著者
古賀 雄二 村田 洋章 山勢 博彰
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.93-101, 2014-05-01 (Released:2014-07-11)
参考文献数
29
被引用文献数
1

目的:せん妄はICU患者の入院期間延長や生命予後悪化につながるが,スクリーニングされずに見落とされ,治療されないことも多い.Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit(CAM-ICU)は,ICUでのせん妄評価法として国際的に認められた方法である.CAM-ICUには評価手順を効率化したConfusion Assessment Method for the Intensive Care Unit Flowsheet(CAM-ICUフローシート)が作成されている.本研究は日本語版CAM-ICUフローシートの妥当性・信頼性の検証を目的とする.研究方法:日本の2ヵ所の大学病院ICUで実施された.妥当性評価として,精神科医が評価するDSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition, Text Revision)をせん妄診断の標準基準として,リサーチナースおよびスタッフナースの日本語版CAM-ICUフローシート評価と比較し,感度・特異度を算出した.また,リサーチナースとスタッフナースの日本語版CAM-ICUフローシートの評価を比較し,評価者間の信頼性を評価した.結果:評価対象者数は82名であり,DSM-IV-TRでのせん妄有病率は22.0%であった.興奮・鎮静度はRASS(Richmond Agitation Sedation Scale)-0.33~-0.28であった.DSM-IV-TRに対するリサーチナースとスタッフナースの日本語版CAM-ICUフローシート評価結果は,感度が78%と78%,特異度が95%と97%であった.日本語版CAM-ICUフローシートに関するリサーチナースとスタッフナースの評価者間の信頼性は高かった(κ=0.81).結論:日本語版CAM-ICUフローシートは,せん妄診断の標準基準(DSM-Ⅳ-TR)に対して妥当性を有し,評価者間の信頼性も高く,ICUせん妄評価ツールとして使用可能である.
著者
福田 吉治
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.219-224, 2010-12-31

生活習慣病の予防には早期から健康的な生活習慣を確立する必要がある.また,生活習慣病対策の立案と評価にあたり,対象となる集団における健康に関連した生活習慣のアセスメントと変化のモニタリングをできるだけ正確に行わねばならない.本研究は,地域における生活習慣病対策の立案ならびに評価の基礎資料を得るための試みとして,新成人を対象とした健康関連生活習慣調査を行った.山口県内の3市町の成人式(平成22年1月)において,新成人に調査票を配布し,当日提出または後日郵送にて回収した.主な調査項目は,基本属性,自覚的健康度,健康に関連した生活習慣(食生活,運動習慣,飲酒経験,喫煙等)であった.配布数は1761で,有効回答数は324(有効回答率18.4%)であった.自覚的健康度が「あまりよくない/よくない」の者6.8%,朝食を欠食しやすい者32.1%,運動習慣のない者74.1%,飲酒経験者84.6%,現在喫煙している者8.8%であった.学生に比較して,就業者で有意に喫煙率が高かった(オッズ比=3.6).回答率は20%に満たず,喫煙率が過少に見積もられている可能性が高く,調査の課題が明らかになった.就業者の高い喫煙率から,低い学歴または早期の社会参加が喫煙を促進することが示唆された.効率的にかつ精度高く生活習慣を評価できる調査方法,調査の結果を活かした介入方法を検討する必要がある.
著者
兼平 朋美 守田 孝恵
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 = Yamaguchi medical journal (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.75-87, 2017-05

