著者
田崎 直美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、フランス第四共和政期(1946-58)の芸術音楽活動を国家による音楽政策との関連を考察する目的で、情報省管轄下で国内唯一の国営ラジオ局の音楽番組方針とその内容について調査を行なった。その結果、音楽監督の強力な主導のもとで、1)芸術音楽番組による国民啓蒙と教育、2)「メトリーズ」による児童合唱およびフランス音楽活動の振興、3)国際協調と並行したフランス音楽の栄光の強調、の実態を明らかにした。パリの「被占領からの解放」の記憶化はアメリカ亡命作曲家作品への高い評価の形で行われたこと、1950年頃までにドイツとの音楽交流を通じた親善の動きが出てきたこと、も明らかにした。
著者
田崎 直美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究は、ドイツ占領下(1940-1944年)のパリにおけるフランス人作曲家の音楽活動を具体的に検証することで、1)政治的要素が音楽製作や上演に与えていた影響、および2)音楽家が選択した文化面での態度、を考察し、当時の音楽様相の一端を明らかにすることを目的とした。1.占領下パリでの音楽活動における政治的影響:国立オペラ劇場連合(RTLN)について報告者はこれまでに、RTLNにて上演された作品とその上演傾向、およびフランス人作曲家による新作の検証と考察を行った。本年度は補足的研究として、RTLNの音楽活動への占領当局の関与について、現在までに収集可能であったフランス国立古文書館所蔵の史料を整理した。これにより、これまで知られていた事実(ドイツ人演奏団体の客演公演、ドイツ人作曲家のための音楽祭)に加えて、特定作品の上演要求、ドイツ人用座席の増加要求、人事への干渉等が行われていたことが判明した。2.音楽家の態度:プーランクとオネゲルを中心に本年度は、作曲家オネゲルのパリにおける音楽活動について、1)楽曲分析(占領下で作曲もしくは上演された作品について)、2)言説の分析(Comoediaに掲載された彼の音楽批評より)、3)作品の上演状況と当時の批評の検証(L' Information musicaleより)、を行った。この結果にプーランクの音楽活動を合わせ考えると、次の点が指摘できる。すなわち、二人の作曲家はこれまで政治的に両極の立場(対独協力およびレジスタンス)を取っていたと考えられがちであったが、作品上演の場は多くが共通していたこと、そして上演作品をめぐる政治的イデオロギー(「国民革命」、「ナショナリズム」)にも類似性が見出されることである。これには同時代人による「解釈」の問題が大きく関わっており、当時音楽と政治権力が切り離しがたい関係にあったことがうかがえる。
著者
田崎 直美
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は占領下(1940-44年)パリにおける音楽活動状況を解明する一環として、当時新設されたパリ市芸術総監本部(パリ市芸術局)が独自に行った音楽政策を調査し、その実態と意義を考察した。その結果、(1)定期演奏会事業を市として初めて実施することで積極的な現代フランス音楽促進を図っていたこと、(2)第三共和政期から続くパリ市音楽コンクールを継承することで音楽による「国家」シンボル確立に貢献しようとしたこと、が判明した。ただしこうした努力は、ヴィシー政権からもパリ解放後の市民からも評価されることはなかった。