- 著者
-
田邉 剛
- 出版者
- 山口大学医学会
- 雑誌
- 山口医学 (ISSN:05131731)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.1, pp.5-10, 2014-02-01 (Released:2014-04-18)
- 参考文献数
- 21
自然免疫系は病原体の感染時に初期に応答する免疫システムである.当初,獲得免疫系が作動するまでの,一時的な免疫応答機構と考えられていた.しかし実際には自然免疫系の活性化の程度により獲得免疫系の機能が規定されることから,自然免疫系が免疫応答全般を制御する系とされている.自然免疫因子は,菌体に共通する成分であるpathogen-associated molecular patterns(PAMPS)をリガンドとして認識し,炎症性サイトカインを産生する.最近では生体の危険因子danger-associated molecular patterns(DAMPS)のセンサーであることも明らかになっている.自然免疫因子は主に膜結合型のToll-like receptor(TLR)と,細胞質局在型のnucleotide-binding oligomerization domain(NOD)-like receptor (NLR)から成る. 自然免疫系の異常が関連する疾患として,これまでNOD2の機能低下による炎症性腸疾患クローン病,NOD2の機能亢進による全身性肉芽腫形成疾患Blau症候群(若年性サルコイドーシス)を報告した.さらに同じく全身性肉芽腫形成疾患サルコイドーシスの病因が,細胞内侵入型アクネ菌に対する変異型NOD1の応答不全によることを明らかにした.またNOD2による骨髄系の血球分化の異常により骨髄性白血病の発症につながる可能性を報告した. 近年,IL-1βの活性化をもたらす免疫複合体インフラマソームが注目されている.インフラマソームの活性化が糖尿病や動脈硬化など,生活習慣病を中心とした疾患の発症と関連することが明らかになっている.自然免疫系の詳細が明らかになることで,有効で安全なワクチンの製造に理論的な裏付けが可能となった.さらに関連疾患に対して,自然免疫系の活性制御による新規治療法の開発が進められている.