著者
稲川 郁子 畑山 元政
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.70, pp.272_1, 2019

<p> 柔道は、嘉納治五郎が殺傷の手段である柔術から危険な要素を取り除き、安全性の高い要素を抽出して教育的価値を付加し普及させたことは広く知られている。現在普及している競技としての柔道には、危険要素である当身技は含まれていない。嘉納は、柔道の持つ教育的側面を重視する一方で、武術としての柔道も重視していた。嘉納は、柔道の稽古法には乱取、形、講義、問答があるとしたが、このうち乱取と形について、乱取に偏重する傾向のある修行者に対し、どちらに偏ることなく稽古する必要性を繰り返し説いている。嘉納の主張は、現代においては「柔道修行者の教養としての形」を軽視することへの戒めの文脈で語られることが多いが、嘉納は、修行者が当身技を軽視することによる柔道の武術性の風化を恐れていた。急所を狙い殺傷能力の高い当身技を、嘉納は、柔道の創始から晩年に至るまで重視し続けた。本発表では、柔道の7種の形に定められた身体動作のうち、当身技による部分について考察する。</p>