著者
市山 高志
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.5-8, 2010-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

「インフルエンザ脳症」は約10年前に疾患概念が提唱された比較的新しい病気である.本疾患は「インフルエンザの経過中に急性発症する意識障害を主徴とする症候群」と定義される.剖検脳では,著明な脳浮腫を認めるものの,炎症細胞浸潤やインフルエンザウイルスはみられない.従ってインフルエンザ脳炎ではなく,「インフルエンザ脳症」と命名された.当時は死亡率30%,後遺症率25%という極めて予後不良であった.その後の研究で,本疾患の病態に高サイトカイン血症が関与し,末梢血単核球の転写因子NF-κB活性化が明らかになった.抗サイトカイン療法としてステロイドパルス療法および免疫グロブリン大量療法が提唱され,普及した現在は死亡率10%弱に低下した.しかしインフルエンザ脳症の病態は単一でないことが明らかになり,現在は高サイトカイン血症が病態の中心でない「けいれん重積型脳症」といわれるタイプが,高率に神経学的後遺症を残すことから問題となっている.このタイプの病態は長時間のけいれんによる神経細胞に対する興奮毒性が主と考えられている.従って,ステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量療法は有効でなく,なんらかの脳保護的治療が模索されている.しかし,現時点で有効性が証明された治療法はなく,効果的な治療法開発が今後の課題である.
著者
兼平 朋美 守田 孝恵
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 = Yamaguchi medical journal (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.75-87, 2017-05

目的:本研究は,精神保健活動の保健師の家庭訪問スキルを向上させるための新たなケースシートを考案し,それを用いた事例検討会を行い,その効果を検討することを目的とした.方法:家庭訪問スキルを「アセスメント項目」と「家庭訪問後の評価項目」に分けて構成したケースシートを用いて事例検討会を実施した.事例検討会は2014年度に実施した2事例すべて(計4回)を分析対象とした.すべての事例検討会に参加した保健師を分析対象者とし,事例検討会の開始前,終了後に調査票による評価を依頼した.6因子36項目からなる「精神保健活動における保健師の家庭訪問スキル」を用いて,スキルの習得状況を4段階(1~4点)で評価した.総スキル得点と6因子からなる各因子のスキル得点により分析した.結果:総スキル得点は,各事例検討会の実施により,すべての事例検討会で有意に向上し(p<0.05),事例検討会全体の開始前と終了後では13.0点上昇した(p<0.05).6因子のスキル得点では,「ニーズを見極める」スキル得点,「家族関係をとらえる」スキル得点が有意に向上した(p<0.05).また,有意差はなかったが,「家庭訪問を管理する」等の4つの因子スキル得点においても上昇傾向がみられた.事例1と事例2において総スキル得点は,事例検討会1回目も2回目も同様に有意に上昇しており,事例検討会2回目は事例の経過報告と事例検討を行なうことで,新たな事例を提供する事例検討会1回目と同様の効果が得られた.結 論:ケースシートを用いることで,全ての事例検討会において家庭訪問スキルを向上させる効果が認められた.「ニーズを見極める」スキル得点,「家族関係をとらえる」スキル得点を上昇させる効果が示された.家庭訪問スキルを効率的に向上させるにはケースシートを用いて,1事例につき事例検討会を2回実施する方法が効果的であった.For the purpose of improving home visiting skills for mental health services, a new report format was developed. This study was designed to examine the effectiveness of the new report format through the use of case study sessions. Four case study sessions were implemented with the new report format, which is composed of six factors and 36 items of home visiting skills. The"Public Health Nurses'Home Visiting Skills for Mental Health Services"were used for evaluation on a scale of one to four(1-4 points for each item).The evaluation scores all significantly improved after each case study session compared to those before the session. The scores improved by 12.6 points from the beginning of entire case study session until the end(p<0.05).Of all the home visiting factors,"Determining Needs"and"Understanding Family Relationships"were most significantly improved(p<0.05).Although not so significant, the other four factors, including"Managing the Home Visiting"were also improved. The case study sessions with the new report formats was proven to be effective for improving home visiting skills for mental health services.
著者
古賀 雄二 村田 洋章 山勢 博彰
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.93-101, 2014-05-01 (Released:2014-07-11)
参考文献数
29
被引用文献数
1

