著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.261, pp.122-125, 2006-06

「松下さん、おはようございます。住友の竹田でございます。うちの伊藤が、いつも大変お世話になっとります。何か一度会っていただけると、おうかがいいたしましたが……」 落ち着いた声の中に、穏やかな微笑が感じられた。住友銀行の西野田支店長の竹田淳だった。伊藤の肩を落とした顔が幸之助の脳裏をよぎった。 「わざわざお電話をいただきまして、おおきに。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.242, pp.124-127, 2004-11

昭和二十年、敗戦の玉音放送に涙を流したのも束の間、いち早く民需品の生産を再開し、松下電器を立て直そうとする幸之助。だが、労働組合の結成大会で祝辞を述べようとした時、思いがけず社員から罵声を浴びる。招かれざる客 言いようのない違和感が幸之助を襲った。 尖った憤ふん怒どが心の襞を衝いた、その次の瞬間、はたと我に返った。 (あかん、あかん。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.268, pp.102-105, 2007-01

【前回までのあらすじ】武蔵野国の農家に生まれた渋澤榮一は、明治政府の下、大蔵省高官に取り立てられ、日本の近代化を目指す改革に奔走する。だが、政府内で薩摩、長州の派閥対立が深刻化する中で、各省庁の予算争奪戦が激化、財政の均衡を無視した要求が相次ぎ、榮一は落胆させられる。明治六年、榮一はとうとう大蔵省を去った。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.260, pp.122-125, 2006-05

(それにしても、伊藤はんも粘り強いな。朝も早うから。もう何回来はったかいな……) 松下電気の主要な取引銀行は当時「六大銀行」と言われた一つ、川崎財閥系の十五銀行だった。山本が十五銀行一行としか取引しなかったので、幸之助も自おのずと深い付き合いになっていた。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.257, pp.128-131, 2006-02

起業直後の危機を乗り越え、アタッチメントプラグに二股ソケットと立て続けにヒットを飛ばした幸之助。自転車ランプに改良の余地と市場性を見出し、苦心の末に新製品を開発。増産体制を整えた。だが、問屋を営業に回ったところ、総スカンを食らう。文◎皆木和義 Kazuyoshi MINAGI画◎山本重也 Shigeya YAMAMOTO 「なぜなんや……。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.263, pp.130-133, 2006-08

「今日こそ、うんと言うてほしいんですわ。大恐慌以来の浜口内閣の緊縮政策で、官庁は自動車を減らすは、中古車を買い取れと言い出すは、その上、大企業もどこもかしこも節約節約で往生しておますのや」 「そうやなぁ、あんまり緊縮緊縮言うてもなぁ」 日本の経済は沈滞から抜け出せず、不況が深刻化していた。 「緊縮のおかげで、産業界はどうもならんありさまですがな。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.264, pp.114-117, 2006-09

奈良からの帰りの車中で、頭を窓辺の背もたれに載せて目をつむっていると、今日見た天理教の様々なことが走馬灯のように浮かんでは消えた。——天理で目の当たりにした、あの盛大ぶりは一体何なんや。実に盛大やった。まさに繁栄そのもんやな。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.244, pp.100-103, 2005-01

GHQの占領下、公職追放などの制限を受け、政治・経済面の活動を封じられた幸之助は、残された「心の活動」、PHP運動に打ち込む。耐え忍ぶこと五年余り。昭和二十五年六月の朝鮮戦争勃発を機に制限は次々に解除され、幸之助は社員の前で、復活を宣言した。邂逅(かいこう) 昭和二十六年の正月、幸之助は、わくわくするような初夢を見た。
著者
皆木 和義
出版者
日経BP社
雑誌
日経ベンチャ- (ISSN:02896516)
巻号頁・発行日
no.259, pp.118-121, 2006-04

幸之助の表情が急に厳しくなり、山本を透徹とうてつした視線でとらえた。徐おもむろに言葉を吐いた。 「山本はん……。あなたのご主張やご提案、ご商売に対するご熱意には、常々わしも頭が下がる思いでおます。日ごろから深く敬服いたしてもおります。