著者
長谷川 歩未 持田 慶司 廣瀬 美智子 越後貫 成美 井上 貴美子 小倉 淳郎
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第111回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.P-74, 2018 (Released:2018-09-21)

【目的】胚移植の受容雌として偽妊娠雌マウスは生殖工学作業に必須であるが,従来法では発情前期の雌を選抜して雄と同居させるため,その作出効率は雌の性周期や雌を選抜する作業者の習熟度に依存する。そこで我々はプロゲステロン投与による性周期同期化により,ICR系統の偽妊娠および妊娠雌の計画的な作出に成功し,保有マウス数の大幅な削減が可能であることを報告した(WCRB(2017),JRD(2017))。今回はF1系統の偽妊娠雌の作出における本法の効果を検討した。【方法】B6D2F1およびB6C3F1系統の雌(11~14週齢),ICR系統の精管結紮雄(3~12ヶ月齢)を用いた。性周期の同期化はプロゲステロン(2 mg/匹)をday1およびday2に皮下投与して行った。その後,雌と精管結紮雄をday4の夕方より連続的に同居させ,膣栓の有無を毎朝,確認して交配率を調べた。更に妊娠への影響を観察するために,得られた偽妊娠雌にC57BL/6Jの凍結融解2細胞期胚を移植して妊娠率,産子率等を従来法と比較した。【結果および考察】既報のICR系統と同様に,F1系統でもプロゲステロン投与後に雄と連続同居することで膣栓の観察日が集中したことから,F1系統の偽妊娠雌を計画的に作出可能であった。また胚移植後の妊娠率,着床率,産子率は従来法と同等であり,産子重量は用いた偽妊娠雌の系統で違いが見られた(ICR系統 > F1系統)が,プロゲステロン投与の有無で変化はなかったことから,投与による悪影響は見られなかった。以上から,性周期同期化後の交配によるF1系統の偽妊娠マウスの作出は,選抜作業を行わなくとも誰でも効率的かつ計画的に行えると考えられた。【まとめ】プロゲステロン投与によるマウスの性周期の同期化処置は,近交系,クローズドコロニー,交雑系統など幅広い系統で,過剰排卵誘起(第108回大会,BOR(2016))に加えて偽妊娠雌および妊娠雌の計画的な作出にも効果的であることが確認された。
著者
畑中 勇輝 井上 貴美子 及川 真実 上村 悟 越後貫 成美 児玉 栄一 大川 恭行 束田 裕一 小倉 淳郎
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第108回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR1-28, 2015 (Released:2015-09-15)

【目的】哺乳類のゲノム上に広く存在するレトロトランスポゾン(RT)の抑制は,個体発生や生殖細胞の分化に必須である。RTの抑制は主にDNAメチル化が担っているが,ゲノムワイドな低DNAメチル化状態にある始原生殖細胞では,抑制性ヒストンH3K9me3がその役割を担っていると言われている。そこで本研究では,同様にゲノムワイドなDNA脱メチル化が生じる着床前胚におけるRT抑制機構の解明を行った。【方法】ノックアウトまたはノックダウンにより胚発生が停止することが知られているCAF-1に着目した。CAF-1構成因子であるP150 に対するsiRNAの前核期胚への注入によりノックダウン(KD)胚を作製し,解析に供した。また,各抑制性ヒストン修飾酵素のKD胚も同様の方法で作製した。これらの胚を用いて,常法によりChIP解析,遺伝子発現解析などを実施した。【結果】既報の通り,CAF-1 KD胚は桑実期で致死となった。CAF-1 KD胚におけるマイクロアレイ解析では細胞死関連遺伝子の発現増加が認められ,DNA損傷マーカーであるH2AXのリン酸化シグナルの増加およびRT(LINE-1,SINE B2,IAP)の有意な発現上昇が観察された。RT阻害剤添加により胚盤胞期胚への発生は有意に改善出来たことから,CAF-1 KDによる胚性致死はRTの脱抑制と関連することが明らかになった。さらにChIP解析の結果,CAF-1 KD胚では,RT領域におけるH3.3からH3.1/3.2への置換が阻害され,それに伴いH3K9me2/3及びH4K20me3など複数の抑制性ヒストン修飾が減少することが示された。抑制性ヒストン修飾酵素のsiRNA注入実験により,Suv420h1/2により付加されるH4K20me3が着床前胚のRT抑制に主要な役割を果たしている可能性が示された。以上の結果から,グローバルなDNA脱メチル化される着床前胚において,CAF-1による抑制性ヒストン修飾の蓄積を介したRT抑制制御機構の存在が明らかになった。