り」、「五月祭」、「聖ゲオルゲ騎乗」などの伝統的習俗を、ハスラッハ、ニュルティゲン、オクセンハウゼンで現地調査した。さらに夏から秋にかけてドイツ、スイスの各地で行われている「ワイン祭り」をとくにライン河、モーゼル川地域を中心に調査した。この調査ではドイツで最古の「ワイン搾り機の中に立つキリスト像」をモーゼル川河畔の村エディガー・エラーの聖マルティン教会で調査することができた。平成15年度は北ドイツ、オーストリアを中心とした民間習俗調査を実施した。ツェレ、ゴスラールでは木組み家屋の銘文の調査、オルデンブルクでは「マリア生誕市」、ゴスラールでは年一度の町祭りなどを調査した。オーストリアではザルツブルク、アルプバッハ、レッヒ、サン・アントンで民俗資料の収集を兼ねて民間習俗の現地調査を行った。以上の現地調査によって得られた成果は「宗教民俗学資料データベース」(責任者田島照久)に加えWeb上で一般公開をすでに一部行っている。神学思想面からの成果としては、「キリスト洗礼図」をめぐる「キリスト教のヨーロッパ土着化」と見られる現代的シンクレティズムといえるものを確認できたので、研究成果のひとつとして報告書にまとめた。