著者
松浦 和代 芝木 美沙子 荒 ひとみ
出版者
札幌市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度から平成18年度までに実施した研究活動の概要は、以下の通りであった。わが国の学校トイレの環境衛生と児童の排泄に関する文献研究N II学術コンテンツ・ポータブル(GeNii)の情報ナビゲータを利用し、2005年12月までの研究課題関連文献を検索した。キーワード検索によって得られた総文献数は5000件を越えたが、このうち学校トイレと子どもを対象とした文献は65件であった。文献数の推移から、学校トイレや子どもの排泄に対する社会的関心は1996年以降に高まりを見せた。文献の内容は、実態報告や活動報告が多かった。その背景には、阪神・淡路大震災後の学校トイレ問題や滋賀県栗東中学校の教育荒廃とトイレフレッシュアップ構想、文部科学省による学校トイレの単独改修の認可などの動きがあった。児童の『生活リズム』を見直すモデル事業の実践-ねむり・めざめ・朝ごはん・排便北海道旭川市立近文第二小学校をモデル校として、児童のねむり・めざめ・朝ごはん・排便というわかりやすい健康指標から、児童の生活リズムを見直す健康教育を実施し、モデルプログラムの構築をめざした。平成17年度PTA教育講演会の開催、平成17年度「しっかりねむろう週間」(2週間)の実施、結果のまとめと報告(保健便り)、平成18年度PTA教育講演会、総括とまとめ、を実施した。睡眠週間の実施によって、朝食摂取率、朝の排便率、身体覚醒状況に有意な差が認められた。また高学年になるほど生活習慣の改善が良好であった。この結果は、健康教育の継続が成果を生むことを示唆している。二分脊椎患児の就学およびセルフケアの自立過程における学校トイレ問題社会人として既に自立した二分脊椎患者(女性)1名を対象に、同意を得てインタビューを行い、就学およびセルフケアの自立過程における学校トイレ問題を分析した。1時間40分のインタビュー内容を録音し、逐語録を作成した。抽出されたカテゴリー数は5つであった。それらは、【学校トイレ設備の問題】【休み時間の不足】【自己導尿移行期の母親の心配と葛藤】【同級生から好奇の目を向けられることによるストレス】【校外授業での公衆トイレ問題】であった。以上、研究成果に基づく啓蒙活動にも重きをおき、総説論文・学校トイレガイドライン他を発表した。
著者
張 浦華 原田 昭 柿山 浩一郎
出版者
札幌市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

形態に対しての感性的総合評価は、"形態"からの"感性的連想"に大きく影響されている。本研究は、第一印象である"情緒的連想"、他の形態への連想を想起させる"比喩的連想"、働きを連想する"機能的連想"に注目し、(1)総合評価とイメージ連想の関係。(2)総合評価と脳波(前頭葉α波)の関係。(3)総合評価とアイトラッカーを用いた視線遷移、の3つの計測システムの連動により、形態に対する快・不快についての感性的総合評価との関連を探るシステムを構築することができた。
著者
武冨 貴久子
出版者
札幌市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

2020年度はCOVID-19拡大に伴い、予定していた調査に係る研究計画を進めることがかなわなかったため、研究期間延長申請を行った。
著者
杉 哲夫
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.47-52, 2013-03-31

雪国において欠かすことのできない一般家庭用スノーダンプの改良研究および制作・検証を行った.北海道での一般家庭用スノーダンプは通称「ママさんダンプ」と呼ばれる手押しシャベルが一般的であるが,現在の一般家庭用スノーダンプの問題点として次の2 点があげられる.① 雪集めは楽にできるよう工夫されてはいるが,積みあがった雪山の上に排雪する作業は重労働である.② 雪の上を滑るように設計されているため,ロードヒーティングされた道路の移動により損傷し,2~3年で生活ごみになってしまう.この研究では,上記問題を解決するため,①除排雪作業の軽減化 ②底面の傷つきを防ぎ,長期での使用に耐えられる構造の検討および実機の制作・検証を行った.また,制作したスノーダンプを札幌市内で開催された展示会に出品し,一般市民より高い関心を寄せられる結果となり,改良研究の成果はある程度達成することができた.しかし,コスト面等の課題も残すこととなり,今後さらに研究を継続していく予定である.
著者
望月 由美子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-18, 2016-06-30

