著者
畑野 容子 中口 潤一 原田 敦史 内田 まり子
出版者
視覚障害リハビリテーション協会
雑誌
視覚障害リハビリテーション研究発表大会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.42, 2010

【はじめに】 2009年度から日本盲導犬協会 島根あさひ訓練センター(以下、当協会)では、中四国地方在住の視覚障がい者を対象に1週間の入所生活訓練を行う「視覚障がい短期リハビリテーション」(以下、短期リハ)を開始した。事業を利用したAさんの支援を香川県視覚障害者福祉センター(以下、福祉センター)と連携して行い、生活に変化をもたらすこととなった。その経過を報告する。【ケース】ケース:Aさん、右)0 左)光覚、30代女性、未婚、6人家族、自宅は中山間地域。生活状況:中学から盲学校に入学し、保健理療科へ進学したが免許取得はならず就職できなかった。卒後、現在に至るまで外出の機会は少なく、昼夜逆転の生活となり、一日の大半は自宅で録音図書を聞いて過ごしていた。障害基礎年金受給中。家計に余裕はない。【経過】・数年前に家族の意向で免許取得に向け福祉センターの在宅訓練を受けたが、モチベーションが保てず中断となった。・昨秋、福祉センターの訓練士が短期リハを勧めたことで参加。その後は、生活改善の意欲が高まり、更生施設への入所希望が聞かれるようになった。・当協会と福祉センターが自宅を訪問し、家族を含め希望・目標を確認。現在は福祉センターで歩行・点字の通所訓練を行い、秋には施設見学に行く調整を行っている。【考察】 Aさんの訓練を行ったことで10年間の引きこもり生活の要因が浮かび上がってきた。第1に地域的な要因である。10年前は福祉センターの在宅訓練はなかった。盲学校卒業後、近隣に相談できる場所がなく、適切な支援が受けられるような環境になかった。このためAさんの積極性が徐々に低下したと推測できる。第2に、Aさんの障害年金が家計の一部を補っているという要因である。就職して家計を助けたいという気持ちはあるが、自宅を出ることで家族に負担がかかると心配する面もあり、なかなか具体的な動きを取らなかった。第3に家族関係の要因である。Aさんの自立を応援する意思を示してきたが、経済的なことを懸念しているためか、現実的な話になるとあまり積極的ではない印象を受ける。現在はAさんの歩行・点字技術の向上とモチベーションの維持を目的に相談支援専門員にも経過を報告し、連携して継続的な支援を行っている。居住地域・生活状況によって本人の意向を汲み取るような適切なサービスが受けられない視覚障がい者の存在を改めて感じたケースとなった。