著者
楠田 哲士
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

食肉目のイヌ科,ネコ科,クマ科の野生動物の多くに「偽妊娠」という現象が存在すると推測されているが,この現象の生殖内分泌学的な側面や生態的な意義には不明な点が多い。本研究では,リカオンとシンリンオオカミにおいて,同施設内の複数雌の妊娠と偽妊娠が毎年同調し,社会生態に関係している可能性があること,ジャイアントパンダとホッキョクグマでは,糞中13,14-dihydro-15-keto-PGF2α代謝物を指標に,妊娠と偽妊娠を区別できる可能性があることなどが明らかになった。
著者
Putranto Heri Dwi 楠田 哲士 稲垣 佳代 熊谷 岳 石井(田村) 理恵 氏家 陽子 土井 守
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.569-571, 2007-05-25
参考文献数
9
被引用文献数
2

アムールトラ雌2頭と雄1頭から糞を採取し,凍結乾燥後にメタノールでステロイドホルモンを抽出し,ETA法により糞中含量を測定した.雌のエストラジオール-17βと雄のテストステロン値は,年間を通しで顕著に変動した.雌2個体のエストラジオール-17βはそれぞれ26.4±8.0と28.0±14.2日間隔で上昇した.しかし,プロジェステロンは単独飼育した雌では変動せず,雄と同居させた雌では交尾後増加し,妊娠した1例で最終交尾から106日後に出産するまで高い値が維持されていた.
著者
片野 理恵 楠田 哲士 楠比 呂志 村田 浩一 木村 順平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.67-71, 2006-09

国内の飼育下アミメキリン(Giraffa camelopardalis reticulata)およびマサイキリン(G.c. tippelskirchi)の死亡個体から得られた精巣および精巣上体を用いて生理学的な性成熟年齢を推定した。本邦の動物園で飼育されていた雄10個体を対象とし,精巣組織切片のHE染色およびPAS-Hematoxylin染色標本を作製して組織学的観察を行った。その結果,5.9歳以上のすべての個体において精巣および精巣上体内に精子が確認された。また,テストステロン産生の動態を知るためにコレステロール側鎖切断酵素(P450scc)の局在を免疫組織化学的に検索した。その結果,2.5歳と5.9歳以上の個体で局在が認められた。国内血統登録記録を用いて1907〜2000年の出産年月日をもとに,雄の初回交尾時年齢を推定した結果,3〜5歳が最も多く,組織学的解析結果と類似していた。国内の各動物園における1施設当たりの雄個体数は少なく,上位個体に交尾阻害される野生環境と比較し若雄でも繁殖可能であることから,飼育下では繁殖開始年齢が低下すると推察された。
著者
川瀬 啓祐 紙野 瑞希 所 亜美 正藤 陽久 飯田 伸弥 生江 信孝 金原 弘武 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.73-80, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
31

飼育下ハートマンヤマシマウマ(Equus zebra hartmannae)の雌1頭において,血中および糞中の性ステロイドホルモン濃度の測定,腟粘膜上皮細胞像の観察および直腸温測定を実施し,発情周期を調査した。血中エストラジオール-17β 濃度がピーク値を示した後,血中プロジェステロン濃度の上昇がみられた。糞中プロジェステロン代謝物濃度動態は血中での動態と類似しており,血中濃度と採血日から2 日後の糞中の濃度は有意な正の相関(r=0.80)を示した。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態はプロジェステロン分泌をよく反映していることが明らかになった。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態は年間を通して周期的な増減を示し,平均23.1±2.3日間の発情周期が確認された。無核角化上皮細胞の割合は,糞中プロジェステロン代謝物濃度が低い非黄体期に増加する傾向がみられたが,有意な変化ではなかった。直腸温については非黄体期に増減変化がみられ,ヒトなどで一般的に知られている黄体期の基礎体温上昇は確認できなかった。
著者
楠田 哲士 森角 興起 小泉 純一 内田 多衣子 園田 豊 甲斐 藏 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.109-115, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

飼育下ブラジルバク(Tapirus terrestris)雌2頭から週1回の採血を行い,エンザイムイムノアッセイ(EIA)法により血漿中プロジェステロン(P4)濃度を測定した。P4濃度の周期性から発情周期は約4週間であることが推察された。また,国内の動物園におけるこれまでのブラジルバク出産例を調査した結果,出産は年間を通して見られたが,3月から6月にかけてピークが存在した。P4動態からは明確な繁殖季節は存在せず,周年繁殖が可能であると考えられたが,年間の出産数に偏りが見られることを考え合わせると,気候的要因によって繁殖が影響を受けていることが示唆された。
著者
野田 亜矢子 畑瀬 淳 屋野丸 勢津子 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-8, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
36