本研究は15,16 世紀のイタリア・ルネサンス絵画におけるユダヤ表象について分析を行うものである.イタリアの宮廷都市を代表するマントヴァのゴンザーガ家では代々,ユダヤ人の経済・思想文化に対する寛容策がとられており,その政治経済運営の一側面を特徴づけていた.とりわけ,マントヴァ侯爵フランチェスコ二世と夫人イザベッラ・デステの治世下では異教文化に肯定的な精神思潮が開花し,著名な人文主義者ピーコ・デッラ・ミランドラ,エジディオ・ダ・ヴィテルボ,マントヴァ貴族のパリーデ・チェレザーラ等が再評価したユダヤ神秘主義思想(カバラ)もひとつの流行的な関心を集め,さらにヘブライ語もまたラテン語やギリシア語に並ぶ第三の聖なる言語として崇敬された.その文化的潮流のなかで,ゴンザーガ家の宮廷画家アンドレア・マンテーニャはヘブライ語をモティーフとする絵画制作を行っており,本論ではそれが看取できる四作品《エッケ・ホモ》,《シビュラと預言者》,《ミネルヴァ》,《聖家族と洗礼者ヨハネの家族》の図像分析を行う.分析に当たっては,マントヴァで共有されていたユダヤ文化に対する関心と,従来のユダヤ人に対するキリスト教社会の態度,すなわちユダヤ人をキリストの敵とみなす伝統的な差別の文化形式の双方を鑑みつつ行い,マンテーニャの作品に見るこの時代独特のユダヤ宗教思想に対する知的・精神的態度なるものを明らかにする.This paper aims to examine the representations of Jews in Northern Italy in thefifteenth and sixteenth- centuries, particularly in the dominion of the Gonzaga family, andhighlights the significant diffusion of Hebraic themes in the Gonzaga court. In the historicalcontext of the broad movement to reassess Judaism (the mysticism of Kabbala) by prominenthumanists of the Quattro and Cinquecento, such as Pico della Mirandola, Egidio da Viterboand Johann Reuchlin, the humanists of the Gonzaga court, such as the erudite noblemanParide Ceresara, also affirmed the value of the Hebrew language, not only as the holy tonguebut also as the third source of knowledge beside Greek and Latin. In fact the religioustolerance characteristic of the Gonzaga rule, especially during the reign of FrancescoGonzaga II (mar.1484-1519) and Isabella d'Este, permitted many members of the Jewish elite to form connections within the milieu of the court. Following a brief overview of the socialhistorical-cultural situation confronting Jews in the dominion of the Gonzaga family, aniconographical analysis of Ecce Homo, A Sibyl and a Prophet, Pallas Expelling the Vices fromthe Garden of Virtues and The Family of Christ with the Family of St John the Baptistexecuted by Andrea Mantegna, the primary architect-painter at the Gonzaga court, revealsthat the Judaism representations at the Gonzaga court did not necessarily correspond to thetraditional image of the Jew as the heretic (the enemy of Christianity). Rather, they wereviewed as possessing sublime wisdom; namely, the secret of the God's verbs.
著者
多賀 昌江
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.3-14, 2015-06-30

Japanese women find the sound of going to the toilet 'embarrassing' and flushing the toilet to drown out this sound has taken place since the Edo period. Such a 'Bathroom Sound Culture' still exists today in the form of a device that plays the sound of flushing water. In this study we investigated the development of this device and in what situations women use it and how they feel when they do. The author contacted the company that developed the device by email and telephone, as well as undertaking a literature review to investigate changes made to the device after development. Finally, 100 Japanese women were surveyed. The device was found to be first manufactured in 1979 to conserve water. Nowadays, the device is smaller, attached to the toilet wall and a portable version is also available. Of the women surveyed, 99% had drowned out the sound when they went to the toilet and almost always used the device when available. In particular, they did so when in a public toilet with others present (88%); when in someone else's house and they may be heard (74%); when defecating and likely to pass wind (49%); and when at home and others may hear (46%). These results suggest that Japanese women are particularly sensitive to the presence of others when they use the toilet and that out of respect for others, as well as to avoid their own particular sense of shame, drowning out the sound when they use the toilet has become a normal event in Japanese culture.女性が排尿時の音を「恥」と認識し,トイレの水を排泄と同時に流すことで消音する行為は,日本では江戸時代から行われてきた.このような「トイレ文化("Bathroom Sound Culture")」は,日本人女性の消音行為や排泄時の音を消音するためのトイレ用擬似音装置として現代まで伝承されている.研究方法は,トイレ用擬似音装置を開発した日本企業に開発経緯について電話および E-mail による聞き取りを行った.その後,開発された擬似音装置の変容について検討するために文献調査を行った.また,女性がトイレで消音行為を行う際の心理と消音環境を明らかにすることを目的として日本人女性100 人に質問調査を実施した.トイレ用擬似音装置は節水目的に1979年に開発され,現在では装置は小型化し,トイレ内蔵型や携帯型も販売されている.排泄時の消音行為は99%の対象者が経験し,擬音装置が設置されている場合には多用されていた.対象者が排泄時に消音する機会の多いトイレの環境は,1)公共のトイレで他者がいる場合(88%),2)他人の家のトイレで排泄の音が外に聞こえる可能性のある場合(74%),3)大便やおならなど大きな音のする可能性のある場合(49%),4)自宅のトイレで他者に排泄の音が聞こえる可能性がある場合(46%)となった.女性の消音行為は,他者の存在を強く意識し,他者への配慮と排泄の音に対する特別な羞恥心による普遍的な文化であることが示唆された.
著者
渡辺 由加利
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU Journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-36, 2013-03-31

