著者
松本 和也 羽鳥 剛史 竹村 和久
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.165-172, 2015 (Released:2015-12-25)

本研究の目的は、オルテガの論ずる「大衆」とウェーバーの論ずる「官僚制」の概念を用い、今日の我が国における官僚批判の心理構造について実証的に検討することである。この目的の下、大衆性を測定する大衆性尺度及び官僚制化に関わる形式性追求傾向尺度、政治・社会の官僚制化に関わる態度指標を用いたアンケート調査(n = 400)を行い、これらの関連を調べた。その結果、大衆性尺度と形式性追求傾向尺度との間に正の関連性が示され、大衆性の高い個人ほど、マニュアル等の形式性を追及する傾向にあることが示された。また、大衆性と政治の官僚制化に関わる態度の関係性として、傲慢性と吏員型官僚支持意識との間に正の関連性が、自己閉塞性と政治的官僚支持意識との間に負の関連性が示された。さらに、大衆性と社会の官僚制化に関わる態度の関係性として、傲慢性と社会の官僚制化に関わる態度との間に総じて正の関連性が示された。最後に、本研究の結果が大衆による官僚制化の弊害を抑止する上で示唆する点について考察を行った。
著者
鈴木 利雄 川治 健一 関口 理希 石川 智士 伊藤 智博 立花 和宏
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.123-1128, 2016 (Released:2016-07-07)

関東大震災をきっかけに固定電話網の整備のためにダイヤル式電話機と自動交換機の技術のニーズは生まれ、黒電話が産声を上げた。終戦を経て高度成長期に黒電話の完成版600型が世に姿を表した。電電公社がダイヤル自動化100 %を目指す中、日本はオイルショックの狂乱物価に見舞われた。黒電話の製造コストを下げるため、完成されたと言われた黒電話600型をさらに改善することを余儀なくされた。山形大学工学部電気工学科を卒業して間もない鈴木を中心として山形県米沢市の田村電機で黒電話601A型ダイヤル開発が行われた。新しく開発された黒電話601A型は日本の家庭を電話で隅々までつないだといっていい。本稿はその開発の状況がいかがなものであったか時代背景とともに書き残すものである。
著者
荻原 祐二
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-72, 2023 (Released:2023-06-30)

本論文は、これまで検討されていなかった過去の「現代用語の基礎知識」を遡り、キラキラネームについての説明を検証することで、キラキラネームの定義と表記の更なる検討を行った。まず、現代用語の基礎知識における定義は、これまで整理されてきた定義における広義である「頻度が低い名前」に加えて、狭義を構成する「伝統から逸脱した名前」と「読むことが難しい名前」の要素は備えていたが、「肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」という要素は備えていなかった。そして、現代用語の基礎知識では、「キラキラネーム」と表記されており、他の多くの辞典・事典と主要な全国紙、学術文献における表記と一致していた。全体として、これまで整理されてきた定義や表記と一致しており、これまでの知見が妥当なものであることを確認すると同時に、これまでの知見に大きな修正・加筆を行う必要性は低いことを示した点で意義がある。また、本論文は、キラキラネームがいつ、代表的な現代用語事典に取り上げられるようになったのかに関する情報を提供した点でも意義がある。現代用語の基礎知識において初めて言及されたのは、2012年11月発売の現代用語の基礎知識2013であり、この掲載をもとに、2012年の新語・流行語大賞にもノミネートされていた。よって、2012年の段階で、キラキラネームという言葉は、日本社会の中で広く一般的に使用され始めていたことを示していた。
著者
荻原 祐二
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.149-158, 2017 (Released:2018-01-06)
被引用文献数
2

