- 著者
-
町田 健一
- 出版者
- 国際基督教大学
- 雑誌
- 国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
- 巻号頁・発行日
- no.52, pp.1-15, 2010-03-31
今日,キリスト教主義学校には,高いレベルの学問的学びとともに,キリスト教倫理・価値観に根ざした生き方の学びが期待されている.とりわけ「生命の尊厳」「人権」「生き方」「人を愛するということ」の教育を重要課題とするキリスト教主義学校において,それらを最も具現化する教育が「性」の学びであり,それはまた,子どもたちの人生を大きく左右する課題である.性教育については,多くの教員が避けたがる現実があるが,キリスト教学校教育として世の中の動きに抗して,子どもたちを救済し,より良い道に導くかは,待ったなしの研究課題である.2009年6月に,中等教育レベルのカトリック学校120校,キリスト教学校104校に調査用紙を郵送し,宗教主事等のキリスト教教育の責任者にキリスト教主義学校としての性教育の現状を尋ねた.主要な問いは,(1)聖書科の教員は,聖書科の授業において,どのように性教育に携わっているか,(2)他の教科の教員たちと,性教育ではいかに連携をとっているか(指導的な立場を取っているか),(3)キリスト教主義学校としての性教育のあり方にどのような見解・態度で臨んでいるか,である. キリスト教学校52校(同50%),カトリック学校52校(回収率43%)から回答を得た.調査の結果,聖書の授業,宗教的なプログラムにおいて,キリスト教倫理に基づく系統的な性教育の内容が組まれているケースは非常に少なかった.キリスト教主義学校の現実は,性教育を行う保健体育の教員,養護教諭,理科教員,家庭科教員,担任,カウンセラーの多くがnon-Christianであり,避妊,性感染症,エイズ教育等が中心テーマで,関連したキリスト教倫理・価値観の指導がほとんどの学校で組織的になされていない.聖書科教員,宗教主事等,宗教部に対して聖書科カリキュラムおよび学校の宗教的プログラムの中で積極的な取り組みが期待されている.