著者
稲吉 直哉 白倉 祥晴
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-166_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】頸椎症性筋萎縮症(以下Keegan型頚椎症)は上位近位筋の筋力低下を主症候とし、感覚障がいがないか軽微なことが多い。Keegan型頚椎症は自然回復の報告も多いが、高齢になるほど、回復率も下がるとする報告や徒手筋力テスト(以下MMT)2以下では手術の方がよいという報告などがあるが、手術療法、保存療法のどちらが良いか一定の見解は示されていないことが現状である。また保存療法の報告はあるが、運動療法の報告は特に少ない。そこで今回、Keegan型頚椎症に対する運動療法により症状が改善されたので報告する。【症例紹介】84歳代男性。左利き。鍋の焦げを取るためスポンジで強く擦り、翌日より右肩痛と挙上困難感出現。2週間ほど様子を見たが、疼痛は緩和したが右肩挙上困難感が残存し、当院受診。手術の希望はなく、外来リハビリテーション開始した。X線、MRI所見では、C3/4、C4/5、C5/6、C6/7に椎間板の軽度膨隆を認めた。棘上筋の変性は認めたが連続性は保たれていた。神経内科診察により、他の運動ニューロン疾患は否定された。【介入方法】初期理学療法時、主訴は右肩挙上困難のみで疼痛・しびれ・感覚障がいの訴えはなかった。Shoulder36V.1.3:45点、MMT右肩屈曲1、肘屈曲4、ほかの筋群には著明な筋力低下なし。右肩関節可動域(以下ROM)屈曲Active10°、Passive160°、肘屈曲Active・Passiveともに制限なし。頚部のROMは左側屈・左回旋制限が認められた。右肩屈曲動作時には右肩甲帯の挙上が認められ、右僧帽筋上部線維、右肩甲挙筋に圧痛が認められた。また座位姿勢はHead Forward姿位であった。介入当初より右肩屈曲Passive ROM制限予防のため、右肩関節のROM-ex、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋に対し、横断伸長法を実施した。右肩三角筋の萎縮を認めたため、三角筋に対し低周波療法(Inter Reha社)を実施した。低周波療法実施肢位は背臥位、redcord(Inter Reha社)を使用し、頸椎はNeutral position位になるよう、頸椎牽引を行い、右上肢は自重を免荷した。低周波が流れるタイミングで自動介助運動を行った。刺激強度は疼痛のなく三角筋の収縮が確認できる強度で5秒間通電し、5秒間休息を1セットとし、20分間実施した。また頚椎のHead Forward姿位改善のため、頚部深部屈筋群のエクササイズを行った。リハビリテーション介入5週目から徐々に右肩関節屈曲可動域Activeが徐々に改善が認められ、介入10週目で右肩関節屈曲可動域Active 90°まで回復。また右肩屈曲90°保持も可能となった。頚部のROMも側屈、回旋ともに左右差はほぼなくなった。この週より自動介助運動の肢位を背臥位から右肩上の側臥位へ変更し、三角筋の収縮が触知できるようになったので低周波療法から中周波療法へと変更した。介入13週目Shoulder36V.1.3 :116点、MMT右肩屈曲3、右肩ROM屈曲Active120°であった。【結論】乾は1)Keegan型頚椎症の予後予測では発症期間が6ヶ月未満、MMT3以上が予後良好であり、また、年齢も高齢になればなるほど予後不良となると報告している。齋藤2)は罹患期間が長く、筋萎縮が顕著であれば筋萎縮から手術により圧迫が解除されても筋が線維化し回復が望めない可能性があると報告した。そのため筋萎縮から線維化を防ぐため低周波・中周波療法を実施した。また、安藤3)は保存的治療・予防には頚椎の良い姿勢を保持することが重要と報告している。今回はHead Forward姿位改善のため、緊張筋である僧帽筋上部線維、肩甲挙筋に対し、筋緊張緩和を行い、頚部深部屈筋群の促通を実施し、良肢位保持へと誘導した。Keegan型頚椎症は筋萎縮から線維化防止と頚椎良肢位保持のため、電気療法と運動療法の併用は検討の余地があると考えられる。【参考文献】1)乾義弘 新原著レビュー:頚椎症性筋萎縮症に対する保存的および手術的治療の臨床成績とその予後予測因子 20122)齋藤貴徳 近位型頚椎症筋萎縮症 20163)安藤哲朗 頚椎症の診療 2012【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、当院倫理委員会にて承認を得た。患者にはヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて意義、方法、不利益等について説明し同意を得て実施した。