目的:本研究は,精神保健活動の保健師の家庭訪問スキルを向上させるための新たなケースシートを考案し,それを用いた事例検討会を行い,その効果を検討することを目的とした.方法:家庭訪問スキルを「アセスメント項目」と「家庭訪問後の評価項目」に分けて構成したケースシートを用いて事例検討会を実施した.事例検討会は2014年度に実施した2事例すべて(計4回)を分析対象とした.すべての事例検討会に参加した保健師を分析対象者とし,事例検討会の開始前,終了後に調査票による評価を依頼した.6因子36項目からなる「精神保健活動における保健師の家庭訪問スキル」を用いて,スキルの習得状況を4段階(1~4点)で評価した.総スキル得点と6因子からなる各因子のスキル得点により分析した.結果:総スキル得点は,各事例検討会の実施により,すべての事例検討会で有意に向上し(p<0.05),事例検討会全体の開始前と終了後では13.0点上昇した(p<0.05).6因子のスキル得点では,「ニーズを見極める」スキル得点,「家族関係をとらえる」スキル得点が有意に向上した(p<0.05).また,有意差はなかったが,「家庭訪問を管理する」等の4つの因子スキル得点においても上昇傾向がみられた.事例1と事例2において総スキル得点は,事例検討会1回目も2回目も同様に有意に上昇しており,事例検討会2回目は事例の経過報告と事例検討を行なうことで,新たな事例を提供する事例検討会1回目と同様の効果が得られた.結 論:ケースシートを用いることで,全ての事例検討会において家庭訪問スキルを向上させる効果が認められた.「ニーズを見極める」スキル得点,「家族関係をとらえる」スキル得点を上昇させる効果が示された.家庭訪問スキルを効率的に向上させるにはケースシートを用いて,1事例につき事例検討会を2回実施する方法が効果的であった.For the purpose of improving home visiting skills for mental health services, a new report format was developed. This study was designed to examine the effectiveness of the new report format through the use of case study sessions. Four case study sessions were implemented with the new report format, which is composed of six factors and 36 items of home visiting skills. The"Public Health Nurses'Home Visiting Skills for Mental Health Services"were used for evaluation on a scale of one to four(1-4 points for each item).The evaluation scores all significantly improved after each case study session compared to those before the session. The scores improved by 12.6 points from the beginning of entire case study session until the end(p<0.05).Of all the home visiting factors,"Determining Needs"and"Understanding Family Relationships"were most significantly improved(p<0.05).Although not so significant, the other four factors, including"Managing the Home Visiting"were also improved. The case study sessions with the new report formats was proven to be effective for improving home visiting skills for mental health services.
著者
山下 進
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.193-200, 2007 (Released:2008-02-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

【背景】尿中の3-メチルヒスチジン(3-methyl histidine, 3-MH)は筋タンパク異化の程度を反映する指標とされている.近年ではより短時間のタンパク代謝を評価する方法として,血中の3-MHが用いられることがある.しかし,これまでにヒトでの測定報告は少なく,その基準値は決められていない.【目的】健常成人における血中3-MHの基準値(範囲)を求め,重度侵襲患者の血中3-MHと比較する.そして侵襲時,タンパク異化の指標と成り得るかを検討する.【方法】健常成人101名の血中3-MHを高速液体クロマトグラフで測定した.重度侵襲患者6名の血中3-MHを経日的に測定し,基準値と比較した.また,血中アルブミン,急性相タンパクおよび尿中3-MHを経日的に測定し,タンパク代謝を評価した.【結果】健常成人の血中3-MHの基準範囲は0.91~5.59 nmol⁄mlとなった.男性では1.22~6.26 nmol⁄ml,女性では1.09~4.41 nmol⁄mlであり,男性が有意に高値を示した(p<0.05).筋肉量による補正のために3-MH⁄血中クレアチニン値(3-MH⁄Cre)を算出すると,男女差がなくなり,健常成人全体では0.13~0.53 nmol⁄μg Creが基準範囲となった.重度侵襲患者では健常成人に比して血中3-MH⁄Cre値は有意に高値であり(0.59±0.12 vs 0.33±0.10 nmol⁄μg Cre, p<0.05),筋タンパクの異化亢進が示唆された.重度侵襲患者の血液では3-MH⁄Creとアルブミン,急性相タンパクにそれぞれ相関を認めなかった.【結論】健常成人の血中3-MH⁄Creの基準値を設定した.筋肉量の差があるために男女別の基準値か,クレアチニン値で補正した値を用いる必要がある.重度侵襲患者では明らかに血中3-MH⁄Creは上昇し,タンパク異化亢進が強く示唆された.
著者
廣瀬 春次
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.11-16, 2012-05-01
参考文献数
15
被引用文献数
2