本稿では、近年の日本における成果主義制度導入状況の経時的変化を分析した。個人の短期的で顕在的な成果・業績に基づいて評価・処遇を行う成果主義制度が、1990年代から日本において導入されてきた。しかし、成果主義制度導入の近年の状況と、その変化の境界条件・調整要因(職層や企業規模)、そして成果主義制度を構成する制度間の経時的変化の違いは十分に明らかでなかった。日本における企業活動の歴史と現状を客観的に把握し、経営・経済制度と相互に影響を与え合っている人々の心理・行動の変化を理解するためにも、これら3点を含めて成果主義制度導入状況の経時的な変化を明らかにする必要がある。そこで本稿では、日本生産性本部と厚生労働省が、1991年から2016年まで継続して実施している2つの大規模な調査を用いて分析を行った。その結果、2つの調査で一貫して、1996年から2016年にかけて、年齢や勤続年数に基づいて評価・処遇を行う年功制を導入している企業の割合は低下していた。さらに、1991年から2014年にかけて、労働者の短期的な業績に応じて賃金を年単位で設定する年俸制を導入している企業の割合及び適用労働者の割合は増加していた。年功制の低下と年俸制の増加は、職層と企業規模に関わらず、広範囲の企業及び労働者において見られた。よって、ここ約30年で成果主義制度は、様々な企業の多様な労働者を対象にして、より広範に導入されるようになっていることが明らかとなった。一方で、企業規模が大きいほど、年功制の導入率の低下が大きく、年俸制の導入率の増加が大きかった。また、管理職において年俸制の導入率の増加が大きかった。さらに、年功制の導入率は1990年代から2010年代まで直線的に減少し続けている一方で、年俸制の導入率は1990年代から2005年頃までは増加し続けているが、2005年頃以降は単調な増加傾向を示していなかった。
著者
進 夏未 當山 美唯 東 美空 田中 和子 吉村 耕一
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.85-88, 2017 (Released:2017-06-30)
被引用文献数
1

トップアスリートは、集中力を高めてプレイを成功させるためにプレイの直前にある決まった動作(ルーティン動作)を付け加えている。本研究では、非アスリートにおいても、ルーティン動作を付加することにより、集中力が増して作業の精度が高まるか否かについて実験的に検討した。非アスリートの学生13人を対象とし、ルーティン動作に続けて、ダーツ、計算または記憶の作業を課した。ルーティン動作なしを対照実験とした。集中力評価のために、脳波を測定した。その結果、ルーティン動作により、ダーツと記憶作業中の集中力が増した。さらに、ルーティン動作により、ダーツ作業の精度が向上した。これらの結果から、非アスリートにおいても、ルーティン動作により集中力を高めて作業精度を向上できる可能性が示された。
著者
横山 輝雄
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.5-14, 2018 (Released:2018-07-05)

「科学哲学」という日本語は、一般には「科学についての哲学的考察」として「科学とは何か」「科学の意義」などを論ずるものと思われているが、実際には英語のphilosophy of science にあたる狭く限定されたものであり、そうした問題を扱わない。「科学哲学」に一般に期待されている内容は、科学史、科学社会学、科学技術社会論などの「科学論」(science studies)と呼ばれている分野で議論されてきた。それらの成果を概括して「科学と技術」「科学と倫理」「科学と宗教」などの問題を扱う科学哲学が現在求められている。
著者
松本 和也 河内 茉帆 森繁 優衣 品川 葵 沼田 美里 杉原 迅紀 吉村 耕一
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.137-143, 2019 (Released:2020-01-14)
参考文献数
27

本研究では、バーチャルリアリティ(VR)映像を用いて、周りに人が居る状況や屋外を散歩する状況を擬似的に体験することにより、ストレス緩和や気分状態改善が得られるか否かについて実験的に検証した。具体的には、被験者に暗算計算作業によるストレス負荷を課した後で、VR映像の視聴による介入を行い、緊張やリラックスの評価のための脳波測定と質問紙による気分状態評価を行った。その結果、周りに人が居る状況と独りの状況の比較実験では、VR視聴の介入中に脳波の緊張値の低下がみられた。気分状態評価による気分障害の程度には差を認めなかった。屋外の散歩と室内の比較実験では、VRによる散歩映像の介入終了後に、脳波の緊張値の低下とリラックス値の増加が認められた。また、室内のVRでみられた気分障害が散歩のVRではみられなかった。これらの結果から、VR映像の視聴(例えば、VR散歩)は、入院患者や自宅療養者の手軽なストレス緩和法として期待できる。
著者
内田 壱成 福塚 咲良 矢野 朋美 吉村 耕一
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.179-184, 2021 (Released:2022-01-14)

