著者
白根 靖大
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.77-110, 2022-09-30

現存する『台記』の中で、保延二年記は他の巻と異なる史料的性格を持つ。保延二年記は、一八世紀初め、伏見宮家に所蔵されていた南北朝期の写本を賀茂清茂が書写し、有職故実を生業とする万里小路尚房がさらに写本を作成したことを契機に流布していった。つまり、現存する保延二年記はほぼ近世に作成された写本であり、その活用のためには史料学的研究が求められるものの、そうした研究が進んでいるとは言いがたい。 本稿では、筆者がこれまで調査・研究を進めてきた中で得られた知見を整理し、改めて考察を加えたうえで、現時点で判明する保延二年記の写本系統を明らかにした。保延二年記は、藤原頼長の時代の故実作法等を伝える貴重書で、伏見宮本以外に類本がない稀覯書として、近世公家社会において高い評価を受けていた。それが本書の有した意義であり、流布していった大きな理由である。
著者
白根 靖大
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、院政期の貴族藤原頼長の日記である『台記』を史料学的な視座から研究し、中世古記録研究の進展に寄与することを目指すものである。『台記』は頼長の自筆本が現存せず、史料としては写本に頼らざるを得ない。その写本は近世に作成されたものが大半で、字句や記述に異同があるにもかかわらず、写本そのものの史料学的研究はほとんどない。そこで、本研究では、現存する諸写本の継承性などを精査して類型化・系統化を行い、各写本の特徴や活用するうえで踏まえるべき史料的性格を解明する。