目的:せん妄はICU患者の入院期間延長や生命予後悪化につながるが,スクリーニングされずに見落とされ,治療されないことも多い.Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit(CAM-ICU)は,ICUでのせん妄評価法として国際的に認められた方法である.CAM-ICUには評価手順を効率化したConfusion Assessment Method for the Intensive Care Unit Flowsheet(CAM-ICUフローシート)が作成されている.本研究は日本語版CAM-ICUフローシートの妥当性・信頼性の検証を目的とする.研究方法:日本の2ヵ所の大学病院ICUで実施された.妥当性評価として,精神科医が評価するDSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition, Text Revision)をせん妄診断の標準基準として,リサーチナースおよびスタッフナースの日本語版CAM-ICUフローシート評価と比較し,感度・特異度を算出した.また,リサーチナースとスタッフナースの日本語版CAM-ICUフローシートの評価を比較し,評価者間の信頼性を評価した.結果:評価対象者数は82名であり,DSM-IV-TRでのせん妄有病率は22.0%であった.興奮・鎮静度はRASS(Richmond Agitation Sedation Scale)-0.33~-0.28であった.DSM-IV-TRに対するリサーチナースとスタッフナースの日本語版CAM-ICUフローシート評価結果は,感度が78%と78%,特異度が95%と97%であった.日本語版CAM-ICUフローシートに関するリサーチナースとスタッフナースの評価者間の信頼性は高かった(κ=0.81).結論:日本語版CAM-ICUフローシートは,せん妄診断の標準基準(DSM-Ⅳ-TR)に対して妥当性を有し,評価者間の信頼性も高く,ICUせん妄評価ツールとして使用可能である.
著者
廣瀬 春次
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1+2, pp.11-16, 2012-05-01 (Released:2013-03-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

量的研究法と質的研究法の両者を含む混合研究法は,研究の妥当性・信頼性を高めるとともに,量的研究と質的研究のパラダイム論争に一つの方向を与える第3の研究法として発展してきた. 混合研究法を用いる研究者は,実証主義と構成主義という2つの異なるパラダイムを持つ量的研究と質的研究を併用するという点で,その哲学的前提について無関心ではいられない.現在,混合研究法のパラダイムとして最も支持されるのは,実用主義であるが,弁証法も有力である. 混合研究法の分類については,現在,統一されたものはないが,混合研究法の表記法については,共通のものが開発されている.著者は,混合研究法として分類されるには,質的・量的研究のいずれも,完全な研究として示されることが必要であることを提案した. 日本看護科学会誌の最近10年間の混合研究法を検索した結果,それ以前の10年間の検索結果とほとんど差がないことが示された.今後の混合研究法の展望として,一つの研究の中で2つの方法を相互参照するだけではなく,異なる研究間での相互交流が期待される.

4 0 0 0 OA EBMとNBM

著者
谷田 憲俊
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.189-191, 2007 (Released:2008-02-25)
参考文献数
7
著者
福田 吉治
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.219-224, 2010-12-31

生活習慣病の予防には早期から健康的な生活習慣を確立する必要がある.また,生活習慣病対策の立案と評価にあたり,対象となる集団における健康に関連した生活習慣のアセスメントと変化のモニタリングをできるだけ正確に行わねばならない.本研究は,地域における生活習慣病対策の立案ならびに評価の基礎資料を得るための試みとして,新成人を対象とした健康関連生活習慣調査を行った.山口県内の3市町の成人式(平成22年1月)において,新成人に調査票を配布し,当日提出または後日郵送にて回収した.主な調査項目は,基本属性,自覚的健康度,健康に関連した生活習慣(食生活,運動習慣,飲酒経験,喫煙等)であった.配布数は1761で,有効回答数は324(有効回答率18.4%)であった.自覚的健康度が「あまりよくない/よくない」の者6.8%,朝食を欠食しやすい者32.1%,運動習慣のない者74.1%,飲酒経験者84.6%,現在喫煙している者8.8%であった.学生に比較して,就業者で有意に喫煙率が高かった(オッズ比=3.6).回答率は20%に満たず,喫煙率が過少に見積もられている可能性が高く,調査の課題が明らかになった.就業者の高い喫煙率から,低い学歴または早期の社会参加が喫煙を促進することが示唆された.効率的にかつ精度高く生活習慣を評価できる調査方法,調査の結果を活かした介入方法を検討する必要がある.
著者
姫宮 彩子 中川 碧 酒井 大樹 重本 亜純 髙瀬 泉
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2+3, pp.75-81, 2022-08-31 (Released:2022-11-02)
参考文献数
19