本研究の目的は,妊娠末期にある妻と夫からみた夫婦関係の実態と夫婦関係に関連する要因について分析することである.対象は,初妊婦とその夫で妻224名,夫177名であった.調査方法は,自記式質問紙法で,質問紙の内容は,夫婦関係(結婚満足度,情緒的関係,意見の一致度,意見の不一致時の対処,共同行動,会話時間,出産育児の会話,家事),結婚と妊娠の状態,身体的・心理的状態である.調査の結果,夫の結婚満足度は妻より有意に高かった(p=.000).妻と夫いずれも情緒的関係は高得点であった.妻と夫いずれも結婚満足度と情緒的関係が他の要因に比べ高い関連があり(妻rs=.603,夫rs=.500),夫婦間の情緒的関係は,妊娠期の夫婦関係において中核となる要因であり,情緒的関係に視点をおいた援助の重要性が示唆された.
著者
原 俊彦
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.5-18, 2009-03-31

ドイツでは生涯無子に留まる人々の増加が注目されるようになり,その割合は1967年生まれの女性で28%まで上昇している.一方,日本も1965年生まれの女性の12.7%から1970年生まれの30.0%へと,無子の女性が増大する傾向にある. そこで本研究ではドイツと日本の少子化の動向を概観し,無子(Childlessness)の定義,生涯未婚率,有配偶無子,完結出生児数,妻の出生児数別割合などの歴史的変化と将来予測を通じ,両国の無子割合の増加傾向を比較し,その共通点と相違点を抽出した.次にドイツの人口政策受容調査や日本の出生動向基本調査に現れた希望子ども数の分布,とりわけ無子希望の割合やその理由を比較し,学歴,就業,所得,意識,家族観など,無子割合や無子希望割合への影響要因について日独の研究事例をもとに分析した.最後に無子増加に関する学説・仮説などを中心に,この問題に対する社会学的考察を進めた. 結論として,いわゆる「第二の人口転換」のありうる帰結の一つとして,近代家族から,仕事と家庭が調和する多様な脱近代家族へと向かうのではなく,社会成員のかなりの部分がパートナーシップの形成や自己再生産を保留し家族形成を放棄する,究極の個人主義社会へと向かう,そのような無子社会(持続しうるかどうかは別として)への道という可能性も考えられるのではないか?という問題を提起した.This paper focuses on childlessness in Germany and Japan and its sociological meanings in family formation in postmodern societies. First,it shows the trends of fertility decline and increasing childlessness, and clarifies the similarities and differences in both countries, by comparing parity composition, educational attainment, and other socioeconomic correlates of childlessness. Second, using the data of attitudinal surveys,such as the 2003 Population Policy Acceptance Study(PPAS)in Germany and the 13th National Fertility Survey (JNFS;2005) in Japan, the reasons for having nochildren are observed. Third,referring to the discussions of German scholars,it tries to explain the sociological meanings of childlessness and to describe the development toward a childless society (even if it's demographically not sustainable) as one of the possible consequences of the Second Demographic Transition. Important findings are as follows: (1) In Germany the fertility decline began early in the mid-1960s but in Japan later from mid-1970s so that the increase of childlessness has been a little delayed. The proportion of childless women in Western Germany increased to 28% for the 1966 cohort. In Japan,it has increased to 12.7% for the 1960 cohort,but is expected to reach 30% for the 1970 cohort.(2) The educational gap in childlessness is clearly observed in Germany;however,this is not so simple in Japan.Corresponding with the increase of childlessness,the desired number of children in average is declining.The emergence of a child-free culture is observed in Germany by PPAS, but not yet in Japan by JNFS.(3) Polarization may proceed further in both countries, between childless people and people with many children.
著者
齊藤 雅也 辻原 万規彦 羽山 広文 宿谷 昌則
出版者
札幌市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

