17 0 0 0 エクオール

著者
田村 基
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.492-493, 2010-11-15

大豆に含まれる大豆イソフラボンは,種々の生活習慣病予防効果が期待されているフラボノイドの一種である.フラボノイドにはフラボノイド骨格のみからなるアグリコンとフラボノイド骨格に糖が結合したフラボノイド配糖体が存在する.ダイゼインやゲニステインはイソフラボンに属している.味噌や醤油などの大豆製品では,イソフラボンのアグリコンであるダイゼインやゲニステインの割合が多く,逆に,豆腐では,イソフラボン配糖体の割合が多いことが知られている.イソフラボンの一つであるダイジンからは,腸内フローラの代謝によってエクオール(Equol, エコールとも呼ぶ)を生成する(図1).腸内でイソフラボンから産生されるエクオールは,もとのイソフラボンよりもエストロゲン活性が強く,高機能性イソフラボン代謝物とみなされている.そのため,イソフラボンよりもエクオールの機能性の高さが注目されるようになってきている.エクオールは脂質代謝に影響すると考えられている.大豆加工食品を摂取したヒトの中で,エクオール濃度が高いヒトほど血中コレステロールおよび血中トリグリセリド低下効果が顕著であったことが報告されている.また,エクオールの癌予防効果が期待されている.乳癌リスクの低さとエクオール産生量の多さに相関があるという報告やエクオール濃度の高い男性では,前立腺癌のリスクが低い可能性があるといった報告がある.女性は閉経後に女性ホルモンの量が減少することや更年期において様々な障害が発生することが知られており,この更年期障害の緩和にエストロゲンを投与するエストロゲン療法が行われる場合もある.エクオールには弱いエストロゲン活性があるため,エクオールによる更年期障害予防効果や閉経後の骨粗鬆症予防効果が期待されている<SUP>1)</SUP>.一方,エクオール産生性を有する腸内環境が健康機能を高めている可能性も示唆されている.しかし,エクオール産生能は,ヒトによって個人差が大きく,50~70%のヒトは,エクオール産生能が非常に弱いことが知られている.エクオール産生に関与する腸内フローラ(腸内細菌叢)の個々人の違いがこれらエクオール産生能の個人差を生み出していると考えられている.エクオール産生に関与する腸内フローラが,イソフラボン類の機能性発現を含めて生体内で重要な役割を担っていると考えられている.しかしながら,イソフラボン類の代謝変換に関与している具体的な食品成分についての情報はまだ乏しいのが現状である.このような現状に於いても,腸内でエクオールの産生を高める食品は新しい機能性食品(腸内フラボノイド代謝改善食品)としての魅力がある.エクオール産生を向上させる食品に関する研究が報告されている.この報告では,イソフラボンとフラクトオリゴ糖を同時に摂取させたラットのグループでは,イソフラボンのみを摂取したラットのグループよりも血漿エクオール濃度が有意に高く,フラクトオリゴ糖がラットのエクオール産生を向上させることが示唆されている.また,ヒトの調査では,肉食やお茶の摂取とエクオール産生性との相関が認められるとの報告があるが,エクオール産生性を顕著に高める食品成分はまだ見つかっていない.また,エクオール産生性の腸内細菌をエクオール非産生のヒトへ投与することで腸内でのエクオール産生性の向上が期待されるが,腸内細菌の中でエクオール産生性の菌種は非常に少ないと考えられている.内山らは,公的機関より購入したビフィズス菌29株(22菌種),乳酸桿菌184株(52菌種)を用いてダイゼインからのエクオール産生能を検討したところ,いずれの菌もエクオールを産生しないことを見出した<SUP>2)</SUP>.しかし,内山らは,ヒトの糞便からエクオール産生性腸内細菌を見出し,この腸内細菌のヒトへの応用の可能性を論じている.ヒトの腸内でエクオール産生菌を増やしてやるとエクオールを産生できないヒトでもエクオール産生能力が得られることが推察される.現在,エクオール産生を高める食品の報告はほとんどなく,エクオール産生をヒトの腸内で高める機能性食品,腸内フラボノイド代謝改善食品の開発が期待されている<SUP>3)</SUP>.
著者
田村 基
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.446, 2010-10-15 (Released:2010-12-01)
参考文献数
3