法医学講座では,主な業務の一つとして遺体の解剖・検案を実施し,死因等の鑑定を行っている.法医解剖が実施される事例は,医学的に死因が不明であるだけでなく,多くがその背景に社会的課題をもつため,死因究明に加えて死亡状況を検証することは,生きている者に重要な示唆を与える.よって,法医解剖によって得られた情報を関係各所と共有し,現場に携わる関係者同士が再発予防策について検討することの意義は高い.本稿では,山口大学医学系研究科法医学講座の法医解剖における死因究明の現状について2021年実施例の報告というかたちで示し,今後の法医解剖情報の活用について考察する.解剖数は157件で,男性が女性の2倍強を占めた.年齢階級別では10代が最も少なく,成人以降では年齢が上がるとともに漸増し,70代以上が約4割を占めた.死因の種類では内因死が3割,外因死が6割,不詳の死が1割で,内因死の約7割は循環器系疾患,外因死は外傷および溺没で約7割を占めた.全体の約2割が救急搬送され,その一部で臨床科医師による死因の言及がみられた.また,全体の約3割で画像検査データが死因判断に活用された.その他,世代別の外因死,自殺(疑い),医療関連死の事例の特徴を報告する.今後は個々の事例・課題について,関連する臨床科や医療,保健,福祉,行政,さらには医学系研究者の勉強会あるいは検討会等に参加しながら,近い将来の『死因究明により得られた情報を相互に共有・活用できる体制の構築』の実現をめざし,試行していきたい.
著者
山下 進
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.193-200, 2007 (Released:2008-02-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

【背景】尿中の3-メチルヒスチジン(3-methyl histidine, 3-MH)は筋タンパク異化の程度を反映する指標とされている.近年ではより短時間のタンパク代謝を評価する方法として,血中の3-MHが用いられることがある.しかし,これまでにヒトでの測定報告は少なく,その基準値は決められていない.【目的】健常成人における血中3-MHの基準値(範囲)を求め,重度侵襲患者の血中3-MHと比較する.そして侵襲時,タンパク異化の指標と成り得るかを検討する.【方法】健常成人101名の血中3-MHを高速液体クロマトグラフで測定した.重度侵襲患者6名の血中3-MHを経日的に測定し,基準値と比較した.また,血中アルブミン,急性相タンパクおよび尿中3-MHを経日的に測定し,タンパク代謝を評価した.【結果】健常成人の血中3-MHの基準範囲は0.91~5.59 nmol⁄mlとなった.男性では1.22~6.26 nmol⁄ml,女性では1.09~4.41 nmol⁄mlであり,男性が有意に高値を示した(p<0.05).筋肉量による補正のために3-MH⁄血中クレアチニン値(3-MH⁄Cre)を算出すると,男女差がなくなり,健常成人全体では0.13~0.53 nmol⁄μg Creが基準範囲となった.重度侵襲患者では健常成人に比して血中3-MH⁄Cre値は有意に高値であり(0.59±0.12 vs 0.33±0.10 nmol⁄μg Cre, p<0.05),筋タンパクの異化亢進が示唆された.重度侵襲患者の血液では3-MH⁄Creとアルブミン,急性相タンパクにそれぞれ相関を認めなかった.【結論】健常成人の血中3-MH⁄Creの基準値を設定した.筋肉量の差があるために男女別の基準値か,クレアチニン値で補正した値を用いる必要がある.重度侵襲患者では明らかに血中3-MH⁄Creは上昇し,タンパク異化亢進が強く示唆された.
著者
廣瀬 春次
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.11-16, 2012-05-01
参考文献数
15
被引用文献数
2