札幌・東京・熊本の小学校教室で夏と冬に温熱的不快に達する閾値温度を解明する実測調査を行ない、ロジスティック解析により以下のことがわかった。1)夏に「暑くて授業に集中できない」児童が過半数(60%)になる外気温は札幌で30.5℃、熊本で32.5℃、実際室温は札幌で29℃、熊本で35.5℃だった。その時の児童の想像温度は札幌で27.5℃、熊本で32.5℃で、教室にエアコンが設置されている東京では外気温が28.5℃のときだった。2)冬に「寒くて授業に集中できない」児童が40%のときの児童の想像温度は、札幌:9℃、東京:7℃、熊本:2℃だった。以上から、児童の夏と冬の閾値温度には地域差があった。
著者
山本 勝則 守村 洋 河村 奈美子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU Journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.53-59, 2013-03-31

本論文の目的は,精神看護学におけるシミュレーション教育の動向を概観し,シミュレーション教育に関する我々の取り組みを報告し,今後の教育方法の開発計画を提示することである.国内ではシミュレーション教育あるいはOSCE(Objective Structured Clinical Examination)を用いて精神看護学教育を体系的に行っている報告はほとんど見当たらず,国外でも取り組み始めたばかりである.文部科学省と厚生労働省は,看護教育における実践能力の育成・向上を主要課題の一つとしている.この課題に取り組む方策の一つとして,OSCEなどのシミュレーションを取り入れた看護教育が活発に行われている.しかし,精神看護学教育においては,シミュレータの開発が困難であることや看護技術が状況依存的であり評価が困難なことなどにより,導入が遅れている.そのような状況の中で,米国等では模擬患者(SP)を導入したシミュレーションや,シミュレータを用いた教育などの新たな展開がみられるようになった.「リアリティの高い学習への移行」を目指して精神看護教育を行っていた我々は,OSCE,SP(Simulated/Standardized Patient)参加型シミュレーション演習と,順次シミュレーション教育を導入してきた.精神看護学におけるシミュレーション教育への学生の評価は概ねポジティブである.基本的なコミュニケーション技術が獲得されていることも確認できた.今後,特に重要なこととして,①シナリオの開発,②教育全体の洗練(効率化とさらなる工夫の導入),③対外的発信がある.また,この教育方法が学生に自信を与える影響も評価する必要がある.
著者
町田 佳世子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.73-84, 2017-07-18

本研究は,英語の冠詞というカテゴリの構成要素は何か,そしてそれぞれの構成要素がどのような関係によって冠詞体系の中に位置づいているのかをこれまでの冠詞研究や文法書の記述に基づいて検討し,日本人英語学習者に対する英語冠詞体系の指導のための教育内容を構成することを目的としている.これまでのところ何を冠詞とし,それらの意味・機能の違いがどのような次元において記述されるかについては理論的にも実践的にも必ずしも見解が一致していない.そのことが体系的な冠詞指導の実現を滞らせ,冠詞の習得をより困難にしていると考える.本稿では,冠詞指導における冠詞カテゴリは,a/an, the, 強勢のないsome とany, そして表層的には無形の2つの冠詞,すなわち不定を標示するzero 冠詞と定を標示するnull 冠詞の5 種類から構成されるとする.また冠詞体系を,DEFINITE/INDEFINITE, COUNT/MASS,EXTENSIVITY の3つ次元から成る体系とし,COUNT の下位次元としてSINGULAR/PLURAL を位置づける.COUNT/MASS の次元では,± divisible, ± merge-able, ± homogeneous の素性によって指示対象がcount かmass かの判断が行われる.EXTENSIVITY の次元は,数量的な意味合いをもつa/an, the, 強勢のないsome とany が,クラス・種類の解釈をもつ2つの無形の冠詞と区別される次元である.DEFINITE/INDEFINITE の次元は,談話の領域において指示対象を定として聞き手に示すかどうかの判断を± locatable と ± inclusive の素性を用い行う次元である.これらを教育内容とした上で,英語冠詞の指導は,まず話し手と事物の領域にあるCOUNT/MASS およびEXTENSIVITY の次元における冠詞の対立をもとに不定の冠詞の意味と機能を説明し,引き続いてDEFINITE/INDEFINITE の次元でのthe の指導に進んでいくことを提案する.
著者
望月 由美子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-28, 2017-07-18

