著者
山根 倫也 小野 真由子 中田 行重
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
no.11, pp.77-86, 2020-03-15

本論文では、PCTを含むHEP (Humanistic-Experiential Psychotherapies) のメタ分析を行っているElliott et al. (2013) の論文を紹介し、今後のPCTの課題について若干の考察を述べる。現代の心理療法はエビデンスが重要視され、エビデンスに乏しいとされるPCTは世界的に苦しい立場に追い込まれている。しかし、PCTにはエビデンスが存在するのである。Elliott et al. (2013) は、メタ分析によりPCTにはCBTと同程度のエビデンスがあることを報告している。加えて、他学派の研究で比較対象となっている支持的療法は、本来のPCTではないなど、現代のガイドラインの基盤となっているエビデンスに対しても問題を提起している。しかし、PCTの人間観が現在のエビデンスのリサーチ方法と相性が悪いことは確かである。今後、PCTはエビデンス・ベーストとどのように向き合っていけばいいのであろうか。本論文では、今後のPCTの課題として、CBTと同程度の効果を持つと主張するだけではなく、他学派にはないPCT固有の効果を示すこと、そしてそれを表現するための方法論を構築することを挙げた。また、実証研究を積み重ねるうえで、「何を持ってPCTと言うか」ということについて、PCT内部で明確に定義し、他学派に説明する必要があることを述べた。特集 : パーソン・センタード・セラピーの展開
著者
松田 治貴 河﨑 俊博 中田 行重
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.13, pp.57-65, 2022-03-15

本研究の目的は、現在の心理療法の業界においてPCAがどのように認知されているのか、その実態を調査し、PCAの課題や今後の展開について検討することである。PCAの現状について感触を得るための概括的な調査研究と位置づけて調査を実施した。調査対象は、心理療法の学派を問わず、臨床心理士、公認心理師といった心理臨床にかかわる支援者を対象とし、無記名方式のWEB調査を実施した。32名(女性20名、男性12名)から調査協力が得られ、PCAの認知度や活用に関する質問項目について回答を求めた。得られた回答からは次のことが考察された。まず、臨床現場や大学院教育において、PCAの実践内容や重要性は、職場領域や業務内容、学派を問わず広く認知されていることが示唆された。次に、PCAの概念理解について検討した結果、「中核3条件」や「受容と共感」のような基本的概念の理解が大半であり、その他の理論については認知度が低いことが示唆された。また、PCAの学習機会の少なさによる知識のアップデート不足、PCAの概念を他者へ伝えるための説明言語と伝達手段の確立、PCAを専門とする心理療法家だけでなく、他学派の心理療法家に対する学習機会の提供などの必要性について考察した。
著者
中田 行重 斧原 藍 白崎 愛里
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.10, pp.41-51, 2019-03

Person-Centeredの対話系に位置付けられるDave Mearnsは、心理的接触に関する概念「Working at Relational Depth(以下、WRD)」を発展させてきた。本稿は彼の著書である「Working at Relational Depth in Counselling and Psychotherapy」の一章を紹介し、考察を加えるものである。WRDは、6つの必要十分条件が全て高水準に存在するときに生じるものであり、Thの態度だけでなく、Clの応答も重要な要素の一つだとされる。Thの透明性と自己一致は基本であり、Thとしての役割ではなくその人そのもので出会っていく必要がある。一方 Clは、Thの共感や肯定を受け入れ、Cl自身も Thに開かれていこうとする姿勢が求められる。Relational depthでは、ThはClを理解し、ClはThに理解されていることを認識し、さらにThはClがそう認識していることをも理解している、ということが起こる。Mearnsは、こうした深い出会いの体験にこそ治療効果があると考えている。WRDは、セラピーの中でThがしっかりとした他者性を持ったありのままの自分であり続けることを要求する点で、同じく対話系である古典派の論とは大いに異なる。Thが自分自身でいることは、好き勝手に振る舞うこととは区別される。しかしその境目を見極めるのは難しい。本書ではMearns自身のTh体験がありありと開示されており、自分全体で応じるということが読者自身にとってはどういう態度であるのかを吟味するヒントになるだろう。
著者
中田 行重 井上 菜々 斧原 藍 澁川 沙由理 武 宏美 西中 さおり
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : bulletin of the Graduate School of Professional Clinical Psychology, Kansai University = サイコロジスト : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-10, 2014

