著者
田野 宏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.17-34, 1983-01-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

本稿は,霞ヶ浦岸の沖積低地における蓮根生産について,栽培導入期の異なる2集落(土浦市田村・沖宿)の土地条件の差異が,蓮根経営にどのような影響を与えているかを明らかにしようとしたものである. 霞ヶ浦岸の中でも土浦入北岸は,全国一の蓮根の集団産地であるが,特に減反政策以後に蓮田面積の増加が著しい.しかし,新たに産地化した栽培地の土地条件をみると,必ずしも蓮根生産に好適とはいえない水田が見受けられる.これらの水田を経営する農家は,蓮根に適した土地条件をそなえた水田を経営する農家と比べ,同程度もしくはそれを上回る生産費を投下しているにもかかわらず,単位面積当たりの収量が低いために,農業所得率・土地生産性・労働生産性において低位であることが明らかとなった。減反政策以後,栽培面積は拡大したものの,所与の土地条件の差が経営内容にも影響を与えているといえよう.この場合,転作奨励金が,結果として,土地条件の差によってもたらされる収益の開きを補完する役割を果たしており,新興産地の経営が転作奨励金に大きく依存している状況をうかがい知ることができる.