著者
川崎 博己 山本 隆一 占部 正信 貫 周子 田崎 博俊 高崎 浩一朗
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.98, no.5, pp.345-355, 1991
被引用文献数
1

新規抗うつ薬,milnacipran hydrochloride(TN-912)の脳波および循環器に対する作用をimipramine(IMP)およびmaprotiline(MPT)の作用と比較した.TN-912(10~100mg/kg)の経ロ投与は無麻酔・無拘束ラットの自発脳波と音刺激による脳波覚醒反応に対して,著明な変化を示さなかったが,IMP(10~100mg/kg)およびMPT(10~100mg/kg)の高用量投与は自発脳波の徐波成分の増加傾向と脳波覚醒反応の軽度抑制を生じた.無麻酔-無拘束ラットの循環器に対して,TN-912(10~100mg/kg)の経ロ投与により平均血圧の軽度上昇と高用量において心拍数減少がみられた.IMP(10~100mg/kg)とMPT(10~100mg/kg)により,用量依存性の血圧上昇と心拍数増加が認められた.麻酔イヌにおいてTN-912(1~30mg/kg),IMP(0.3~10mg/kg),MPT(1~10mg/kg)静脈内投与は,血圧下降を生じた.心拍数に対してTN-912は一定の作用を示さなかったが,IMPおよびMPTは用量依存的な増加を生じた.大腿動脈血流量はTN-912の30mglkgにより減少,IMPおよびMPTの低用量により減少,MPTの高用量により増加,IMPの高用量により著明に減少した.心電図に対して,TN-912(1~30mg/kg)によりS波の増大と高用量においてT波の増高がみられた.IMPは,投与直後・過性のRとS波振幅の減少,T波の増高,PQ間隔の延長を生じた.MPTは高用量においてR波振幅の減少,著明なT波の増高,PQ間隔の延長を生じた.モルモット摘出心房標本においてTN-912は高濃度の10<SUP>-4</SUP>Mにおいて軽度の収縮力の増大と律動数の減少を生じた.IMP(10<SUP>-6</SUP>M~10<SUP>-4</SUP>M)およびMPT(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M)は濃度依存的な収縮力の減弱と律動数の減少を生じ,10<SUP>-4</SUP>Mにおいて自動運動は停止した.以上,TN-912は既存の抗うつ薬IMPおよびMPTに比べて脳波および循環器に対する影響が少ない抗うつ薬である.