本稿は,初代サッビオネータ公爵ヴェスパシアーノ・ゴンザーガ・コロンナ(1531-91)が居城であるパラッツォ・ドゥカーレ(公爵の宮殿) に造営した肖像ギャラリーについて検証するものである.ヴェスパシアーノは北イタリアのロンバルディア州で勢力を誇ったゴンザーガ家の傍系貴族で, 星形の要塞都市サッビオネータを造営した人物として知られる.また,学術文芸の庇護者,スペイン王フェリペ二世の傭兵隊長としても名声を馳せ,歴代神聖ローマ皇帝の愛顧を受けて地方領主の身分から公爵まで登りつめた人物でもある.本論は,サッビオネータのパラッツォ・ドゥカーレにヴェスパシアーノが設けた「祖先のガッレリーア」(ガッレリーアは「美術品展示室」「ギャラリー」の意)と呼ばれるゴンザーガ家祖先の肖像を飾った部屋の室内装飾プログラムを分析するものである.その際,16 世紀から18 世紀の宮廷文化で重要な側面を担った肖像ギャラリーの機能に配慮しつつ,壁面の祖先たちの肖像群と天井フレスコ画のオリンポスの神々,古代ローマ帝国主題を図像学・考古天文学的視座から検討し,最終的にここがヴェスパシアーノの政治支配の正当性と,サッビオネータのゴンザーガ家による支配の永遠性を祈念する意図から構想された一室であったことを明らかにするものである.
著者
豊島 亮 羽深 久夫
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.31-42, 2015-06-30

本研究は,これまで研究の行われていない20 世紀初頭のラ・ショー=ド=フォンにおけるスイスのフランス語圏のアール・ヌーヴォーの作品を対象とし「ART NOUVEAU 2005~2006」の公式サイトから各作品の写真資料,作者名,制作年代,所蔵場所等に着目してモチーフについて検討を行ったものである.ラ・ショー=ド=フォンでは,2005年から2006 年にかけて博物館のコレクションや,壁画など市内のアール・ヌーヴォーの作品101 点を巡るイベントが行われ,それらは「応用美術」「階段装飾」等と11 の種類に分けられて紹介されている.また,写真資料から主に用いられているモチーフは,植物16種類,動物8種類に分類出来ることが明らかになった.
著者
小田嶋 裕輝 河原田 まり子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.15-23, 2015-06-30

国内外における首尾一貫感を改善する介入に焦点を当てた文献を整理し,患者の首尾一貫感を改善する上で必要な介入の示唆を得ることを目的とした.2014年6月までに発表された文献を対象に,CINAHL,医学中央雑誌を用いて検索した.Patient, Sense of Coherence に,Intervention 又は Program の用語を含む海外文献を,また,患者,首尾一貫感に,介入又はプログラムの用語を含む日本語文献を検索した.目的に該当した文献として,国内文献3件と海外文献5件を本研究に活用した.いずれの研究においても,介入前後で首尾一貫感の得点は有意に改善したことを報告していた.患者対象の研究内容は,患者の抱える具体的な問題や,健康的な生活習慣の維持に必要なことなどに焦点を当てていた.患者以外を対象とした研究内容は,禁煙という具体的な問題に焦点を当てるものや,具体的な焦点は定めず,健康増進のためのプログラムとして実施するものがあった.これらの支援には,患者が疾患をコントロールしながら生活していけるように支えること,患者に対する治療の選択肢や体の状態に関する理論的な情報提供をすること,患者の思いを分かち合えるようにすることなど,首尾一貫感の下位概念に即した支援の性質が認められた.患者の首尾一貫感を改善するためには,首尾一貫感の下位概念に即して,疾患コントロールのための療養生活支援,治療や体の状態に対する情報提供,患者との思いを共有する支援が必要であることが示唆された.
著者
町田 和樹 金子 晋也 羽深 久夫
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.93-99, 2017-07-18