自律感覚絶頂反応(ASMR)は、視覚や聴覚への刺激によって頭や首の後ろ、時には別の場所で生じるチクチクする感覚であると報告されている。本研究の目的は、ASMR動画が人の脳活動と気分状態にどのような影響を及ぼすかを検討することである。まず、60人の健常な学生を対象として、6つの動画視聴後のASMR感覚の程度を調査した。その結果から、ASMR感覚を強く誘導する2つの動画を選び、6人の健常な学生を対象として、その動画が脳活動と気分状態に及ぼす影響を脳波とPOMS質問紙を用いて検討した。その結果、POMSの活気レベルはASMR動画の視聴後に低下した。脳波から算出されたリラックスと眠気のレベルは低下し、一方で緊張のレベルは増加した。これらの結果から、動画視聴により誘導されるASMR感覚は脳活動と気分状態に一定の影響を及ぼすことが示唆された。
著者
荻原 祐二
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.43-46, 2022 (Released:2022-06-28)

名前・名づけについての実証研究を進めるためには、直観や印象ではなく、エビデンスに基づいた分析・考察を行う必要があり、そのためには信頼できる名前データが不可欠となる。日本では、2005年から2021年まで継続して大規模な調査を行っている「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」が重要な役割を占めている。しかし、2019年から調査の方法が変更されており、サイト上では明記されていない点に注意する必要がある。特に、経時的な変化を分析する際には、対象そのものの本質的な変化なのか、調査方法の変化によるものなのか判別し、対象の本質的な変化を的確に捉えるためにも、調査方法の変化は正確に理解しておくべきである。そこで本論文では、「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」における調査方法の変化について説明した。2005年から2018年までの調査と比べて、2019年から2021年の調査では、調査対象が質的に広くなっており、それに伴ってサンプルサイズが大幅に増加していた。また、調査結果の公開範囲が2019年以降は限定的になっていたと同時に、得られたデータとは独立した論拠から、名前の紹介や考察が行われるようになっており、それまで可能であった定量的な分析が困難となっていた。これらの情報は、「たまひよ赤ちゃんの名前ランキング」を用いて分析・考察を行う際に有用となる。
著者
横田 正 服部 哲也 衛藤 英男
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.53-56, 2021 (Released:2021-07-01)

麦茶は、日本では特に人気がある飲料のひとつである。夏には、喉の渇きを潤す非常に一般的なものである。コーヒーよりも健康的であると推奨され、香りと栄養素が得られる。日本人は健康長寿で有名である。カフェインで興奮する敏感な人にとっては、それが含まれていないため安全である。抗酸化作用、ペルオキシナイトライトの抑制活性および血糖値の通常レベルへの活性効果があると言われている。それに加えて、ほろ苦い香りは、朝の今日一日の始まりをリフレッシュする。今回、麦茶の現在までの研究結果を機能性とそれに関連した成分について議論した。
著者
高橋 孝治
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.189-196, 2015 (Released:2015-12-25)

日本における教育は文系と理系に区分されている。この区分に対して今まで多くの疑義が示されてきた。本稿は文系の代表的な分野である法学と理系の代表的な分野である数学が実はその本質は同じものなのではないかというアプローチから、文理区分に対して疑義を示すものである。本稿は、文系思考とは何か、理系思考とは何か、学説対立の有無、数学者と法律家は歴史的に一体性などを見る。その結果、法学も数学も共に人間の造ったものであり、共に論理であるがゆえ解釈の違いがあることを明らかにする。さらに、その問題解決法にも類似が見られ、歴史的にも法律家と数学者は同一人物であることが多く、両者には非常に密接な関係にあることも述べる。これらのことから法学と数学は一体的なものであり、単に「文系と理系であるために異なる学問である」とすることは、法学の発展、数学の発展の双方にとっても望ましいこととは言えないと述べる。
著者
横山 輝雄
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.37-41, 2022 (Released:2022-06-28)

