著者
伊藤 泰男
出版者
放射化分析研究会
雑誌
放射化分析
巻号頁・発行日
no.13, pp.70-85, 2002-02

核分裂とその制御機構を学習・研究する道具としての研究炉の役割は初期に比べれば相対的に小さくなっているものの、原子力の恩恵が社会に広く行き渡り、その持続可能性を確保することが新たな課題となっている現在、研究炉による実体験をもって原子力や放射線を理解することが原子力利用社会を構成する多くの人に必要になっている。さらに、研究炉は理工学研究や産業・民生にも役立っているし、原子力利用の一層の展開のために高度な研究炉開発も必要である。しかしながら、研究炉の維持が多くの困難を抱えている現在、研究炉を望ましい形で保持していくことはほとんど不可能になっている。研究炉の困難の背景には、その維持・管理全てに関わることを設置者の責任とする現在の法体系があるが、使用済み燃料の処理・処分が根幹的な問題として浮上している。使用済み燃料の処理・処分の方策が立てられないと研究炉の存立はあり得ず、研究炉の存立がなければ健全な原子力利用社会は持続しないと云って良い。使用済み燃料の処理・処分は設置者の一存で対応出来ないから、必ず国の指導と支援の元に適切な方策が立てられなければならない。しかしながら、なぜ研究炉がなければならないのかが明らかにされないと、研究炉の諸困難と使用済み燃料の処理・処分問題の解決への訴えも説得力を欠く。本稿で研究炉の意義をやや詳細に記述している意図はここにある。研究炉の位置づけについてのこのような視点から、我々は研究炉問題に全日本的視野で取り組むべく、研究炉間の連絡・提携・支援・利用促進を目的とする「研究炉機構」の必要性を訴えてきた。しかし、その実現には時間を要する。そこで半歩退いて、現有炉の一部特に私大炉が利用出来なくなりつつある一方で、原子力教育を立て直す必要性については社会の合意が成立しやすい状況をにらんで、先ずは研究炉による実体験教育を中心とする「原子力教育センター」を設立することを改めて提案している。
著者
伊藤 泰男 酒井 陽一 田畑 米穂
出版者
東京大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1988

CS_2は反磁性ミュオンの強度が0.2と小さく、他はスピン緩和している特異な物質である。我々はこれが放射線化学的な過程と関係があると予想し一連の研究を行った。Mu置換フリーラジカルは35KGという高い磁場を用いるスピン共鳴によっても、高磁場MSRによっても、純CS_2やCS_2濃度の高い溶液中ではみつからなかった。しかしCS_2濃度の小さな溶液中ではラジカルとみられる成分が見出された。その温度依存性から活性化エネルギーの小さな過程である、反磁性ミュオンがゆっくりと増加してくる様子も観測された。以上を統一的に理解する為のモデルとして、MuCS_2の形のラジカルが実際に生成するが、CS_2濃度が大きいとクラスタを形成してhfcの分布を生じて観測にかからなくなること、更にクラスタリングが進むとhfcが小さくなって実効的に反磁性ミュオンが成長してくるようにみえるというプロセスを仮定した。これを放射線化学の側から調べるため、同じ系についてパルスラジオリシス実験を行い、HCS_2に同定される吸収を見出し、MuCS_2と同じように高濃度では観測されなくなるという類似の現象も見出した。ミュオン化学と放射線化学では同一のプロセスが起っているようである。別の実験では金属錯体のMSR、縦緩和、スピン共鳴実験をアセチルアセトン錯体について行い、中心金属がV、Cr、Mnのような常磁性のときは反磁性ミュオンの割合が1に近く、Zn、Alのような典型元素では〜0.2であるという興味ある知見を得た。また縦緩和の実験から、ミュオンが中心金属から〜2〓離れたサイトを占めているという知見も得た。