本研究は,ニューヨーク マンハッタン島を研究対象地として,都市的な文脈から高層建築のあり方を捉え直すことを目的とする.研究方法は,マンハッタンにおける高層建築61事例を選定し,そのボリュームの形態や表層の特徴を整理することにより, 4 つの形態のパターンを得た.さらに, これらのパターンを地図上にプロットし,高層建築の形態とその建設された地域との関係性を明らかにした.最後に,複数の高層建築が形態や表層の操作により,一体的でまとまりのある空間が作り出されている事例を検証することで,その構成を明らかにしている.
著者
渡辺 由加利
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.31-38, 2014-05-31

本研究の目的は,妊娠末期にある夫婦の情緒的関係に関連する要因を検討することである.対象は,初妊婦とその夫で妻202名,夫155名であった.重回帰分析を行った結果,妻と夫に共通の要因は,結婚満足度(妻β=0.533,夫β=0.442),出産育児の会話(妻β=0.215,夫β=0.221),結婚前の妊娠(妻β=0.132,夫β=0.209)であった.妻にのみ影響があった要因は,自尊感情(β=0.139),会話時間(β=0.147)であり,夫にのみ影響があった要因はソーシャル・サポート(β=0.147)であった.この違いは妻と夫の情緒的関係の受けとめ方に影響すると考える.妻と夫ともに出産育児の会話は,情緒的関係にポジティブに影響していることから,コミュニケーションを維持・促進するための支援の重要性が示唆された.また,結婚前の妊娠は,夫婦の情緒的関係にネガティブに影響しており,情緒的関係を築くうえでリスク要因として捉え,援助することが重要である.The objective of this study was to investigate factors that affect the marital emotional relationship in late pregnancy. Study subjects included 202 vives and 155 husbands. Multiple regression analysis showed that factors affecting the marital emotional relationship that were important to both the wife and husband were:satisfaction with marriage (wife, β=.533;husband, β=0.442), conversation about childbearing and rearing (wife, β=0.215; husband, β=0.221), and pregnancy before/after marriage (wife, β=0.132;husband,β=0.209). Factors affecting the marital relationship that were important to wives were self-esteem (β=0.139) and conversation time (β=0.147), and to husbands were social・support (β=0.147). Differences between wives and husbands in their attitude towards the emotional aspect of the martial relationship exist. Conversation during pregnancy had a positive effect on the emotional relationship and it was thought that conversation between partners is important in maintaining communication. Pregnancy before marriage had a negativeeffect on theemotionalaspect ofthemaritalrelationship and was thereforeconsidered a risk factor for developing negative emotional relationships; these relationships require support and counseling.
著者
松井 美穂
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-10, 2013-03-31

サウス・キャロライナ州出身の白人女性作家 Julia Peterkin は,Scarlet Sister Mary において,プランテーションの黒人たちが話すガラ英語を用いながら,教会から罪人として追放され,最初の夫に棄てられた後,父親の違う子供を何人も産み育て,最終的に経済的にも性的にも自立した存在となる一人の黒人女性の姿を描いている.Peterkin 自身,エリート階級の白人女性として南部家父長制社会における抑圧を敏感に感じ取っていたことが伝記的事実からうかがえる.彼女は,最初の出産の折,医者である父親によってこれ以上の出産には耐えられないと判断され,彼女の意識がないうちに,不妊手術を施されることになる.この事は,父権制社会において女性が主体的に自身の性と身体をコントロールする存在となりうることの困難を物語っていると言えるが,そういう点から考えると,男性に依存せず,性的に自由で,かつ多くの子供を産む主人公 Mary は,作者の抑圧された状況を反転させた人物であり,また,抑圧や規範からの解放を探求するための Peterkin 自身のペルソナでもあったと解釈できるであろう.Peterkin は自ら黒人女性のペルソナを借りることによって白人社会の批判を試みたとも言える.他の白人作家同様,Peterkin も本作品において完全にステレオタイプな黒人表象を免れているわけではないが,性規範の逸脱と同様,カラー・ラインの逸脱も重大な意味をもった当時の南部社会において,あえて Peterkin が黒人女性の視点を通して白人社会を見ようとしたことは重要である.Scarlet Sister Mary, written by Julia Peterkin, from South Carolina, is the story of a black girl named Mary. Although Mary was expelled from her male-dominated church and community for being a sinner and abandoned by her husband, she lives socially, economically, and sexually independent from men. She also has several children, each of whom has a different father. In contrast to Mary, Peterkin, as a plantation mistress, seemed to feel confined within the genteel and male-dominated society of the South. Peterkin's biographical facts show that Mary is the opposite of Peterkin herself. Throughout her life, she had suffered through traumatic experiences with her first delivery, after which she was sterilized by her father, who thought his daughter would never survive another delivery, because the first one had been so difficult. This sterilization clearly showed that in a patriarchal society where the sexuality of a Southern, white, middle-class woman is only utilized for the purpose of maintaining the legitimate white paternal line, her body was controlled not by her own will, but by her father, or men in general. Thus, it can be said that Mary is Peterkin, and that by wearing the black mask, Peterkin finds a way to criticize the male-dominated society that controls desire and the female body, exploring the possibility of female independence. In the South, where racial segregation had been fortified, it cannot be overlooked that Peterkin had assumed the black point of view to really see Southern society and relativize it in her fiction.
著者
望月 由美子
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-18, 2016-06-30

