- 著者
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畑田 早苗
- 出版者
- 土佐リハビリテーションカレッジ
- 雑誌
- 土佐リハビリテーションジャーナル (ISSN:13479261)
- 巻号頁・発行日
- no.3, pp.17-23, 2004-12-20
現代社会に生きる我々にとって,頻繁に起こる社会問題や災害など自己を取り巻くストレスは多い。我々人間が歳を重ね心身ともに健康に生きていくためには,時折,自分の人生を振り返り,立ち止まる瞬間が必要である。身近な作業としては日記をつけたり,もっと長いスパンで捉えると自叙伝を書くということもあるだろう。こういったことを通して自分の生きてきた軌跡に布石を置きながら過ぎた出来事を振り返り,後悔したり,自分を励ましたりしながらまた前に進んでいく。それぞれの年代でアイデンティティを確立しながら,日々の出来事の中で起こる嬉しいことや辛いことを,時間というゆりかごの中で思い出にかえ,人生を肯定的に受け止めていくことは欠かせないものといえる。今回は,自分の人生を振り返り,肯定的に受け止めるという営みを,精神科デイケアにおいて行った。特に自我意識の障害を持つ精神障害者にとっては,病気になること自体が個人の存在を揺るがすものにもなりかねない。そうした彼らが,自分の家族や病のことを語る意味は大きい。対象者にとってこの試みは,対象者の自我を支え補強することになり,未成熟な自我の成長を促すことにもなっていた。人生はよくドラマに例えられる。その舞台には主役がおり,喜怒哀楽を共する観客がいることが絶対条件である。人生ドラマをより味わい深くするためには,その人の生きてきた過去を辿り,同じ時間を共有することが大切である。そしてそれは,今を生きる個人を認めることになり,さらに今の自分を認められる体験は,未来を生きることに繋がっていく。今回はキーワードとなった対象者の表現する「語り」と「懐かしの歌」という点に注目し,この試みの意味を振り返り,作業療法士としての専門性を考えていく。