動物園で飼育している成獣の雌ホンドギツネVulpes vulpes japonica 2頭の糞中および血中の性ステロイドホルモン濃度の測定を行い,繁殖期の外貌変化や行動の変化を観察した。その結果,血中エストラジオール-17β(E2)濃度については1月中に1回のみピークが認められ,その後急減した。血中および糞中プロジェステロン(P4)濃度は血中E2濃度の上昇に連動して急増し,急激なピークの後漸減しながらおよそ2ヵ月間比較的高い値を維持した。血中E2濃度の上昇が見られた1月下旬には陰部の腫脹が認められ,1週間程度継続した。2月下旬には乳腺の腫脹,3月上旬には乳腺周りの脱毛が見られるようになり,その後は乳汁様の白色の液体の分泌が認められた。 4月上旬には「人の腕を巣箱に運び込もうとする」,「巣箱に差し入れた人の腕を抱きかかえてなめ続ける」などの行動が見られるようになった。性ホルモン動態から,ホンドギツネは季節性の単発情動物で,妊娠,非妊娠に関わらず黄体期が妊娠期と同様に続く,他のイヌ科動物と同様の特徴が認められた。また,P4濃度増加期の後半からイヌで見られる偽妊娠と同様の行動が認められ,ホンドギツネでも偽妊娠が存在する可能性が示唆された。群れ動物ではないホンドギツネの偽妊娠の意義については,育子の際のヘルパー行動との関連性が考えられた。
著者
井門 彩織 足立 樹 楠田 哲士 谷口 敦 唐沢 瑞樹 近藤 奈津子 清水 泰輔 野本 寛二 佐々木 悠太 伊藤 武明 土井 守 安藤 元一 佐々木 剛 小川 博
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.257-264, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1

チーター(Acinonyx jubatus)において,種を保存するうえで飼育下個体の繁殖は極めて重要である.しかし,飼育下での繁殖は困難とされ,繁殖生理の解明が重要となっている.本研究では,飼育下での環境変化がチーターの発情に与える影響と要因を探ることを目的として,4頭の飼育下雌チーターの行動観察及び糞中エストラジオール-17β含量の測定を行った.各放飼場には,1日に2~3個体を交代で放飼し,雄の臭いや鳴き声などが雌の行動と生理にどのような影響を与えるのか調べた.その結果,4頭中1頭で,放飼方法を雌2頭交代から雌雄2頭交代に変化させることによって,行動の増加と糞中エストラジオール-17β含量の上昇が見られた.また,一部の雌の繁殖状況が同時に飼育されている他の雌の発情に影響を与えるのかを調査するため,育子中個体の有無で期間を分け,各期間で行動数と糞中エストラジオール-17β含量を比較した.その結果,同時飼育の雌に育子中個体がいた期間では,行動数と糞中エストラジオール-17β含量が発情と共に増加した.しかし,育子中個体の育子が終了した後の期間では,糞中エストラジオール-17β含量の変化と関係なく行動数に増減が見られた.以上のことから,雌チーターにおいては雄との嗅覚的接触が発情を誘発するとともに,同一施設で飼育される雌の繁殖状況が他雌個体の繁殖生理と行動に影響を与えている可能性が考えられた.
著者
楠田 哲士 松田 朋香 足立 樹 土井 守
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1022, 2009 (Released:2009-09-08)

【目的】排卵様式を知ることは、その種の繁殖生理を正確に理解する上でも、また希少種の飼育下繁殖計画を進める上でも重要である。例えば、イエネコは交尾排卵動物であるが、個体によっては飼育環境等により稀に自然排卵することが報告されている。野生ネコ科動物も同様であると考えられているが、報告例が少なく不明な点が多い。排卵調査には、定期的に超音波等で卵巣検査を行うか、頻回採血からLHサージを捉える方法があるが、これらの方法を野生種に適用するのはほぼ不可能である。そこで本研究では、糞中の卵巣ステロイドホルモン代謝物の動態と性行動の観察から排卵状況を間接的に調査した。また、本法の妊娠判定への有用性についても検討した。【方法】動物園飼育下のトラ18頭(アムール、ベンガル、スマトラの各亜種含む)から糞を週1~3回採取し、凍結乾燥後にステロイドホルモン代謝物をメタノールにて抽出後、卵胞活動の指標としてエストラジオール-17β(E)またはアンドロステンジオン(AD)、黄体活動の指標としてプロゲステロン(P)含量を酵素免疫測定法により定量した。また、内2頭で採血を行い、血中P濃度を測定した。【結果】血中と糞中の各P動態を比較した結果、類似した変動傾向が確認でき、両値間に高い正の相関(r=0.95,n=61)が認められた。発情期中に雄からの乗駕や交尾行動がみられた個体では、その翌日には発情兆候が消失しP値が上昇した。非妊娠時のP上昇期間は46.6 ±1.6日間(34例)であったのに対し、妊娠した場合には、妊娠期間である104.3日間(4例)高値が維持された。一方、交尾がみられなかった場合や単独飼育個体のP値は、ほぼ基底を維持し(稀に上昇あり)、EまたはAD、発情兆候に約1ヶ月の周期性が認められた。以上のことから,1)トラは稀に自然排卵が起こるが、通常交尾排卵型で、2)排卵を伴う約2ヶ月と排卵を伴わない約1ヶ月の2種類の発情周期があり、3)最終交尾から約40~50日後に、糞中P含量が高値を維持していることを指標に妊娠を判定できることが示された。
著者
楠田 哲士
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