量的研究法と質的研究法の両者を含む混合研究法は,研究の妥当性・信頼性を高めるとともに,量的研究と質的研究のパラダイム論争に一つの方向を与える第3の研究法として発展してきた. 混合研究法を用いる研究者は,実証主義と構成主義という2つの異なるパラダイムを持つ量的研究と質的研究を併用するという点で,その哲学的前提について無関心ではいられない.現在,混合研究法のパラダイムとして最も支持されるのは,実用主義であるが,弁証法も有力である. 混合研究法の分類については,現在,統一されたものはないが,混合研究法の表記法については,共通のものが開発されている.著者は,混合研究法として分類されるには,質的・量的研究のいずれも,完全な研究として示されることが必要であることを提案した. 日本看護科学会誌の最近10年間の混合研究法を検索した結果,それ以前の10年間の検索結果とほとんど差がないことが示された.今後の混合研究法の展望として,一つの研究の中で2つの方法を相互参照するだけではなく,異なる研究間での相互交流が期待される.
著者
服部 幸夫
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.637-644, 2001-06-30
被引用文献数
4 2

Japanese individuals with thalassemia (thal) are mostly heterozygous and asymptomatic except for microcytosis. The frequency of β-thal in Japan is one in 700-1000, and that of α-thal appears to be one-fifth of β-thal. Mutations for β-thal is heterogenous, with 8 types of mutation comprising almost 80% of all Japanese β-thalassemiacs. About 40% of the mutations seem to have been contacted from abroad. Twenty homozygotes from more than 280 thalassemiacs have been found. Eighteen homozygotes have A-G mutation at the second base of TATA box (-31 A-G) bringing about relatively mild phenotype (β^+). The -31 A-G mutation is most frequent of all Japanese β-thal's. Six rare mutations, despite being heterozygote, showed hemolytic anemia which is also called, "dominant-type thalassemia", and some of them demonstrated Heinz bodies in the red blood cells. The microcytosis which is characteristic of all thal, is well compensated for by an increased number of red blood cells. However, dominant-type and homozygotes for β-thal have not been compensated, resulting in anemia. The initiation codon mutations, in particular, have revealed remarkable erythremia. More than half of the α^0-thal found in the Japanese have been of the Southeast Asian type (--SEA), followed by the Filipino type (--FIL). The precise breakpoints for nearly 40% of the α^0-thal mutations remain undetermined. However, rough estimation has suggested heterogenous deletions. The α^+ thal chromosomes which are the base for emerging HbH disease, have been found in 0.25-1.55% of general population.
著者
廣瀬 春次
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1+2, pp.11-16, 2012-05-01 (Released:2013-03-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

量的研究法と質的研究法の両者を含む混合研究法は,研究の妥当性・信頼性を高めるとともに,量的研究と質的研究のパラダイム論争に一つの方向を与える第3の研究法として発展してきた. 混合研究法を用いる研究者は,実証主義と構成主義という2つの異なるパラダイムを持つ量的研究と質的研究を併用するという点で,その哲学的前提について無関心ではいられない.現在,混合研究法のパラダイムとして最も支持されるのは,実用主義であるが,弁証法も有力である. 混合研究法の分類については,現在,統一されたものはないが,混合研究法の表記法については,共通のものが開発されている.著者は,混合研究法として分類されるには,質的・量的研究のいずれも,完全な研究として示されることが必要であることを提案した. 日本看護科学会誌の最近10年間の混合研究法を検索した結果,それ以前の10年間の検索結果とほとんど差がないことが示された.今後の混合研究法の展望として,一つの研究の中で2つの方法を相互参照するだけではなく,異なる研究間での相互交流が期待される.
著者
中村 一平 奥田 昌之 鹿毛 治子 國次 一郎 杉山 真一 藤井 昭宏 松原 麻子 丹 信介 芳原 達也
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.279-289, 2004-12-31
被引用文献数
1 1

