著者
甲斐 徳久
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.95-102, 2019 (Released:2020-01-14)
参考文献数
72

今日に至るまでの足掛け40年間、一貫して海洋生態系における「水銀」および「セレン」を対象として、環境・生物分析化学的ならびに微量元素栄養学的視点からのプロジェクト研究を行ってきた。当初の研究では、主要海洋生態系の両元素をそれぞれ定量し、それぞれのモル基準で換算したモル比(Se/Hg)が自然蓄積される水銀濃度の増大とともに著しく減少し、ほぼ1に漸近することを認めた。環境分析化学的研究では、海水、懸濁物、沈降粒子および底泥中の「セレン」を状態分析することにより、当該海域における物質の鉛直循環および海洋環境を予察した。生物分析化学・微量元素栄養学的研究では、養殖魚で「水銀」蓄積が抑制されるとともに、「セレン」含有酵母飼料を投与することにより、明瞭な肝機能促進が認められた。加えて、魚類非可食部の「水銀」の安全性とともにセレンの効能を利用した健康食品の開発の基盤が期待された。