量的研究法と質的研究法の両者を含む混合研究法は,研究の妥当性・信頼性を高めるとともに,量的研究と質的研究のパラダイム論争に一つの方向を与える第3の研究法として発展してきた. 混合研究法を用いる研究者は,実証主義と構成主義という2つの異なるパラダイムを持つ量的研究と質的研究を併用するという点で,その哲学的前提について無関心ではいられない.現在,混合研究法のパラダイムとして最も支持されるのは,実用主義であるが,弁証法も有力である. 混合研究法の分類については,現在,統一されたものはないが,混合研究法の表記法については,共通のものが開発されている.著者は,混合研究法として分類されるには,質的・量的研究のいずれも,完全な研究として示されることが必要であることを提案した. 日本看護科学会誌の最近10年間の混合研究法を検索した結果,それ以前の10年間の検索結果とほとんど差がないことが示された.今後の混合研究法の展望として,一つの研究の中で2つの方法を相互参照するだけではなく,異なる研究間での相互交流が期待される.
著者
橋本 憲輝 近藤 浩史 衛藤 隆一 小佐々 博明 清水 良一
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.261-265, 2009-12-31 (Released:2010-01-28)
参考文献数
10

症例は61歳,女性.2008年12月,当院内科にて検診目的で下部消化管内視鏡検査(colonoscopy,以下CS)が施行された.3日後に軽度の嘔気・下腹部違和感を認めたが,経過観察されていた.7日後,腹痛が増悪したため,同科を再診した.腹部骨盤単純CT検査により穿孔性腹膜炎と診断され,加療目的で当科へ紹介された.当科受診時,腹部にやや膨満があり,全体的に圧痛,反跳痛を認めた.腹部骨盤単純CT検査では腹腔内に遊離ガスが散見され,腹水も認めた.結腸穿孔ならびに急性汎発性腹膜炎と診断し,緊急開腹術を施行した.手術所見では,直腸RS部近傍のS状結腸に腸間膜経由での穿孔を認め,腸間膜内には多量の便塊,便汁が貯留していた.穿孔部より口側でS状結腸と骨盤腔内左卵巣近傍の壁側腹膜との間で強固な線維性の癒着を認めた.術式は急性汎発性腹膜炎手術,S状結腸切除術,人工肛門造設術(ハルトマン手術)を施行した.術直後から急性呼吸窮迫症候群を発症したが,集中治療により軽快した.術後第52病日に独歩にて自宅退院された.2009年3月当科にて人工肛門閉鎖術を施行した.CS施行後,汎発性腹膜炎の発症が7日目である稀な症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
横山 正博 堤 雅恵
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.39-55, 2020-02-28 (Released:2021-09-17)
参考文献数
36
被引用文献数
1

地域包括支援センターの専門職が地域ケア会議において,地域ケア会議の理解の促進や地域包括ケアシステム構築のための能力や意欲を身につけることができたかの成果を評価し,またその成果にはどのような要因が影響しているかを明らかにし,地域ケア会議の推進上の課題を探索することを目的とした. 高齢化率上位5県のすべての地域包括支援センターの地域ケア会議に参加したすべての専門職を対象とし,郵送留置自記式による無記名質問紙調査を行った.調査内容は,対象者の基本属性,地域ケア会議に対する基本的理解に関する質問,地域ケア会議に参加した所感に関する質問,地域ケア会議運営の阻害要因に関する質問および地域ケア会議で得られた成果に関する内容とした.回答結果を単純集計するとともに,地域ケア会議の成果に影響を及ぼしている要因を共分散構造分析により分析した. 地域包括支援センターの専門職は,個人的な地域ケア会議に対する準備を前提として,地域ケア会議の基本的理解をし,自己効力感をもつことで具体的な成果が得られるという認識の構造をなしていた. 地域ケア会議推進上の課題として,地域包括支援センターの専門職は,参加者の地域ケア会議に対する理解度を把握し,効果的に地域ケア会議の趣旨や議論する課題や意図を明確に事前に伝達する工夫が必要である.次に,地域のインフォーマルな人的資源の開発という視点をもって地域包括支援ネットワークの一員となり得る人に参加を呼びかけ,さらに地域住民の主体性を形成する意図をもって地域ケア会議に参加する必要がある.さらに,地域ケア会議の検討技術の向上のためには,熟練した専門職が教育的スーパーバイザーを担うことが必要である. 特に,地域ケア会議に対する自己効力感は地域ケア会議の成果を得るための必要不可欠な要因であることが示唆された.
著者
櫻木 志津 三谷 紀之 田中 芳紀 松井 久末子 松田 万幸 篠原 健次 平田 郁雄
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2+3, pp.57-61, 2005 (Released:2006-03-29)
参考文献数
13