【目的】現在まで高齢者の介護予防や体力増進に関する多くの研究が行われているが,コントロール群との比較を行っているものは数少ない.今回,運動介入の効果を検証するため,同一町内に居住し,同じ介護老人福祉施設で同じサービスを受けている高齢者を居住地区と通所曜日により2群に分け,対照群をおき非介入期間を設け運動介入時期をずらしてクロスオーバー研究を行った.【方法】ある介護老人福祉施設の「生きがい活動支援通所事業」の参加者に,研究調査に関して文書で説明を行い,書面で同意を得た女性25名(80.3±3.4歳)を対象とした.2003年6月〜2004年1月に,介入先行群10名に3ヵ月間に5回の運動介入を行い,3ヵ月後に介入する群を入替え,介入後行群15名に同様の運動介入を行った.また,介入期間中はホームプログラムを促した.運動は特別な道具が要らず簡単なものとし,ウォーミングアップ5分,ストレッチング15分,筋力増強15分,クールダウン5分の計40分間で,デイサービスの時間に行った.測定項目は,握力,背筋力,10m歩行速度・歩数,40・30・20cm台からの立ち上がり,40cm台昇降,開眼・閉眼片足立ち,タンデム歩行安定性,Danielsらの徒手筋力検査法,老研式活動能力指標とした.【結果と結論】クロスオーバー研究でコントロールとなる非介入期間と比べて介入期間のトレーニング実施により背筋力(p=0.032)が増強した.介入期間の前後では背筋力の他に,股関節屈曲力,膝関節屈曲力・伸展力,足関節底屈力が増加したが,これらも非介入期間と比較すると有意差はなかった.クロスオーバー研究の制限はあるが,地域高齢者のデイサービス利用者で平均80歳の高年齢の場合には,月2回の運動指導のみで自宅でのトレーニングを促しても身体能力の向上という効果はでにくいと考えられる.
著者
日野 啓輔
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.103-108, 2005 (Released:2006-09-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

著者は山口大学医学部第一内科入局以来,主にウイルス性肝炎の病態と治療に関する研究を行ってきた.本総説ではC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染機序と肝発癌機構についてわれわれのデータを紹介しながら考察を行った.HCVが末梢血単核球細胞内に感染することにより宿主の免疫応答から回避する可能性や,外被タンパク内に存在する超可変領域の変異を繰り返すことによる中和抗体からの逃避が持続感染機序の一要因と考えられた.こうしたHCV持続感染は究極的には高率な肝細胞癌の発生へと繋がるが,肝発癌にはHCVがもたらす酸化ストレスが関与していると考えられる.しかし,HCVのみの酸化ストレスでは肝発癌には不十分であり,酸化ストレスを増強する2nd hitが重要と考えられる.臨床的には加齢,アルコールなど酸化ストレス増強因子はいくつか上げられるが,われわれはC型肝炎病態の特徴の一つである肝内鉄過剰に注目しC型慢性肝炎の鉄過剰状態に類似したHCVトランスジェニックマウスを作成し,肝発癌機構の解析を行った.その結果,HCV感染における鉄過剰状態はミトコンドリア障害を引き起こし,酸化ストレスを増強することで肝発癌を促進することが明らかとなった.今後はこの発癌モデルを利用して,C型肝炎からの肝発癌を抑制しうる効果的な治療を開発したいと考えている.
著者
市山 高志
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.5-8, 2010-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

