著者
白木 啓三 今田 育秀 佐川 寿栄子 緒方 甫 浅山 〓 森田 秀明
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.279-288, 1982-09-01

ヒトの上肢あるいは下肢が切断された時には, 体温調節の重要な役割を演じている体表の面積がかなり減少することになる. 体の一部分を喪失した患者の体温調節機序に特異性があるとすれば, リハビリテーション医学においても重要な関心事となる. 両股離断者(BHD)では夏期に著しい多汗を示すことが観察されていたが, 実証的に裏付けがなされていなかった. 2名のBHD(体表面積の40%喪失)を26℃, 30℃および33℃の人工気候室にて安静にせしめ各々の分割体熱測定を行った. 中性温域ではBHDの呼気からの水分喪失量は正常対照者より増加したが, 皮膚からのそれは低下した. 熱負荷(33℃)によりBHDの中心部体温および皮膚温は対照者よりも上昇し, このことが汗量の増加に関係することが実証された. BHDの体温調節は中性温域ではよく保持されるが, 温熱負荷により影響を受け易いことが判った. 更にBHDでは体表面積当りでは正常者より高い産熱があること, 体中心部から被殼部への熱伝達性が高いことおよび体熱放散が様式変化することが判明した.
著者
白木 啓三
出版者
産業医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

この研究の目的は脱水(体重の約4%、血漿浸透圧約10mosmol/kg上昇)により強い口渇を誘発させた被験者を頚下浸水させ血漿浸透圧および液性因子(アンギオテンシン,ADH,ANP等)等のいわゆる"細胞性の因子"と血漿量や圧受容器へのインプット(いわゆる"細胞外性の因子")を経時的に測定し,これらのパラメーターと飲水量及び口渇の消失との相互関係を解析し、ヒトの飲水行動に関与する因子の度合を解明することであった。その結果この実験方法は安全で当初の予想どうり、浸水する事により、ヒトの口渇感が減退する事が確認された。体重の3-4%の減少および血漿浸透圧を10mosmol/kg上昇させるような脱水条件では、ヒトは著しい口渇感を覚える。飲水をさせずに頚下浸水を続けた脱水状態の被験者でも口渇感は消失したことから、飲水行動に伴う咽頭反射(咽頭受容器)や、胃の膨満感(胃内受容器)はこの実験系から除外することが出来、これらがヒトの口渇感の軽減には大きな役割を果たしていないことは明確になった。脱水状態の被験者の頚下浸水中には口渇感は減弱するにもかかわらず、血漿浸透は高値(^+10mosmol/kg)を保っていた。したがって浸透圧が高いままでも中枢は口渇感を減弱させることになる。つまり細胞性の因子はここでは関与していないことになる。さらに脱水時には頚下浸水中も血漿量が高値を保ったままであった。これは脱水状態では尿量が増加しないにもかかわらず、頚下浸水による体液の移動は有効に作用していたことを意味する。その結果脱水状態での頚下浸水中は容積受容器がより多く刺激されていたことが推察される。つまり細胞外性の因子が口渇感の減弱および飲水量の低減を惹起させる主な因子であることが判明した。結論として頚下浸水中に見られる口渇感および飲水行動を減弱させる機序としては、細胞外性の因子が大きな役割を果たしていることが判明した。