著者
中田 行重 斧原 藍 白崎 愛里
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.10, pp.41-51, 2019-03

Person-Centeredの対話系に位置付けられるDave Mearnsは、心理的接触に関する概念「Working at Relational Depth(以下、WRD)」を発展させてきた。本稿は彼の著書である「Working at Relational Depth in Counselling and Psychotherapy」の一章を紹介し、考察を加えるものである。WRDは、6つの必要十分条件が全て高水準に存在するときに生じるものであり、Thの態度だけでなく、Clの応答も重要な要素の一つだとされる。Thの透明性と自己一致は基本であり、Thとしての役割ではなくその人そのもので出会っていく必要がある。一方 Clは、Thの共感や肯定を受け入れ、Cl自身も Thに開かれていこうとする姿勢が求められる。Relational depthでは、ThはClを理解し、ClはThに理解されていることを認識し、さらにThはClがそう認識していることをも理解している、ということが起こる。Mearnsは、こうした深い出会いの体験にこそ治療効果があると考えている。WRDは、セラピーの中でThがしっかりとした他者性を持ったありのままの自分であり続けることを要求する点で、同じく対話系である古典派の論とは大いに異なる。Thが自分自身でいることは、好き勝手に振る舞うこととは区別される。しかしその境目を見極めるのは難しい。本書ではMearns自身のTh体験がありありと開示されており、自分全体で応じるということが読者自身にとってはどういう態度であるのかを吟味するヒントになるだろう。
著者
中田 行重 佐藤 春奈 白崎 愛里 須藤 亜弥子 中西 達也
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.59-67, 2015-03-15

本稿は、体験的療法Experiential Psychotherapy 学派の論客であるLietaer, G. のUnconditionalPositive Regard: A Controversial Basic Attitude in Client-Centered Therapy(1984)を要訳し、彼の見解が古典派に与えた影響と今後のPCT の展望について考察するものである。Lietaer は、無条件の肯定的配慮を、肯定的配慮、非指示性、無条件性の3 因子に分けて論述している。中でも無条件性の重要性について論じており、この態度を、Rogers の価値の条件づけに言及しつつ、セラピーの中での「バランス拮抗力」「逆条件付け」と定義している。また、Th 自身へ開かれていること(openness)が自己一致であり、Cl へと開かれていることが無条件の受容であるとして両者の密接な関係について述べている。さらに、CCT の文脈における直面化に触れ、承認できないCl の行動についてはTh 自身の限界をフィードバックし直面化させること、直面化は、Th の受容を支えとしてCl が自己に直面するよう促す過程であることを論じ、無条件性と直面化は矛盾しない概念であると主張している。
著者
中田 行重 斧原 藍 白崎 愛里
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.95-102, 2018-03-15

Rogersのパーソナリティ論は、治療論とセットになっており、自己(self)が体験とどのように関係するかが重視される。本稿はRogersのself理論を多元的に発展させたMearnsのconfigurationという概念を紹介し、考察を加えるものである。Configurationとは、(前)象徴化された感情・思考・行動の一貫したパターンであり、いくつものconfigurationの総体がselfであるとされる。他者からの取り入れや自己不一致の周辺にもconfigurationは発生し、同化・自己成就・再構築を繰り返しながら発展し続けるとMearnsは考える。多元性や流動性を強調した視点は、ThのCl理解や受容を助け、実践面での貢献は大きい。しかし、configurationという概念が却ってClへの見方を固定化させてしまう危険性があるなど、Thが留意すべき点もある。