共感は多くの対人援助職における重要な技能であるが、性的暴行やいじめ問題の防止のために共感訓練の機会が増加している現在の状況を考えると、一般市民にとっても意味のある心の在り方のように思われる。共感訓練はこれまで言語的応答に焦点を当ててきたが、パーソンセンタードの理論からは共感は言語的応答ではなく内的態度であると言われている。共感訓練の必要性とその理論を背景に筆者らは一般市民のための共感訓練ワークショップを2回開催した。本稿はその様子と参加者の感想を紹介し、この経験から筆者らが学んだことを述べるものである。
著者
今林 優希 岡田 和典 岡田 朋美 川崎 智絵 中田 行重
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.97-105, 2015-03-15

本稿は、精神科診療という指示的なセッティング(治療環境)でいかにして非指示的でいるかについて論考したSommerbeck(2012)の論文を要約し、そうしたセッティングにおける非指示的実践について考察することを目的とする。彼は、指示的なセッティングにおいてセラピストが非指示的に実践する自由を与えられている場合と、指示的な業務を課せられる場合のそれぞれについて、非指示的なセラピーのプロセスを守るためのガイドラインを提示している。ただ、Sommerbeck の提案は、パーソン・センタード・セラピーのセラピストの内なる考えとしては十分理解できるものの、それが対外的に明示できる内容なのかといった点や、パーソン・センタード・セラピーの理論として言語化できるものなのかといった点については疑問が残る。また、彼が示した様々な提案のいくつかについては、既に行っているセラピストが日本にもいると考えられるだろう。しかし、彼が論文でそうした実践について改めて言語化したことは評価に価することである。病院臨床はパーソン・センタード・セラピーにとって大きな関心事であり、Sommerbeck の論文はそれを考えさせてくれる有益な材料を提示している。
著者
中田 行重 今林 優希 岡田 和典 川崎 智絵
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.79-88, 2015-03-15

Person‒Centered Therapy(以後PCT と略す)において非指示性(Nondirectiveness)は重要であるが、同じPCT の内部においても、その重要さに関する考え方に違いがある。ここでは2 人の論客Cain, D. J. とGrant, B. との間で起こった論争を紹介する。まずCain が、クライエント(以後Cl と略す)の中には心理的成長の上でセラピスト(以後Th と略す)の非指示性が促進的でない場合にまで非指示性に拘るのはパーソン・センタードとは言えない、と論じる。それに対してGrant が、非指示性には道具的なそれと、原理的なそれとがあり、道具的非指示性がCain のようにCl の成長促進の道具として非指示性を活用するものであるのに対し、原理的非指示性はCl を尊重しているかどうかが焦点であり、原理的な方こそ、Client‒Centered Therapy(以後CCT と略す)の中心的な意義である、と主張する。それに対しCain は、Grant の言う原理的非指示性におけるCl への尊重という考え方は、Th という、いわば外側からの仮説に過ぎず、それが本当にCl にとって良いものかどうかは分からない、と批判する。これらの議論は、Cl の成長になるようにTh が対応を変えて対応すべきという主張と、Cl の成長をTh が判断するのではなく今のCl をそのまま尊重すべきという主張のぶつかり合いであり、CCT/PCT の本質を問うものである。両者の議論からは、こうした問いがPCT の今後も続く哲学的な大きな課題であろうことが示唆される。
著者
中田 行重 佐藤 春奈 白崎 愛里 須藤 亜弥子 中西 達也
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.59-67, 2015-03-15

本稿は、体験的療法Experiential Psychotherapy 学派の論客であるLietaer, G. のUnconditionalPositive Regard: A Controversial Basic Attitude in Client-Centered Therapy(1984)を要訳し、彼の見解が古典派に与えた影響と今後のPCT の展望について考察するものである。Lietaer は、無条件の肯定的配慮を、肯定的配慮、非指示性、無条件性の3 因子に分けて論述している。中でも無条件性の重要性について論じており、この態度を、Rogers の価値の条件づけに言及しつつ、セラピーの中での「バランス拮抗力」「逆条件付け」と定義している。また、Th 自身へ開かれていること(openness)が自己一致であり、Cl へと開かれていることが無条件の受容であるとして両者の密接な関係について述べている。さらに、CCT の文脈における直面化に触れ、承認できないCl の行動についてはTh 自身の限界をフィードバックし直面化させること、直面化は、Th の受容を支えとしてCl が自己に直面するよう促す過程であることを論じ、無条件性と直面化は矛盾しない概念であると主張している。
著者
中田 行重 斧原 藍 白崎 愛里
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.95-102, 2018-03-15

