著者
畑中 勇輝 井上 貴美子 及川 真実 上村 悟 越後貫 成美 児玉 栄一 大川 恭行 束田 裕一 小倉 淳郎
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第108回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR1-28, 2015 (Released:2015-09-15)

【目的】哺乳類のゲノム上に広く存在するレトロトランスポゾン(RT)の抑制は,個体発生や生殖細胞の分化に必須である。RTの抑制は主にDNAメチル化が担っているが,ゲノムワイドな低DNAメチル化状態にある始原生殖細胞では,抑制性ヒストンH3K9me3がその役割を担っていると言われている。そこで本研究では,同様にゲノムワイドなDNA脱メチル化が生じる着床前胚におけるRT抑制機構の解明を行った。【方法】ノックアウトまたはノックダウンにより胚発生が停止することが知られているCAF-1に着目した。CAF-1構成因子であるP150 に対するsiRNAの前核期胚への注入によりノックダウン(KD)胚を作製し,解析に供した。また,各抑制性ヒストン修飾酵素のKD胚も同様の方法で作製した。これらの胚を用いて,常法によりChIP解析,遺伝子発現解析などを実施した。【結果】既報の通り,CAF-1 KD胚は桑実期で致死となった。CAF-1 KD胚におけるマイクロアレイ解析では細胞死関連遺伝子の発現増加が認められ,DNA損傷マーカーであるH2AXのリン酸化シグナルの増加およびRT(LINE-1,SINE B2,IAP)の有意な発現上昇が観察された。RT阻害剤添加により胚盤胞期胚への発生は有意に改善出来たことから,CAF-1 KDによる胚性致死はRTの脱抑制と関連することが明らかになった。さらにChIP解析の結果,CAF-1 KD胚では,RT領域におけるH3.3からH3.1/3.2への置換が阻害され,それに伴いH3K9me2/3及びH4K20me3など複数の抑制性ヒストン修飾が減少することが示された。抑制性ヒストン修飾酵素のsiRNA注入実験により,Suv420h1/2により付加されるH4K20me3が着床前胚のRT抑制に主要な役割を果たしている可能性が示された。以上の結果から,グローバルなDNA脱メチル化される着床前胚において,CAF-1による抑制性ヒストン修飾の蓄積を介したRT抑制制御機構の存在が明らかになった。