- 著者
-
町田 佳世子
- 出版者
- 札幌市立大学
- 雑誌
- 札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.1, pp.73-84, 2017-07-18
本研究は,英語の冠詞というカテゴリの構成要素は何か,そしてそれぞれの構成要素がどのような関係によって冠詞体系の中に位置づいているのかをこれまでの冠詞研究や文法書の記述に基づいて検討し,日本人英語学習者に対する英語冠詞体系の指導のための教育内容を構成することを目的としている.これまでのところ何を冠詞とし,それらの意味・機能の違いがどのような次元において記述されるかについては理論的にも実践的にも必ずしも見解が一致していない.そのことが体系的な冠詞指導の実現を滞らせ,冠詞の習得をより困難にしていると考える.本稿では,冠詞指導における冠詞カテゴリは,a/an, the, 強勢のないsome とany, そして表層的には無形の2つの冠詞,すなわち不定を標示するzero 冠詞と定を標示するnull 冠詞の5 種類から構成されるとする.また冠詞体系を,DEFINITE/INDEFINITE, COUNT/MASS,EXTENSIVITY の3つ次元から成る体系とし,COUNT の下位次元としてSINGULAR/PLURAL を位置づける.COUNT/MASS の次元では,± divisible, ± merge-able, ± homogeneous の素性によって指示対象がcount かmass かの判断が行われる.EXTENSIVITY の次元は,数量的な意味合いをもつa/an, the, 強勢のないsome とany が,クラス・種類の解釈をもつ2つの無形の冠詞と区別される次元である.DEFINITE/INDEFINITE の次元は,談話の領域において指示対象を定として聞き手に示すかどうかの判断を± locatable と ± inclusive の素性を用い行う次元である.これらを教育内容とした上で,英語冠詞の指導は,まず話し手と事物の領域にあるCOUNT/MASS およびEXTENSIVITY の次元における冠詞の対立をもとに不定の冠詞の意味と機能を説明し,引き続いてDEFINITE/INDEFINITE の次元でのthe の指導に進んでいくことを提案する.