著者
白坂 史樹 新田 収
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.243, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】当院において交通事故後の頚椎捻挫と診断された患者に対して、疼痛軽減を目的としたリハビリテーションが行われている。後方からの追突事故では頚椎捻挫と診断された患者の約半数を占め、これらの症例では頭痛・めまい・吐き気を併せた訴えが多い。文献では、頚椎捻挫に合併する頭痛は29%、めまいは17%とされている.一方X線画像において頚椎前弯が少ない患者では頚部由来の頭痛の発生が多いとの指摘があり,臨床的には交通事故後障害が重度な者の中に頚椎前弯角度が減少しているものが多く観察される.頚椎前弯が減少した症例では頚椎捻挫などの障害を受ける可能性が高く,また頭痛・めまいなど重度な臨床症状を示すことは臨床的に多く経験されるところであるが,前弯の程度と症状の関係について分析を行った研究はほとんど見られない.そこで本研究で交通事故による頚椎捻挫患者を対象として頚椎前弯の程度と頭痛・めまいの発症の関係について検討することを目的とした.【対象】対象者は当院において頚椎捻挫と診断された患者19名(男性:9名、女性:10名、20‐65歳)を対象とした。【方法】頚椎の前彎角度を「軸椎歯突起後面と第7頚椎椎体下縁を結ぶ線から前弯の頂点までの距離」と定義し受傷直後の矢状面X線画像より頚椎前弯を計測した.次に成人の頚椎における軸椎歯突起後面と第7頚椎椎体下縁を結ぶ線から前弯の頂点までの標準距離を参考とし,対象者における成人標準距離から各対象者の実測値を減じた値を標準値との差の値とし頚椎前弯の程度とした.このため本研究において標準値との差の値がマイナスとなる場合前弯が標準値を上回ることを意味し,プラスとなる場合前弯が標準値よりも小さいことを意味する.患者群をめまいの有無と頭痛の有無により2群に分け,この2群間に前弯程度に差があるかについて分析を行った.分析はMann-Whitney 検定を用いて行い,有意水準は5%とした.なお分析はSPSS for Windouwsを用いた.【結果と考察】頭痛の有無では頭痛のある者は8名,無い者は11名であった.頭痛のある者の頚椎前弯の程度(標準値との差)は平均1.73mm(SD2.11),頭痛の無い者の平均値は-1.98mm(SD1.84)であり有意な差が示された.めまいの有無では,めまいのある者が9名,無いものが10名だった.めまいのある者の頚椎前彎の程度は平均1.55mm(SD2.02),めまいの無い者の平均値は-2.74mm(SD1.88)であり有意な差が示された.以上の結果から頚椎前弯が少ない場合、事故による衝撃を頚椎全体で受けることができず上位頚椎により大きな負荷がかかる。頚椎前弯の少ない患者に多くめまいを合併することは、めまいが上位頚椎の障害により発症し得ることを示唆している。