著者
吉野 裕顕 田村 真通 蛇口 達造 加藤 哲夫
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

[方法]正常羊胎仔群(N=6):胎令125〜140日の羊胎仔に対し、頸動静脈を介し、膜型肺を用いたV-A ECMOを施行、臍帯を遮断後、胎仔を人工羊水槽へ移し、6〜24時間保育した。横隔膜ヘルニアモデル群(N=3):胎令75〜80日に横隔膜ヘルニアを作成、胎令135日にV-A ECMO下に横隔膜ヘルニアを修復後、正常羊胎仔と同様に人工子宮にて6〜24時間保育した。上記2群について、ECMO前、臍帯遮断後人工子宮内保育時、肺呼吸開始さらにECMOからの離脱時と経時的に血液ガスの変化を測定するとともにドップラーエコーにて動脈管径と肺動脈の血流量を測定し、正常羊胎仔群ならびに横隔膜ヘルニアモデル群について胎児循環より新生児循環への適応状況について検討した。[結果]1、頸動静脈V-A ECMOを用いた人工子宮内保育では正常羊胎仔、横隔膜ヘルニアモデルとも動脈管の径は減少し両方向性のシャントを呈したが、胎仔の循環動態は良く保たれていた。2、肺呼吸により、正常羊胎仔では動脈管の右-左シャントは、左-右優位となり、肺動脈の血流量は増加したが、横隔膜ヘルニアモデルでは有意な肺動脈血流量の増加は認めなっかった。3、胎令135日以上の胎仔では肺呼吸後の循環動態の適応は良く、人工子宮からの離脱が可能であったが、135日未満の胎仔および横隔膜ヘルニアモデルではPaO_2の上昇は不良でECMOフローを低下させると容易に胎児循環遺残へと移行し、早期のECMOからの離脱は困難であった。4、人工子宮内保育羊胎仔の肺組織には出血、無気肺、肺硝子膜症などの所見はなく、人工子宮内保育による明らかな傷害は認めなかった。[まとめ]V-A ECMOによる人工子宮内保育は胎児期の動脈管の変化の影響が少なく、肺呼吸後は胎児ECMOから新生児ECMO管理へと速やかに移行でき胎児治療の上で有用と思われた。また横隔膜ヘルニアモデルでは今後、修復後の人工子宮内保育による肺の発育、成熟に関する検討が必要である。