68歳,女性.2ヵ月前より両大腿筋肉痛,筋力低下,両肩・両膝関節痛が出現し,立ち上がり,歩行が困難になった.同時期より眼瞼下垂,上下肢の易疲労性を認めた.抗核抗体は陽性,抗アセチルコリンレセプター抗体は著明に高値,抗Jo-1抗体は陰性であった.エドロフォニウムテストにより眼瞼下垂は改善したが,上下肢の筋力は改善しなかった.一方CKは上昇し大腿筋生検では筋線維の不揃いの変性,著明なリンパ球や好中球などの炎症細胞浸潤が認められ,筋電図は低電位であり反復刺激ではwaningがみられた.これらの所見から重症筋無力症と,多発筋炎の同時期の合併と考えられた.プレドニゾロンの投与により徐々に大腿の筋力は回復し歩行可能になったが四肢の易疲労性,眼瞼下垂は残り,後に塩化アンベノニウムを併用することで,これらの症状は改善した.
著者
兼平 朋美 守田 孝恵
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.75-87, 2017
被引用文献数
1

<p>目 的:本研究は,精神保健活動の保健師の家庭訪問スキルを向上させるための新たなケースシートを考案し,それを用いた事例検討会を行い,その効果を検討することを目的とした.</p><p>方 法:家庭訪問スキルを「アセスメント項目」と「家庭訪問後の評価項目」に分けて構成したケースシートを用いて事例検討会を実施した.事例検討会は2014年度に実施した2事例すべて(計4回)を分析対象とした.すべての事例検討会に参加した保健師を分析対象者とし,事例検討会の開始前,終了後に調査票による評価を依頼した.6因子36項目からなる「精神保健活動における保健師の家庭訪問スキル」を用いて,スキルの習得状況を4段階(1~4点)で評価した.総スキル得点と6因子からなる各因子のスキル得点により分析した.</p><p>結 果:総スキル得点は,各事例検討会の実施により,すべての事例検討会で有意に向上し(p<0.05),事例検討会全体の開始前と終了後では13.0点上昇した(p<0.05).6因子のスキル得点では,「ニーズを見極める」スキル得点,「家族関係をとらえる」スキル得点が有意に向上した(p<0.05).また,有意差はなかったが,「家庭訪問を管理する」等の4つの因子スキル得点においても上昇傾向がみられた.事例1と事例2において総スキル得点は,事例検討会1回目も2回目も同様に有意に上昇しており,事例検討会2回目は事例の経過報告と事例検討を行なうことで,新たな事例を提供する事例検討会1回目と同様の効果が得られた.</p><p>結 論:ケースシートを用いることで,全ての事例検討会において家庭訪問スキルを向上させる効果が認められた.「ニーズを見極める」スキル得点,「家族関係をとらえる」スキル得点を上昇させる効果が示された.家庭訪問スキルを効率的に向上させるにはケースシートを用いて,1事例につき事例検討会を2回実施する方法が効果的であった.</p>
著者
服部 幸夫
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.637-644, 2001-06-30
被引用文献数
4 2

Japanese individuals with thalassemia (thal) are mostly heterozygous and asymptomatic except for microcytosis. The frequency of β-thal in Japan is one in 700-1000, and that of α-thal appears to be one-fifth of β-thal. Mutations for β-thal is heterogenous, with 8 types of mutation comprising almost 80% of all Japanese β-thalassemiacs. About 40% of the mutations seem to have been contacted from abroad. Twenty homozygotes from more than 280 thalassemiacs have been found. Eighteen homozygotes have A-G mutation at the second base of TATA box (-31 A-G) bringing about relatively mild phenotype (β^+). The -31 A-G mutation is most frequent of all Japanese β-thal's. Six rare mutations, despite being heterozygote, showed hemolytic anemia which is also called, "dominant-type thalassemia", and some of them demonstrated Heinz bodies in the red blood cells. The microcytosis which is characteristic of all thal, is well compensated for by an increased number of red blood cells. However, dominant-type and homozygotes for β-thal have not been compensated, resulting in anemia. The initiation codon mutations, in particular, have revealed remarkable erythremia. More than half of the α^0-thal found in the Japanese have been of the Southeast Asian type (--SEA), followed by the Filipino type (--FIL). The precise breakpoints for nearly 40% of the α^0-thal mutations remain undetermined. However, rough estimation has suggested heterogenous deletions. The α^+ thal chromosomes which are the base for emerging HbH disease, have been found in 0.25-1.55% of general population.
著者
中村 一平 奥田 昌之 鹿毛 治子 國次 一郎 杉山 真一 藤井 昭宏 松原 麻子 丹 信介 芳原 達也
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.279-289, 2004-12-31
被引用文献数
1 1