希少食肉目動物の飼育下個体を対象に,糞中の性ホルモン動態のモニタリングから繁殖生理の解明を行うと共に,糞中DNAとホルモンの解析により排泄者を特定する方法を開発し,その種の保全に役立つ繁殖生理生態調査法を確立することを目的とした。1.ネコ科とクマ科の希少種7種の飼育個体から,糞を定期的に採取保存し,繁殖生理の解明に必要な試料を蓄積した。2.糞中性ステロイドホルモン動態のモニタリングにより,特にトラとヒョウの繁殖特性を明らかにした。トラでは,卵胞活動の指標として糞中エストラジオールー17β(E2)またはアンドロステンジオン(AD),黄体活動の指標として糞中プロジェステロン(P4)の測定が有効であった。発情期に雄からマウントまたは交尾を受けた雌では,交尾後発情兆候が消失し,P4値が急激に上昇した。その後,出産がみられなかった場合には交尾後2ヶ月以内に基底値まで減少し発情兆候が回帰した。発情期に交尾がみられなかった場合や単独飼育された場合は,いずれもP4含量は基底値を維持し,E2,ADまたは発情兆候に約1ヶ月の周期性が認められた。しかし,稀に交尾・マウントがなくP4値の上昇が認められた。以上のことから,トラの排卵様式は交尾排卵型である可能性が高いが,稀に交尾刺激なしでも排卵する場合があることが明らかとなった。ヒョウでは,ローリング行動が観察された時期に一致して,E2またはADが上昇する傾向が認められ,ローリング行動がヒョウの発情行動の一つと考えられた。調査期間中P4値に明確な上昇が数回確認されたが,これらの個体は雄と同居させていなかったことから,ヒョウは交尾刺激を伴わずに排卵する確率が高いことが明らかとなった。3.動物種や性判別などの排泄者情報を糞から特定するための方法を確立するため,糞からDNAを抽出・増幅するために必要な実験設備体制を整えた。
著者
横山 卓志 楠田 哲士 曽根 啓子 森部 絢嗣 高橋 秀明 橋川 央 小林 弘志 織田 銑一
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.207-214, 2012-12-30
参考文献数
12

飼育下キンシコウ(<i>Rhinopithecus roxellana</i>)の新生仔における行動発達を明らかにすることを目的とし,名古屋市東山動物園で2009年4月に生まれた雌の新生仔において,8ヶ月齢までの成長に伴って観察された行動の経日変化を記録した.また,それらの結果を,中国の国立陝西周至自然保護区の半野生集団および他の飼育下個体における報告と比較した.東山動物園の新生仔は,出生後約1ヶ月間は母親に依存していたが,1ヶ月齢から周辺環境や姉に興味を示し,積極的に接近や探索の行動を開始した.2~3ヶ月齢では姉と2頭で過ごしたりグルーミングに似た行動をしたりするなど社会行動が観察された.生後60日目以降,積極的に姉に近づくようになり,姉の存在がその後の新生仔の行動発達に影響を与えたと考えられた.自然保護区と比べ,木の登り降りや餌に興味を示す行動の発現が著しく早く,また5ヶ月齢以降,腹部接着や支持,近接,接近,離反およびグルーミング受容の行動スコアがほぼ一定となったことから,5ヶ月齢が行動発達の1つの区切りであったと考えられた.東山動物園におけるキンシコウ新生仔の行動発達過程は,群れの数や環境が大きく異なる中国の自然保護区の結果と一致していた.しかし,一部の行動の開始時期には大きな差が認められ,木の登り降りや餌への興味といった行動の発達は,成育環境に影響を受けているとも考えられた.<br>