本研究は15,16 世紀のイタリア・ルネサンス絵画におけるユダヤ表象について分析を行うものである.イタリアの宮廷都市を代表するマントヴァのゴンザーガ家では代々,ユダヤ人の経済・思想文化に対する寛容策がとられており,その政治経済運営の一側面を特徴づけていた.とりわけ,マントヴァ侯爵フランチェスコ二世と夫人イザベッラ・デステの治世下では異教文化に肯定的な精神思潮が開花し,著名な人文主義者ピーコ・デッラ・ミランドラ,エジディオ・ダ・ヴィテルボ,マントヴァ貴族のパリーデ・チェレザーラ等が再評価したユダヤ神秘主義思想(カバラ)もひとつの流行的な関心を集め,さらにヘブライ語もまたラテン語やギリシア語に並ぶ第三の聖なる言語として崇敬された.その文化的潮流のなかで,ゴンザーガ家の宮廷画家アンドレア・マンテーニャはヘブライ語をモティーフとする絵画制作を行っており,本論ではそれが看取できる四作品《エッケ・ホモ》,《シビュラと預言者》,《ミネルヴァ》,《聖家族と洗礼者ヨハネの家族》の図像分析を行う.分析に当たっては,マントヴァで共有されていたユダヤ文化に対する関心と,従来のユダヤ人に対するキリスト教社会の態度,すなわちユダヤ人をキリストの敵とみなす伝統的な差別の文化形式の双方を鑑みつつ行い,マンテーニャの作品に見るこの時代独特のユダヤ宗教思想に対する知的・精神的態度なるものを明らかにする.
著者
原 俊彦
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.41-49, 2010-03-31

日本の人口移動統計としては住民基本台帳人口移動報告と国勢調査報告人口移動集計があるが,いずれも配偶関係別移動人口は集計されておらず,配偶関係ごとの人口移動率の相違は不明であった.そこで,札幌市の人口動態統計の男女初婚件数,離婚件数,再婚件数を,2000年から2005年まで各歳コーホート(同一年出生集団)別に積算・集計し,5歳年齢階級別累積件数を求め,これを元に配偶関係別純移動(転出入の差)率を推計した.その結果,未婚の純移動率は男女とも若年層で転入超過だが,25-29歳から30-34歳にかけての移動を境に,それより上の年齢層で転出超過に転じ,逆に有配偶では転出超過から転入超過にシフトする傾向があること,また離別では全年齢階級で転出超過となる一方,死別では男子が転出超過,女子は転入超過となるという興味深い特徴が明らかとなった.これらの傾向は分母に年齢別人口,各配偶関係別人口のいずれを取っても,また推計が比較的容易な未婚とそれ以外の配偶関係に分けた場合や,配偶関係不詳をいずれかに振り分けた場合も変わらないことが確認できた.さらに,これらの累積初婚件数や純移動率を用いてコーホート未婚初婚率(未婚者を分母とした初婚率)を算定したところ,配偶関係別純移動率に差がないと仮定した場合より低い値となり,有配偶女性が市外に流出して未婚の女性が多く残るために未婚初婚率が低くなるのではないかとの懸念は当たらないことが判明した.