科学と社会の関係が変化し、科学者は自分の専門領域で研究を進めるだけでなく、社会に対して積極的にかかわることが求められるようになり、「科学者の社会的責任」についても新たな視点が求められている。「科学と価値」の問題について科学哲学でなされてきた「認知的価値」と「社会的価値」についての議論,とりわけクーンやラウダンのそれを、科学技術社会論における、ラベッツの「ポスト・ノーマル・サイエンス」や、コリンズの「科学論の第三の波」の議論と関連させて、科学と社会の関係におけるタイプの違いを区別する必要がある。「不定性」がある場合、科学においても参加型が求められ非専門家の関与がなされるが、その場合社会的価値と認知的価値を区別し、専門家の暗黙知の役割に配慮することが必要である。
著者
横田 正 加藤 久喜 宮下 知也 衛藤 英男
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.121-126, 2014 (Released:2015-01-06)
被引用文献数
1

現在、コーヒーは様々な疾患のリスクの減少や予防などの研究が報告されており、非常に機能性のある嗜好性飲料といえる。亜臨界水を用いて、生コーヒー豆を抽出することで、より多くの成分を抽出できることが期待される。そこで、熱水抽出サンプル(通常のコーヒー)と亜臨界水抽出サンプルとの官能評価、各成分の比較を行った。官能評価では3 MPa、200 ℃、3分の抽出が最も熱水抽出サンプルに近かった。凍結乾燥物重量は、熱水抽出サンプルよりも2倍以上を示した。タンパク質、総アミノ酸、グルコース、全糖、クロロゲン酸類、桂皮酸類、カフェイン、トリゴネリン、およびメラノイジンにおいても高抽出量であった。さらに、抗酸化活性も高くなり、機能性が期待できるコーヒー様エキスが製造できた。
著者
二宮 隆次 小野 浩幸 高橋 幸司 野田 博行
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.93-104, 2016 (Released:2016-07-07)

本研究では、産学官連携の現場の諸活動について、大量の質的(定性的)データを基に計量的分析を実施し、可視化した情報として提供することを試みた。具体的には、日経産業新聞の連載記事「ベンチャー仕掛け人」を、テキストマイニング手法「KH Coder」を用いて分析した。その結果、①大学の共同研究センター等を中心とした産学官連携活動、②インキュベート施設を中核とした活動、③資金に関するベンチャーキャピタルや金融機関を中心とした活動、のそれぞれの活動において、出現する言葉に特徴があることが明らかになった。また、特徴的な3つのグループにプロットされた語から特定語を選択して共起分析した結果、①の「産学」による分析では、研究、開発、技術および連携の4つ語が強く共起関係を結び、加えてそれぞれの語がほかの関連語とネットワークを結び、産学官連携の活動パターンを形成していることが確認できた。②の「施設」と「入居」による分析では、主たる活動は起業、事業を育成することであることが見て取れた。施設と入居の語の共起分析から、施設には入居タイプと入居がないものがあり、入居は技術、経営の語の共起関係が比較的高く、施設は、地域、開発および相談が高いことがわかった。③の「上場」と「ファンド」による分析では、起業・研究フェーズでの事業の元手となる出資やベンチャーキャピタル、実用化・会社設立フェーズでのファンド・株式、事業経営の維持・拡大フェーズでの銀行等金融機関の融資などが共起していることが確認された。以上のことから、本研究は、産学連携活動を効率的、かつ、効果的に実施するうえで重要な情報を提供しうるものと考えられる。
著者
宮下 知也 横田 正 木戸 康嗣 岡村 拓哉 飯島 陽子 鈴木 英之 柴田 大輔 衛藤 英男
出版者
Society for Science and Technology
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.95-100, 2015