「インフルエンザ脳症」は約10年前に疾患概念が提唱された比較的新しい病気である.本疾患は「インフルエンザの経過中に急性発症する意識障害を主徴とする症候群」と定義される.剖検脳では,著明な脳浮腫を認めるものの,炎症細胞浸潤やインフルエンザウイルスはみられない.従ってインフルエンザ脳炎ではなく,「インフルエンザ脳症」と命名された.当時は死亡率30%,後遺症率25%という極めて予後不良であった.その後の研究で,本疾患の病態に高サイトカイン血症が関与し,末梢血単核球の転写因子NF-κB活性化が明らかになった.抗サイトカイン療法としてステロイドパルス療法および免疫グロブリン大量療法が提唱され,普及した現在は死亡率10%弱に低下した.しかしインフルエンザ脳症の病態は単一でないことが明らかになり,現在は高サイトカイン血症が病態の中心でない「けいれん重積型脳症」といわれるタイプが,高率に神経学的後遺症を残すことから問題となっている.このタイプの病態は長時間のけいれんによる神経細胞に対する興奮毒性が主と考えられている.従って,ステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量療法は有効でなく,なんらかの脳保護的治療が模索されている.しかし,現時点で有効性が証明された治療法はなく,効果的な治療法開発が今後の課題である.
著者
野口 哲央 花園 忠相 森 健治 沖田 幸祐 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.241-246, 2013-11-01 (Released:2014-02-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

症例は65歳の女性で,下腹部痛を主訴に受診し,腹部CTで内臓動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断された.血管造影検査では広範囲にわたって血管径の不整や動脈瘤が認められ,回結腸動脈瘤が出血源と考えられた.動脈塞栓術にて症状は改善した.血管造影所見から分節性動脈中膜融解,segmental arterial mediolysis(以下,SAM)と診断された.TAE後1年10ヵ月のCTでは,未治療の動脈瘤と血管狭窄は消失していた.SAMは比較的稀な疾患であり,長期予後の報告もないため自然予後を理解する上で興味ある症例と思われたので,報告する.
著者
宮原 誠 西山 光郎 吉田 久美子 一宮 正道 多田 耕輔 藤田 雄司 秋山 紀雄 久保 秀文 長谷川 博康 宮下 洋
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1+2, pp.29-34, 2011-04-30 (Released:2011-07-01)
参考文献数
36

症例は37歳,男性.トラックの荷台から飛び降りた際,立てかけてあった熊手の柄が肛門より刺入した.柄を自己抜去した後,肛門出血および疼痛が出現し当院救急搬送された.受診時,下腹部に軽度圧痛があり,肛門の5時から8時の方向にかけ挫傷を認めた.腹部CTで右傍直腸腔内に血腫および遊離ガスを認め,注腸造影で造影剤の腸管外への漏出を認めた.以上より,杙創による直腸穿孔と診断し緊急手術を施行した.開腹時,右傍直腸腔内に血腫,体毛,衣服の断片が存在し,直腸Rb部右壁に1.8cm大の穿孔を認めた.穿孔部を縫合閉鎖し,S状結腸を用いた人工肛門を作成した.また経肛門的に裂創部粘膜を縫合した.経過は良好で術後25日目に退院,8ヵ月後に人工肛門を閉鎖し完治した.杙創において,会陰部や肛門周囲から刺入した場合には骨盤内臓器や腹腔内臓器を損傷する危険性があり,受傷早期に臓器損傷の有無とその程度を把握し,これに応じた治療を迅速に行う必要がある.また体腔内に異物が存在することもあり注意すべきであると思われた.
著者
徳田 信子
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.23-29, 2016-02-01 (Released:2018-03-08)
参考文献数
29

