著者
大友 明 相馬 拓人
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.340-345, 2022-06-01 (Released:2022-06-01)
参考文献数
40

電気化学反応は,エネルギーの変換や貯蔵に広く用いられている.リチウムイオン2次電池の基本原理は,電極活物質である遷移金属酸化物へのリチウムイオンの脱挿入であり,遷移金属酸化物はそれと同時に大量の電子を授受する.この電気化学なキャリアドープを強相関電子系の物質に適用すると,さまざまな電子相転移を引き起こすことができる.高い結晶性を有する薄膜を用いた場合,それらの電気伝導性,光学特性,結晶構造に関する情報が得られ,電子状態を詳しく調べることが可能となる.筆者らは,バンド絶縁体,モット絶縁体,重い電子系金属,超伝導体を対象に,電気化学セル中で薄膜試料の電子状態を可逆的に制御する手法を確立した.この手法は,単一試料における精密な電気化学ドープを実現し,それによって変調された電子状態をその場で計測するための強力なツールになりうる.超伝導ドームや量子臨界現象の観測にも適用することが可能になりつつある.本稿では,これまでの研究で得られた成果を紹介し,本手法の有効性と適用範囲を明らかにしながら今後の可能性を展望する.