バイオジェニックスとは,光岡博士が提案した言葉で,腸内フローラを介することなく,直接,免疫賦活,コレステロール低下作用,血圧降下作用,整腸作用,抗腫瘍効果などの生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御に働く食品成分のことである.免疫強化物質,血圧降下・コレステロール低下物質を含む各種生理活性ペプチド,植物ポリフェノール,DHA(ドコサヘキサエン酸),EPA(エイコサペンタエン酸),ビタミンなどの食品成分がこれに該当する1) .機能性食品の範疇に属するプロバイオティクスは「腸内微生物のバランスを改善することで宿主に有益に働く生菌添加物」であるし,プレバイオティクスは,「腸内の有用菌の増殖を促進もしくは,活性を高めて宿主の健康に寄与する難消化性食品成分」であり両者とも腸内フローラに直接働きかけることが特徴である.これに対し,バイオジェニックスは,腸内フローラを介することなく,宿主のなんらかの健康に寄与する成分である.代表的なバイオジェニックスには,生理活性ペプチドが挙げられる.アミノ酸が2個以上結合してできたペプチドには特異的な生理作用を有するペプチドがあり,生理活性ペプチドと呼ぶ.これらの生理活性ペプチドは,本来,不活性なタンパク質由来のものが多く,タンパク質の消化過程や食品の加工・調理中で初めて活性のある構造を生じる場合が多い.生理活性ペプチドであるラクトトリペプチド(Val-Pro-Pro, Ile-Pro-Pro)はLactobacillus helveticusの発酵酸乳から見出された乳カゼイン由来のペプチドである.このラクトトリペプチドは,アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換するACE(アンジオテンシン変換酵素 : angiotensin-converting enzyme)を阻害することで血圧降下作用に寄与することが報告された2) . Val-Pro-ProとIle-Pro-Proの高血圧ラットへの単回投与は対照群に比べて血圧が有意に低値を示し,ラクトトリペプチドの血圧降下作用が認められた.さらに,高血圧患者30名を対象にして,ラクトトリペプチドを含む酸乳を投与するプラセボ対照試験を8週間行ったところ,ラクトトリペプチドを含む酸乳はラクトトリペプチドを含まないプラセボ乳に比べて収縮期血圧と拡張期血圧ともに,有意な血圧低下が認められた.このラクトトリペプチドを含む酸乳は血圧が高めの方に適した特定保健用食品として認可されている.Val-Tyrは,イワシから見出された生理活性ペプチドで,高血圧自然発症ラット(SHRラット)に対する降圧作用を有し,消化管プロテアーゼ耐性なACE阻害ペプチドである.軽症高血圧者を含む健常人を対象にVal-Tyrを含むドリンクを与えたヒト試験では,軽症高圧者に対して有意な血圧降下作用が認められたことを明らかにして,血圧が高めの方に適した食品として特定保健用食品として認可されている.大豆由来のペプチドについても生理活性ペプチドの存在が報告されている.大豆ホエイたん白質のプロテアーゼS分解物から単離・同定されたアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドVal-Lys-Pro, Val-Ala-Pro, Val-Thr-Proのラットにおける血圧降下作用を調べたところ,これら3種のトリペプチドは,高血圧自然発症ラットへの単回経口投与試験により血圧降下作用を有していた.血圧降下作用以外にも生理活性ペプチドの効果が報告されている.動物試験において,プロテアーゼ処理したグロブリンの消化物がオリーブ油投与後に血清中性脂肪低下作用を有することが報告されている.この作用には生理活性ペプチドVal-Val-Tyr-Proが関与していた.この中性脂肪低下作用のメカニズムには,脂質の消化管からの吸収抑制および肝臓のトリグリセリドリパーゼの活性化が考えられた.ポリフェノール等のバイオジェニックスには,抗酸化作用を有するものが多い.フラボノイドはポリフェノールに属し,フラボノイドにはカテキン,アントシアニン,フラボノールやイソフラボン等があるが,これらフラボノイドにはフラボノイド骨格のみからなるアグリコンとフラボノイド骨格に糖が結合したフラボノイド配糖体が存在する.フラボノイドのアグリコンは小腸から吸収されるが,フラボノイド配糖体のなかには,ルチン(ケルセチン-3-ルチノシド)のように空腸で吸収されず下位消化管に到達し,この部位で吸収・代謝を受けるものも存在するため,アグリコンとある種の配糖体とでは生体に及ぼす生理作用が少し異なる可能性が考えられる.フラボノイドの中には,弱いエストロゲン作用を有するイソフラボンや抗アレルギー作用を有するメチル化カテキンなども存在する.近年,茶葉中メチル化カテキンの抗アレルギー作用が報告されている3) .このようにバイオジェニックスには様々な生理作用を有するものが存在し,今後,新たな機能性食品としての開発が期待される.
著者
薮崎 正実 田村 基
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MoMuC, モバイルマルチメディア通信 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.22, pp.133-138, 2009-04-30

本講演において,移動通信における双方向通信サービスの現状を振り返ると共に,PoC(Push to talk over Cellular)を例として現状のIMS商用サービスの課題を考察し,コミュニケーションサービスとしての相互接続性の重要性を述べる.GSMアソシエーションでは,国際的に相互接続可能なRCS(Rich Communication Suite)を規定,相互運用試験を実施している.RCSの最初のターゲットサービスは,拡張電話帳,コンテンツ/ビデオを共有しながらの通話,リッチメッセージングである.同様に日本国内ではTTCにて,日本市場を踏まえたRCS仕様の拡張を実施している.本講演では,これらの国内外の活動を紹介すると共に,オペレータがRCS上で競争力のあるサービスとしてネットワーク付加価値サービスを提供してゆく必要を述べる.