著者
白勢 洋平 上原 誠一郎
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2016年年会
巻号頁・発行日
pp.63, 2016 (Released:2020-01-15)

岩手県崎浜ペグマタイト産電気石中に,Liに富む電気石と組成ゾーニングをなして産するMnに富む電気石を見出した。本研究で分析を行った電気石はLi濃集部に向かって伸長しており,柱状結晶の先端部で,黒色から,濃緑色,淡緑色,無色,紅色,水色へと色が変化している。共生鉱物として,カリ長石,曹長石,リチア雲母,トパズ,ミラー石を伴う。柱状結晶内の濃緑色部はティレース電気石(Tsilaisite),淡緑色,無色,紅色部はフッ素リチア電気石,水色部はリチア電気石であった。端面には細粒の繊維状フォイト電気石が形成されていた。崎浜産ティレース電気石の化学分析値は(Na0.58□0.41Ca0.01)(Mn1.02Fe0.20Zn0.02Al1.19 Li0.57)Al6(Si5.80Al0.20)O18(BO3)3(OH)3(OH0.65 F0.35)である。Bosi et al. (2015)は結晶内で,フッ素ティレース電気石-ティレース電気石-フッ素リチア電気石へと移り変わる産状を示し,崎浜産も同様であるが,Feを少量含む特徴を持つ。
著者
白勢 洋平 下林 典正 高谷 真樹 石橋 隆 豊 遙秋
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2018年年会
巻号頁・発行日
pp.50, 2018 (Released:2020-01-16)

京都大学総合博物館では,京都帝国大学の教授であった比企忠が蒐集した国内では最大級の貴重な鉱物・鉱石標本を所蔵している。その標本整理の過程で「比企標本」は,「和田標本」,「若林標本」,「高標本」といった20世紀初頭の日本の「三大鉱物標本」に勝るとも劣らない標本であることがわかった。比企は1894年に帝国大学を卒業ののち,1898年に京都帝国大学理工科大学の助教授に任じられ,開設されたばかりの採鉱冶金学教室で教鞭をとった。その後,採鉱学第三講座(鉱床学)の初代教授となり,1926年に定年退職するまでの間に,1万点以上の鉱物・鉱石標本が陳列する鉱物標本室を作り上げた。比企は亡くなる直前に鉱物標本の行く末を案じ,後進に「標本の志るべ」なる手引書を遺した。「標本の志るべ」の中には蒐集した鉱物標本ひとつひとつの解説と共に,教育熱心さが窺える文言が記されている。比企標本は,国宝級とも形容される,質・量ともに優れた選りすぐりの標本であるが,同時に我が国の鉱物学の黎明期に多くの研究者や学生を育ててきた貴重な標本でもある。
著者
白勢 洋平 上原 誠一郎
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本列島には花崗岩体に伴い多くの規模の異なるペグマタイトが分布している。しかしながら、Liが濃集するような組成的に発展したペグマタイトの数は限られている。本研究では、東北日本の北上帯に位置する岩手県崎浜、阿武隈帯に位置する茨城県妙見山、西南日本内帯の北部九州に位置する福岡県長垂、西南日本外帯に位置する宮崎県大崩山のLiペグマタイトについて鉱物学的研究を行い、特に電気石の化学組成の変化の傾向について比較を行った。いずれのLiペグマタイトも産状や産出鉱物が大きく異なるが、共通して電気石を多く産する。また、電気石はペグマタイト岩体の縁辺部から中心部にかけて連続的に分布しており、それぞれ産状や肉眼的特徴も異なる(e.g., 白勢・上原2012; 2016; Shirose and Uehara, 2013)。電気石超族鉱物はXY3Z6(T6O18)(BO3)3V3Wの一般式で示され、X = Na,Ca,K,Y = Fe2+,Mg,Mn2+,Al,Li,Fe3+,Cr3+,Z = Al,Fe3+,Mg,Cr3+,T = Si,Al,V = OH,O,W = OH,F,Oなどの元素が入る(Henry et al., 2011)。Liペグマタイト中では、岩体の縁辺部から中心部にかけて電気石のY席中のFe2+が(Li+Al)に置換される組成変化が顕著であり、それはペグマタイトメルトの組成的な発展を反映している(e.g., Jolliff et al., 1986; Selway et al., 1999)。長垂及び妙見山のLiペグマタイトは他のペグマタイトと比較して規模が大きく、Liに加え、Cs、Taの濃集もみられる組成的に発展したペグマタイトである。また、脈状のペグマタイトであり晶洞を伴わないのも特徴的である。電気石は半自形の放射状集合が多く、粒径は小さい。中心部から産するものは白雲母に変質し濁っているものが多い。崎浜のLiペグマタイトは脈状のペグマタイトであり、晶洞を伴う部分もある。電気石は、石英と連晶組織をなすもの、半自形から自形のものがあり、中心部に向かって伸長している。結晶粒径は大きく径10cmに達するものもある。大崩山のペグマタイトはミアロリティックな空隙を伴うREEペグマタイト中の小規模なLiペグマタイトであり、晶洞を伴う。電気石は半自形から自形のものがある。いずれのペグマタイトにおいても電気石は、縁辺部から中心部に向かって、黒色から濃色、淡色へと色が変化している。EPMAを用いて電気石について化学分析を行ったところ、いずれのペグマタイトにおいても、縁辺部から中心部に向かって電気石のY(Fe2+) ↔ Y(Li+Al)の置換が顕著であった。しかしながら、崎浜の電気石についてはYMn2+を特徴的に多く含み、Y(Fe2+) ↔ Y(Mn2++Li+Al)の置換の後に、Y(Mn2+) ↔ Y(Li+Al)といった置換反応が顕著に生じている。YMn2+の含有量の変化については、産地ごとに異なる組成変化の傾向を示し、大崩山の電気石は晶洞の結晶中で急激にYMn2+に富む(Figure 1)。また、長垂についてはYZn2+の含有(<0.2 apfu)が特徴的である。これらの化学的特徴は共生鉱物とも調和的であり、崎浜では益富雲母の産出が特徴的にみられ、長垂では亜鉛を含有する電気石の周囲に亜鉛スピネルが産出する。電気石の化学組成の変化の傾向を比較することでペグマタイト岩体の持つ化学的な特徴をより詳細に比較することができる。