近年,摂取脂肪酸の多寡やバランスが種々の炎症性疾患やアレルギー性疾患に与える影響が注目されている.しかし,栄養学的な知見が数多く報告されているのに対し,機序の詳細には不明な点が多い.多価不飽和脂肪酸は水に不溶であるため,細胞内でその機能を発揮するためにはキャリアーが必要となる.我々は多価不飽和脂肪酸を可溶化する細胞内キャリアーである脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid Binding Protein:FABP)に着目し,免疫系支持細胞での発現や機能について検討している.免疫系の組織では,細網細胞と呼ばれる支持細胞が自身の産生する線維とともに網状構造をつくり組織を維持していることが従来から知られてきた.しかし近年,支持細胞は免疫細胞の移動や機能,恒常性の維持にも重要な役割を持つことが明らかになってきた.また,それぞれの免疫組織に特異的な支持細胞があり,同じ組織の中でもそれぞれの場に応じた機能を持つ細胞が存在していることがわかってきた.特に,リンパ節のT細胞領域の線維芽細胞はfibroblastic reticular cell(線維芽細網細胞,FRC)と呼ばれ, T細胞の移動や分化などに重要な役割を担っている.我々は,神経系に特異性が高いと考えられてきた脳型脂肪酸結合タンパク質FABP7がFRCに発現し,T細胞の恒常性に寄与していることを明らかにした.また,脾臓のT細胞領域にも同様の細胞が存在することを示した.FABP7は肝臓固有のマクロファージであるKupffer細胞にも発現し,サイトカイン産生や,スカベンジャー受容体を介した死細胞の貪食を調節し,急性肝障害および肝線維化の病態に関与していた.また,FABPは表皮の恒常性の維持や中枢神経系の傷害からの回復など,生体防御に広く寄与していた.これらのことから,支持細胞を中心としたさまざまな免疫細胞がそれぞれに固有の脂肪酸のキャリアーを持ち,他の細胞の機能を調節することで免疫応答を制御していることが示唆された.
著者
岡野 こずえ
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.5-9, 2015-02-01 (Released:2016-05-11)
参考文献数
11

血小板は直径2~4μmの円盤状で,無核の微小細胞である.しかし,その内部のα顆粒には血小板由来増殖因子,β-トロンボグロブリン,von Willbrand(vWF)因子,濃染顆粒にはADP,ATP,セロトニンなど様々な物質を含んでいる.また血小板膜表面にはvWFの受容体の膜糖蛋白(GP)Ib/Ⅸ/Ⅴ複合体やコラーゲンの受容体であるGPⅥなど特有の機能的GPが存在し,生体の止血機構に重要な役目を果たしている.一方,血小板は活性化し易く形態の変形や粘着・凝集を起こし,崩壊後に微細粒子(MP)化することから,臨床検査法の対象としては取り扱いの難しい細胞でもある.その血小板に関して,測定方法に始まり巨核芽球性白血病の診断方法,血小板機能評価方法と血栓止血機構との関連性をテーマに研究を進めてきている. 活性化血小板由来マイクロパーティクル(aPLT-MP)は,強力な凝固活性促進や炎症促進作用を持ち,止血作用だけでなく脳梗塞や心筋梗塞の病因となる動脈硬化病変の形成にも強く関連している.しかし,MPは血小板の他に単球や血管内皮細胞など様々な細胞から産生され,細胞によってその動脈硬化病変の形成作用が異なると考えられているが,それらを鑑別測定できる検査法は確立されていない.現在,我々は血液中の多様なMPの中でもaPLT-MPを特異的に定量出来る高感度ELISAを開発し,種々の血栓症患者を対象に臨床的有用性の検討に取り組んでいる.さらに,aPLT-MP以外のMP検出法を開発し,各細胞由来MPが血栓形成作用や炎症促進作用にどのように関与しているかをaPLT-MPとの比較で明らかにする研究を行っている.今回はその研究経過について報告する.
著者
橋本 憲輝 近藤 浩史 衛藤 隆一 小佐々 博明 清水 良一
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.261-265, 2009-12-31 (Released:2010-01-28)
参考文献数
10

