著者
畑中 邦道 Hatanaka Kunimichi
出版者
神奈川大学 国際経営研究所
雑誌
国際経営フォーラム (ISSN:09158235)
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-49, 2016

AI(人工知能)の技術は指数関数的に進化を続けており、2045年には技術的特異点(シンギュラリティ)を迎えるという予測もある。ロボットに搭載されるAIによる疑似的判断の習熟度は、脳の仕組みをリバース・エンジニアリングすることによって、ディープ・ラーニング手法を生み出し、局所的には脳の機能を超え始めている。ビックデータを活用したアルゴリズムの重み付け入出力の反復は、特徴知と専門知により社会環境に最適化できる範囲を拡大している。AIが外部環境から勝手に必要多様性を見出し、内部のアルゴリズムにフィードバックを掛けてしまうと判別不能な特徴知を獲得してしまう危険性を持つ。事業経営は目標達成に向け、主観的な意図をもって実行され、リスク回避を行っている。機械であるAIロボットには主観が無く、倫理性や社会的責任を持たない。AIを優先すると、統計量から外れる領域は無視され、特徴量による社会環境を生み、格差社会を再生産してしまう可能性が高い。特集/リスク・挑戦
著者
畑中 邦道
出版者
神奈川大学 国際経営研究所
雑誌
国際経営フォーラム (ISSN:09158235)
巻号頁・発行日
no.22, pp.19-58, 2011

第二次世界大戦での敗戦後、復興を果たした日本の国際的な競争優位は、製造業における小集団活動を主体とした、絶え間ないカイゼンによる、高品質な製品輸出により支えられてきた。カイゼンは、日本特有な相互擦り合わせ思考をベースにして、JIT (ジャスト・イン・タイム)生産方式を生み出し、トヨタのカンバン方式のみならず、宅配やコンビニエンス業界の様なサービス産業にまでJITの経営思考は拡大した。その経営思考は、先端技術の開発にまで浸透している。一方、現在のグローバル環境をみると、日本国の失われた10年に続くデフレスパイラルと膨大な国債発行額、米国に端を発したサブプライム問題による世界的な金融危機、ヨーロッパにおける借金大国の崩壊懸念、アフリカと中東地域における政治不安、中国をはじめとするBRIC'sの台頭、等、どれをとっても、極めて世界連鎖性が強い、混沌とした状態下にある。この状況のなかで、2011年3月11日に大震災が東日本を襲った。この大災害は、製造に比較優位を維持してきた日本の製造業のサプライチェーンの連鎖を欠落させた。それに加え、福島第一原子力発電所の事故発生により、安全性懸念が全国規模で連鎖し、物造りに必須である電力供給に大幅な制約を与え、消費者マインドもさらに冷え込んだ。さまよい続ける日本政府への不信感もさらに増大し、日本のあらゆる分野で、産業のクラスターが崩壊する危機に直面している。この危機的状況から、日本が、いかに素早く抜け出せるか、停滞を余儀なくされるか、あるいは崩壊に至ってしまうか、世界が注目している。日本のJIT(ジャスト・イン・タイム)を創り出した「協働」については、日本の古代人を起点とするDNAを想定し、「元本保証」による連続的関連性をもって実現している「秩序ある小集団行動」と、どんな時代でも独自の先端技術を生み出してきた、「擦り合わせ」という相互関連性をもって実現する「多様性の創出」について論じる。災害からの復興については、世界連鎖性が強く出ている東日本の製造業を取り上げ、また、世界連鎖性の少ない農業、酪農、漁業については東日本の地域特性が強い漁業を取り上げ、「協働」とJIT(ジャスト・イン・タイム)による回復と再成長について論じる。災害を機に表に出てくる日本が持つ特有な問題については、ミクロの小集団活動による弱い力の総力が、マクロの覇権的強い力に、「協働」をもとにどの様に対抗しうるか論じる。特集/企業経営の協働のあり方 -震災後の日本企業復興に向けて-
著者
畑中 邦道 Hatanaka Kunimichi
出版者
神奈川大学 国際経営研究所
雑誌
国際経営フォーラム (ISSN:09158235)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.73-115, 2012-07-31

国際物流に関わる比較優位は、グローバルエコノミーにおける自由貿易を前提に議論されているが、分配側のことについては、あまり細かく検討されていない。分配の持つ根源的課題を、需要という言葉で、ひとくくりにして扱っている。現在の資本主義経済では、国際物流は、需要と供給の関係でしか成り立っていないように、理解されている。本来は、需要側にある分配問題が、国際物流の大きな課題であることに目をつぶっている。供給側の論理により、実物である商品の移動及び生産立地は、個別企業経営における戦略的選択により、変化する。戦略的選択がなされると、国際物流は、ある日突然、方向と実態の姿を変えてしまう。実物の流れが変わった時、価値の移動とその保管は、その持つ意味や意義を全く別なものにしてしまう。価値の移動や交換に伴って生まれる、資本蓄積と再投資のインセンティブは、人類の歴史を通して現在ある形になり、資本主義経済のグローバル化を促進させている。分配問題を無視する国境を持たないグローバル資本は、国家の自立性の確保や保護などお構いなしに、商品の生産立地国や、分配側の受容国を、支配してしまう。これに対し、日本でしか起きなかった、カイゼン活動から生まれた、ジャスト・イン・タイムの経営手法や、優れた生産技術の優位性は、特異な存在である。この特異な環境を持つ構造が、国際物流をどのように変えてきたかについて、検討しておく。技術集団である中小企業による産業のクラスターを持つ日本特有の構造は、経済学の一般論からみる比較優位の議論から、大きく乖離して存在している。日本国内における、その環境の構造は崩壊直前とも言われているが、それらの現状について検証しておく。本論では、国際物流について、歴史的な大きな流れの変化を俯瞰しながら、現在ある課題の抽出を試みている。このため、日々の実務である、輸出入に関わる実務者レベルの作業手順や法的手続きの詳細比較、及び、国際物流ではコストとなる3PL(サード・パーティ・ロジステックス)のような、輸送専門事業者についての具体的な活動については、論じていない。