【目的】現在まで高齢者の介護予防や体力増進に関する多くの研究が行われているが,コントロール群との比較を行っているものは数少ない.今回,運動介入の効果を検証するため,同一町内に居住し,同じ介護老人福祉施設で同じサービスを受けている高齢者を居住地区と通所曜日により2群に分け,対照群をおき非介入期間を設け運動介入時期をずらしてクロスオーバー研究を行った.【方法】ある介護老人福祉施設の「生きがい活動支援通所事業」の参加者に,研究調査に関して文書で説明を行い,書面で同意を得た女性25名(80.3±3.4歳)を対象とした.2003年6月〜2004年1月に,介入先行群10名に3ヵ月間に5回の運動介入を行い,3ヵ月後に介入する群を入替え,介入後行群15名に同様の運動介入を行った.また,介入期間中はホームプログラムを促した.運動は特別な道具が要らず簡単なものとし,ウォーミングアップ5分,ストレッチング15分,筋力増強15分,クールダウン5分の計40分間で,デイサービスの時間に行った.測定項目は,握力,背筋力,10m歩行速度・歩数,40・30・20cm台からの立ち上がり,40cm台昇降,開眼・閉眼片足立ち,タンデム歩行安定性,Danielsらの徒手筋力検査法,老研式活動能力指標とした.【結果と結論】クロスオーバー研究でコントロールとなる非介入期間と比べて介入期間のトレーニング実施により背筋力(p=0.032)が増強した.介入期間の前後では背筋力の他に,股関節屈曲力,膝関節屈曲力・伸展力,足関節底屈力が増加したが,これらも非介入期間と比較すると有意差はなかった.クロスオーバー研究の制限はあるが,地域高齢者のデイサービス利用者で平均80歳の高年齢の場合には,月2回の運動指導のみで自宅でのトレーニングを促しても身体能力の向上という効果はでにくいと考えられる.
著者
松本 佳那子 松田 昌子 宮田 富美 唐樋 さや香 市原 清志 平野 均
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.167-172, 2006 (Released:2007-01-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

【目的】高照度光照射療法は脳内におけるセロトニンやメラトニン分泌に影響を与えることにより種々の疾患の治療法として期待されている.今回我々は,月経前症候群など,月経周期に伴って出現する症状に対する治療への応用を探索するために,高照度光照射が正常月経周期の自律神経機能にどのように影響するかを検討した.【方法】正常な月経周期を示す21±1歳の女子大学生6名を対象に,基礎体温に基づいて卵胞期と黄体期の各時期に,ホルター心電計により24時間の心電図を記録し,その間に白色発光ダイオード(白色LED)照射実験を行った.記録した心電図上のR-R間隔をMEMCALC法によりスペクトル解析し,自律神経機能の変動を観察した.【結果】正常月経周期では副交感神経活動をあらわすHFは黄体期に低く卵胞期に高く,交感神経活動をあらわすLF/HFは黄体期に高く卵胞期に低かった.高照度光照射により黄体期にはLF/HFは,HFに比べ変動が大きかった.【結論】正常月経周期では卵胞期には副交感神経活動がより高まり,黄体期は交感神経活動がより高まった.高照度光照射は黄体期の交感神経活動の反応の変動をより大きくするも,卵胞期にはそのような変化はみられなかった.
著者
嶋岡 麻耶 山勢 博彰 田戸 朝美 向江 剛
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2+3, pp.51-63, 2022-08-31 (Released:2022-11-02)
参考文献数
22

