- 著者
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白石 浩之
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.206, pp.1-37, 2017-03-31
本稿は台形様石器の様相について検討した論稿である。このことについては佐藤宏之によって『台形様石器研究序論』が発表されており,該期の研究において姶良Tn火山灰降灰以前の石器群の解明が期待された。その後28年が経過し,全国的に台形様石器を出土する遺跡が広がった。とりわけ関東地方では層位的にも型式学的にも対応可能になり,あわせて台形様石器の機能・用途について使用痕研究や実験研究等により深みを増しつつある。筆者は該期の台形様石器について型式学的研究から見直そうと思う。先行研究では台形様石器は横長剥片を主たる素材とする点が強調されていたが,縦長剥片を素材とした例も看過できない。またペン先形ナイフと称された基部調整尖頭石器は東日本に卓越し,九州地方は僅少の分布状況を呈している。先端が尖状という点,基部加工のナイフ状石器と台形様石器が相互に影響して独自に製作されたものであろう。台形様石器は素材の切断を介して外形を作り出す。刃部の両縁は側縁加工と平坦剥離,とりわけ錯向剥離を顕著に用いる。このように形成された台形様石器の形態は6類に区分される。①水平刃で基部が尖基のもの。②水平刃で平基のもの。③水平刃で平基であるが,側縁が末広がりになり刃部と交わる部位が角状を呈すもの。④斜刃で尖基のもの。⑤斜刃で平基のもの。⑥縦長剥片の端部を切断して用いたもので構成される。台形様石器は関東地方で相模野B5層や武蔵野Ⅹ層下部まで遡り,立川ローム層において最古級を呈す。B4層,Ⅹ層上部からⅨ層は台形様石器が最も卓越し,Ⅰ~Ⅴ類の台形様石器が認められる。その終焉は黒色帯層の相模野B3層・武蔵野Ⅶ層の時期で縦長剥片を切断によって分割し,側縁加工を施したⅥ類の台形様石器が目立ってくる。北関東地方では台形様石器の石材が遺跡毎で差異があり,地域差的な様相を呈す。Ⅶ層以降に卓越する二側縁加工を主体としたナイフ形石器文化期以前の台形様石器文化が広く発達するのである。