著者
畑 恵里子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.62-71, 2010

王朝物語に見られる「さとし」とは、単なる利発さをいう言葉ではない。それは、物語世界を牽引することとなる主人公格に相当する成人前の人物が、生来有している比類なき霊的資質を指しているのであり、その聖性のもとに溢れ出す成長の可能性を内包している。通常の人間をはるかに超えた霊的資質からは、物語世界を左右する特異能力の萌芽さえ予感される。『うつほ物語』の俊蔭一族の秘琴伝授や『落窪物語』の落窪の女君の縫製能力を中心に、『源氏物語』の光源氏と紫の上も含めて、王朝物語における「さとし」のはらむ聖性を探り、王朝物語の主人公像の一端を検証した。