本研究の目的は,深部静脈血栓症の理学的予防法のうち足関節底背屈他動運動を取り入れたケアが下肢血行動態及び安楽に与える影響を明らかにすることである. 方法は,20歳以上40歳未満の健常女性16名に対し単純ランダム割付クロスオーバーデザインを用いて,intermittent pneumatic compression(IPC)を75分間装着する群(IPC群),IPCを15分間装着し除去後30分に1分間足関節底背屈他動運動の介入を行い,その後30分間IPCの再装着を行わない群(足関節運動群),IPCを15分間装着し除去後60分間IPCの再装着,及び足関節底背屈他動運動の介入を行わない群(IPC除去群)の3群を行った.下肢血行動態,凝固線溶反応,自律神経活動,主観的感覚を評価した. 足関節運動群は足関節底背屈他動運動後,大腿静脈最高血流速度及び脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化(ΔHHb)が低下した.凝固線溶反応のうちフィブリンモノマー複合体(FMC),トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT),プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)は介入による変化はなかった.自律神経活動のうちhigh-frequency component(HF)はIPC群で15分以降,他の2群と比較して低値で推移した.主観的感覚はIPC群が最も高値であった. 足関節運動群は下肢静脈うっ滞の増悪及び凝固能の亢進を生じず,IPCを継続使用した場合に生じる不快の感覚を軽減させる介入であることが示唆された.
著者
松隈 聰 長島 淳 原田 俊夫 河岡 徹 平木 桜夫 福田 進太郎
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1+2, pp.57-61, 2012-05-01 (Released:2013-03-04)
参考文献数
16

症例は40代男性.入院2週間前から心窩部痛,背部痛を生じ,1週間前より微熱,全身倦怠感も伴うようになった.その後,40℃の発熱を来たし,体動困難となったため,救急車で当院搬送となった. 来院時,心窩部で肝臓を触知,軽度の圧痛を伴っていた.血液検査では高い炎症所見と軽度の肝酵素の上昇を認めた.腹部造影CT検査で肝左葉に70㎜大の境界明瞭,分葉形の低吸収域を認め,肝膿瘍と考えられた.経皮経肝膿瘍ドレナージを行い,赤褐色調の排液を認めた.細菌性肝膿瘍を考えセフメタゾール投与を開始したが,3日後にも解熱しないため,アメーバ性肝膿瘍を疑いメトロニダゾール2g/日の経口投与を開始,翌日から速やかに解熱した. 肝膿瘍内容液の培養では赤痢アメーバを検出できなかったが,血清抗体検査でアメーバ性肝膿瘍の診断に至った. 入院24日目に施行したCT検査では膿瘍腔はほぼ消失していたため,ドレーンを抜去,入院33日目に軽快退院となった. 入院中に施行したHIVスクリーニング検査の結果は陽性で,また患者本人から男性同性愛者であるとの情報が得られた. 肝膿瘍の原因として赤痢アメーバを鑑別に挙げることは重要であるが,男性同性愛者にみる腸管感染症(Gay bowel syndrome)からHIVの可能性を考え,未診断のHIVを拾い上げる努力が,さらに重要なことと考えられた.
著者
正村 啓子 岩本 美江子 市原 清志 東 玲子 藤澤 怜子 杉山 真一 國次 一郎 奥田 昌之 芳原 達也 Keiko MASAMURA Mieko IWAMOTO Kiyoshi ICHIHARA Reiko AZUMA Reiko FUJISAWA Shinichi SUGIYAMA Ichirou KUNITSUGU Masayuki OKUDA Tatsuya HOBARA 山口大学医学部保健学科・医学科 山口大学医学部保健学科 山口大学医学部保健学科 山口大学医学部保健学科・医学科 山口大学医学部保健学科・医学科 山口大学医学部医学科 山口大学医学部医学科 山口大学医学部医学科 山口大学医学部医学科 Faculty of Health Sciences Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Health Science Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Health Science Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Health Sciences Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Health Sciences Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine Faculty of Medicine Yamaguchi University School of Medicine
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.13-21, 2003-04-30
参考文献数
34
被引用文献数
1

The purpose of this study was to investigate the stress level and resources of student's nurse engaged in clinical practice and examine the relationships between their stress and daily life. Data were obtained by self-report questionnaires from 63 nurse students who had just finished the clinical practice component of a Junior College Diploma Course. A 59-item questionnaire, that investigated the student's nurse stress (55-items) and their daily life (4-items), as well as a demographic data questionnaire was used. Data were analyzed via t-tests and factor analysis. The findings revealed that the student nurses found the time required to write practical records after school and conflicts with nurses to be the most stressful aspect of their clinical practice experience. Factor analysis revealed that the stress level of the students who were living with family was lower than that those living by themselves (p<0.1). In addition, the stress level of the students having interchange with other students' was significantly lower than that of the students having little interchange with other students (p<0.05). These findings suggest that the stress level of nursing students may be decreased through decreased paperwork requirements of the practical records form and by encouraging interchange between students.