著者
野田 亜矢子 畑瀬 淳 屋野丸 勢津子 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-8, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
36

動物園で飼育している成獣の雌ホンドギツネVulpes vulpes japonica 2頭の糞中および血中の性ステロイドホルモン濃度の測定を行い,繁殖期の外貌変化や行動の変化を観察した。その結果,血中エストラジオール-17β(E2)濃度については1月中に1回のみピークが認められ,その後急減した。血中および糞中プロジェステロン(P4)濃度は血中E2濃度の上昇に連動して急増し,急激なピークの後漸減しながらおよそ2ヵ月間比較的高い値を維持した。血中E2濃度の上昇が見られた1月下旬には陰部の腫脹が認められ,1週間程度継続した。2月下旬には乳腺の腫脹,3月上旬には乳腺周りの脱毛が見られるようになり,その後は乳汁様の白色の液体の分泌が認められた。 4月上旬には「人の腕を巣箱に運び込もうとする」,「巣箱に差し入れた人の腕を抱きかかえてなめ続ける」などの行動が見られるようになった。性ホルモン動態から,ホンドギツネは季節性の単発情動物で,妊娠,非妊娠に関わらず黄体期が妊娠期と同様に続く,他のイヌ科動物と同様の特徴が認められた。また,P4濃度増加期の後半からイヌで見られる偽妊娠と同様の行動が認められ,ホンドギツネでも偽妊娠が存在する可能性が示唆された。群れ動物ではないホンドギツネの偽妊娠の意義については,育子の際のヘルパー行動との関連性が考えられた。