我々は緑茶を亜臨界水抽出130℃で処理することで高濃度カテキン含有でありながら苦渋味を抑制した緑茶飲料になることを報告した。本報ではこの緑茶抽出物の有用成分や香気成分および水色について検証を行った。その結果、従来の熱水抽出よりも有用成分(アスコルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、ケルセチン、サポニン、水溶性食物繊維)が高濃度で抽出され、機能性を有する緑茶飲料であることが分かった。また、テアニンから生成される(S)-3-アミノ-1-エチルグルタルイミド(環状テアニン)はACE阻害活性があり、緑茶の中でも玉露や碾茶に多いことも明らかにした。さらに、緑茶特有の香気成分および水色に関連するクロロフィルの増加も確認した。従って、亜臨界水抽出は従来よりも優れた香気と水色を示し、苦渋味抑制だけでなく新たな機能性を有する緑茶飲料の製造方法としての可能性を示唆した。
著者
藤井 聡
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.57-64, 2013 (Released:2013-07-04)
参考文献数
22

本研究では、デフレーションに突入した1998年から2010年までのデータを用いて、中央政府の公共事業が日本のマクロ経済に及ぼした事業効果についての分析を行った。分析においては公共事業による内需主導型の経済対策にあわせて外需主導型の経済対策に対応する総輸出額の影響を考慮した。その結果、中央政府の公共事業の1兆円の増加(減少)によって、名目GDPが約5兆円増加(減少)すること、そしてそれを通して、デフレータ、失業率、平均給与、被生活保護者数がいずれも改善(悪化)し、最終的に総税収が1.6兆円、出生数が1.7万人増加(減少)するという分析結果が示された。一方、総輸出額の増加にはそうした広範な効果は検出されなかった。
著者
陳 林林 高橋 孝治
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.235-237, 2016 (Released:2017-01-12)

日本では法学と数学という学問分野の断絶は著しい。しかし、かつては数学的論理を用いて法学の学術体系を構築しようとした時代もあった。本稿は、このような法学と数学には実は密接な関連があるということを、外国の先行研究を翻訳し、紹介するものである。本論は、ライプニッツが幾何学的モデルを参考に法学の体系を形成していったことについて述べる。しかし、数学は実在しない観念的な概念を用いることもあり、この点で現実社会に用いる法学とは異なる点もあるということを述べる。
著者
西村浩樹 桑原 教彰
出版者
科学・技術研究会
雑誌
科学・技術研究 (ISSN:21864942)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.59-66, 2017 (Released:2017-06-30)

日本において、1980年代に提唱された「ゆとり教育」により、学習内容の削減や指導時間の大幅な削減が行われ、学校は、週5日制授業が導入された。OECD(経済協力開発機構)が、2000年から3年ごとに実施している学習到達度調査(PISA)では、読解力において2003年に8位から14位、2006年には15位に順位を大幅にさげ、数学的リテラシーにおいても、2003年には1位から6位、2006年に6位から10位に下げる結果になるなど、「ゆとり教育」におる削減された学習指導要領での指導の影響から日本の学力低下問題が指摘されるようになった。ゆとり教育を取り入れた背景として、それまでの「詰め込み教育」と呼ばれ、1970年代までに実施されていた知識重視の増大した学習量が、創造力の欠如やテストが終わると忘れてしまう剥落学力と言われる問題があるとされたこと、また、学習内容を理解し、知識として取り入れていくことができず、授業についていけないことが原因で生徒間の学力格差が広がり、不登校や落ちこぼれなどの問題があったことが要因としてある。このため、2008年の「脱ゆとり教育」と称された学習指導要領では、「生きる力」を育むとし、学習面では、主に「基礎的な知識・技能の習得」を目的に改訂され、授業時間数は増加し、学習内容も増加させるなど大きく方向転換が図られた。また、基礎学力以外にも思考力、表現力を身につける必要性が指摘されている。この学習指導要領の改訂により、読解力では、2012年には15位から7位、数学的リテラシーでは、10位から7位に順位を上げる結果となった。つまり、基礎学力を習得することは、思考力・応用力・表現力を育成する上で必要な力であると言える。そこで本研究は、学習者が、学習をする際の認知過程に焦点をあて、学習材料と自身の知識を関連づける学習方法を検討するため、文字に着色することによる視覚的効果によって学習効果を向上させる目的に使用される蛍光マーカーペンを用いた学習方法が、学習時の認知過程、特に視線移動回数や視線停留時間にどのような影響を及ぼすかを検証し、その評価システムの開発を目的とした。