- 著者
-
伊藤 泰男
酒井 陽一
田畑 米穂
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特定研究
- 巻号頁・発行日
- 1988
CS_2は反磁性ミュオンの強度が0.2と小さく、他はスピン緩和している特異な物質である。我々はこれが放射線化学的な過程と関係があると予想し一連の研究を行った。Mu置換フリーラジカルは35KGという高い磁場を用いるスピン共鳴によっても、高磁場MSRによっても、純CS_2やCS_2濃度の高い溶液中ではみつからなかった。しかしCS_2濃度の小さな溶液中ではラジカルとみられる成分が見出された。その温度依存性から活性化エネルギーの小さな過程である、反磁性ミュオンがゆっくりと増加してくる様子も観測された。以上を統一的に理解する為のモデルとして、MuCS_2の形のラジカルが実際に生成するが、CS_2濃度が大きいとクラスタを形成してhfcの分布を生じて観測にかからなくなること、更にクラスタリングが進むとhfcが小さくなって実効的に反磁性ミュオンが成長してくるようにみえるというプロセスを仮定した。これを放射線化学の側から調べるため、同じ系についてパルスラジオリシス実験を行い、HCS_2に同定される吸収を見出し、MuCS_2と同じように高濃度では観測されなくなるという類似の現象も見出した。ミュオン化学と放射線化学では同一のプロセスが起っているようである。別の実験では金属錯体のMSR、縦緩和、スピン共鳴実験をアセチルアセトン錯体について行い、中心金属がV、Cr、Mnのような常磁性のときは反磁性ミュオンの割合が1に近く、Zn、Alのような典型元素では〜0.2であるという興味ある知見を得た。また縦緩和の実験から、ミュオンが中心金属から〜2〓離れたサイトを占めているという知見も得た。