Rogersのパーソナリティ論は、治療論とセットになっており、自己(self)が体験とどのように関係するかが重視される。本稿はRogersのself理論を多元的に発展させたMearnsのconfigurationという概念を紹介し、考察を加えるものである。Configurationとは、(前)象徴化された感情・思考・行動の一貫したパターンであり、いくつものconfigurationの総体がselfであるとされる。他者からの取り入れや自己不一致の周辺にもconfigurationは発生し、同化・自己成就・再構築を繰り返しながら発展し続けるとMearnsは考える。多元性や流動性を強調した視点は、ThのCl理解や受容を助け、実践面での貢献は大きい。しかし、configurationという概念が却ってClへの見方を固定化させてしまう危険性があるなど、Thが留意すべき点もある。
著者
中田 行重 小野 真由子 構 美穂 中野 紗樹 並木 崇浩 本田 孝彰 松本 理沙
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
no.6, pp.89-96, 2015-03-15

古典的クライエント中心派の論客Freire, E. による無条件の肯定的配慮についての考え(2001)を紹介し、それについての考察を行った。Freire は、セラピストが自己を出来るだけ脇に置くほどプレゼンスを提供するという彼女独自の理論を基盤に、無条件の肯定的配慮が中核条件のうち最も重要であり、共感的理解と同じであるという、古典的クライエント中心派の考え方を解説している。その他、ここに紹介する論文は2 つの事例を掲載しており、無条件の肯定的配慮を具体的に考える上で刺激となる論文である。
著者
石倉 篤 清澤 亜希子 田中 雄大 原田 祐奈 堀川 優依 中田 行重
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.13-22, 2019-03

若手心理臨床家には専門的職業人としての発達の段階があるが(金沢・岩壁,2006)、彼らの変化・成長過程を明らかにすることで、彼らと指導する者にとって、変化・成長を促進することにつながる。変化・成長を促すものとして、スーパーヴィジョンやケースカンファレンス以外に、相互扶助的なものが求められる。そこで若手心理臨床家同士のグループを形成し、彼らの大学院修了後の変化についてPCAGIP 法を用いて検討した。筆者らが調査対象者となりPCAGIP法を実施して、事例提供者の発言をKJ法によって検討した。その結果から、以下の5点が示唆された。第一に、職業観を形成する過程で、就職するまでは全般的な臨床場面に適応する準備をする一方で、就職した後は職場の特異性に適応していった。第二に、クライエントとの関わりを通して、一人の人間として自己開示していくことが増え、その意味を理解し、自己開示のタイミングや内容がより適切になっていった。第三に、自分の内面やクライエントとの関係性を理解するだけでなく、職場という組織・環境の中の自分とクライエントの位置を、多様な視点から理解するようになっていった。第四に、臨床家自身やクライエント自身の気持ちや考え、そして臨床家とクライエントとの関係性を、適度な距離をとりながら検討できるようになった。第五に、若手同士の関わりによって、相互扶助的な変化・成長が促された。
著者
小野 真由子 並木 崇浩 山根 倫也 中田 行重
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
no.10, pp.65-73, 2019-03

本論文ではリフレクションについて内的統合モデル (The assimilation model) という新たなモデルから検討された Goldsmith et al. (2008) の論文を紹介し、Person-Centered Therapy(以下、PCT)にもたらした新たな知見に関して若干の考察を述べる。内的統合モデルとは、自己は多様な内なる声を持つと想定し、それぞれの声は経験の布置や在り方を象徴していると捉えている。Goldsmith et al. (2008) は、Therapist(以下、Th)のリフレクションによってThとClient(以下、Cl)の間に、そしてClの内的な声の間に理解の架け橋が構築され、Clの問題のある内的な声が統合されるプロセスにつながったと主張している。Goldsmith et al. (2008) の主張から、PCTのリフレクションのメカニズムに関して新たな知見を提供している点や、リフレクションの受容的側面の重要性を考察した。また、Clの体験が明らかにされPCTの理論が発展していく課題として、Thが技法的な関わりになってしまうことを挙げた。特集:パーソン・センタード・セラピーの展開
著者
中田 行重 今林 優希 岡田 和典 川崎 智絵
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床センター
雑誌
関西大学心理臨床センター紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.79-88, 2015-03-15