症例は61歳,女性.2008年12月,当院内科にて検診目的で下部消化管内視鏡検査(colonoscopy,以下CS)が施行された.3日後に軽度の嘔気・下腹部違和感を認めたが,経過観察されていた.7日後,腹痛が増悪したため,同科を再診した.腹部骨盤単純CT検査により穿孔性腹膜炎と診断され,加療目的で当科へ紹介された.当科受診時,腹部にやや膨満があり,全体的に圧痛,反跳痛を認めた.腹部骨盤単純CT検査では腹腔内に遊離ガスが散見され,腹水も認めた.結腸穿孔ならびに急性汎発性腹膜炎と診断し,緊急開腹術を施行した.手術所見では,直腸RS部近傍のS状結腸に腸間膜経由での穿孔を認め,腸間膜内には多量の便塊,便汁が貯留していた.穿孔部より口側でS状結腸と骨盤腔内左卵巣近傍の壁側腹膜との間で強固な線維性の癒着を認めた.術式は急性汎発性腹膜炎手術,S状結腸切除術,人工肛門造設術(ハルトマン手術)を施行した.術直後から急性呼吸窮迫症候群を発症したが,集中治療により軽快した.術後第52病日に独歩にて自宅退院された.2009年3月当科にて人工肛門閉鎖術を施行した.CS施行後,汎発性腹膜炎の発症が7日目である稀な症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
中澤 淳
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.5-14, 2013-02-01 (Released:2013-03-14)
参考文献数
33

江戸時代の毛利藩における医学教育は,本藩と4つの支藩において独自の展開をみせた.また,長崎との距離や交通の要衝下関の存在は,防長二州(周防,長門)における西洋医学の受け入れを助けたと考えられる.歴史的には徳山藩における医学館および四熊家の私塾見学堂が古く,天保年間に萩本藩に開設された好生館(堂)は,漢方と蘭方の優秀な教授陣による医学教育機関であった.明治に入ってから赤間関(下関)と三田尻(防府)における医学校開設や独自の医術試験施行など,新たな機運が盛り上がったが,それらは比較的短命に終わり,本格的医学教育は第2次大戦中宇部に創設された山口県立医学専門学校により再開された.
著者
神田 隆
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.5-11, 2005 (Released:2006-02-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

中枢神経では血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB),末梢神経では血液神経関門(Blood-nerve barrier, BNB)が神経系の内外を隔てるバリアーの実体であるが,現在ではBBB,BNBは物質交換を妨げる単なる壁ではなく,現在では神経系に対する物質透過を選択する能動的なシステムであると考えられている.臨床的な立場からは,BBB,BNBは炎症細胞や各種液性因子が神経実質内へと侵入する際の窓口であると共に,難治性神経疾患治療薬が神経細胞・神経軸索へと到達するのを阻む最大の障壁ともとらえることが可能で,BBB,BNBの人為的な操作は各種神経疾患の新たな治療法開発へ新たな地平線を開くものである.
著者
宮崎 睦子 田口 昭彦 櫻木 志津 篠原 健次 井上 康 Mutsuko MIYAZAKI Akihiko TAGUCHI Shizu SAKURAGI Kenji SHINOHARA Yasushi INOUE 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial
雑誌
山口医学 = Yamaguchi medical journal (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.183-187, 2003-10-31
参考文献数
12

A 66-year-old male complained of thickening of the skin at the face, posterior neck and back after a febrile episode. The patient had obesity, elevated levels of HbA1C and urinary C-peptide. The seological tests for collagen diseases were negative. The serum level of vascular endothelial growth factor (VEGF) was elevated. The biopsied skin specimen revealed the thickening of the dermis by the increased proliferation of collagen fibers, thickening of collagen bundles with fenestrations and infiltration of lymphocytes. Scleredema caused by diabestes mellitus and obesity was diagnosed, accompanied with insulin resistance. The patient was initially treated with administration of prednisolone, followed with diet therapy. Scleredema ameliorated partially, however elevated level of VEGF persisted after 6 months of discharge. It is unclear whether elevated level of VEGF may be related to the pathogenesis of the disease or may be an aggravating factor.