著者
田畑 正久
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.325-334, 2009-05-15

医療と仏教は「生・老・病・死」の四苦を共通の課題とする. 医療は元気でいきいきした「生」を目指している. そのために「老病死」の現実を受容する視点に欠けていた. 治療の概念からいうと老い, 病み, そして死ぬことは敗北, 不幸の完成である. 四苦に対応するために, 最終ゴールは不幸の完成でよいのか.「老」とは「老成」「長老」の言葉が示すように本来, 成熟することへの敬称である. 成熟は仏教の智慧と深い関係があり, 仏教で成熟した人格者は「人間に生まれてよかった. 生きてきてよかった. 死んでいくこともお任せです」と鷹揚に生きていかれる. 医師の「師」が意味するものは人生全体を見渡して, 生きていることの喜びと老病死を受容し, 四苦を超える道への素養をもつ人格者であることが期待されていることと考える.