Person‒Centered Therapy(以後PCT と略す)において非指示性(Nondirectiveness)は重要であるが、同じPCT の内部においても、その重要さに関する考え方に違いがある。ここでは2 人の論客Cain, D. J. とGrant, B. との間で起こった論争を紹介する。まずCain が、クライエント(以後Cl と略す)の中には心理的成長の上でセラピスト(以後Th と略す)の非指示性が促進的でない場合にまで非指示性に拘るのはパーソン・センタードとは言えない、と論じる。それに対してGrant が、非指示性には道具的なそれと、原理的なそれとがあり、道具的非指示性がCain のようにCl の成長促進の道具として非指示性を活用するものであるのに対し、原理的非指示性はCl を尊重しているかどうかが焦点であり、原理的な方こそ、Client‒Centered Therapy(以後CCT と略す)の中心的な意義である、と主張する。それに対しCain は、Grant の言う原理的非指示性におけるCl への尊重という考え方は、Th という、いわば外側からの仮説に過ぎず、それが本当にCl にとって良いものかどうかは分からない、と批判する。これらの議論は、Cl の成長になるようにTh が対応を変えて対応すべきという主張と、Cl の成長をTh が判断するのではなく今のCl をそのまま尊重すべきという主張のぶつかり合いであり、CCT/PCT の本質を問うものである。両者の議論からは、こうした問いがPCT の今後も続く哲学的な大きな課題であろうことが示唆される。
著者
中田 行重
出版者
関西大学臨床心理専門職大学院 心理臨床カウンセリングルーム
雑誌
関西大学心理臨床カウンセリングルーム紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.73-80, 2011-03

わが国におけるアディクション(嗜癖)の臨床について文献をもとに概観した。アディクションは家族からだけでなく、精神科医や臨床心理士など専門家からも当人の人格の問題と見られがちであるが、これと言った定式化された援助方針がなく、社会や経済とも絡む厄介な病気である。先ず、アディクションとは何かについて現象と診断の問題、病理学の推移について概観した。次に、精神障害とアディクションとの重複傷害、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬やSSRIという処方薬物へのアディクション、社会的機能の喪失の観点からアディクションの持つ深刻な複合性についてまとめた。更に、アディクション発症の危険因子について生物学的視点と家族論的視点から紹介し、最後にアディクションに対して最近の提唱されることの多い治療としてグループ療法(自助グループあるいは集団療法)があることを紹介した。
著者
中田 行重 村山 正治 下川 昭夫 平野 直己
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は個人心理臨床では十分に埋め合わせられない今日の社会病理への対応として、地域への心理的援助の枠組みを探った。研究の方法論として、地域のフリースペースやグループアプローチ、スクールカウンセリングなどにおける地域臨床実践およびインタビュー調査、地域文化・風土のローカルな視点に関する文献研究が行われた。研究により明確になったのは大きく次の4点である。第1点は西欧で始まった"コミュニティアプローチ"は日本においては、日本人の心理的風土に合わせる必要があるということである。例えば日本では子育て支援とは、コミュニケーション支援であることが明らかになったのはその1例である。第2点は、臨床心理学は西欧社会から生まれているが、自己と関係性、心理療法論において日本では西欧とは深い面で異なっていることが明らかになった。第3点はコミュニティアプローチのリーダーや心理臨床家は、個人療法家と異なり、水平アプローチという対象間の関係性を活性化する触媒として非構造化された環境における実践を行う資質が必要であることが明らかになった。第4点は日本は対人支援のためのネットワーキングとして西欧と異なるものが必要であり、それはスクールカウンセリング事業などで現れていることが明らかになった。このようにして明らかになったことは、それぞれ本課題の研究者達の日々の臨床実践で活かされており、更なる実践・研究の継続を予定している。