著者
荒岡 大輔 西尾 嘉朗 真中 卓也 牛江 裕行 ザキール ホサイン 鈴木 淳 川幡 穂高
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, pp.222, 2011

リチウム(Li)は、比較的流体相に分配されやすい元素である。加えて、Liは2つの安定同位体(6Liと 7Li)をもち、その相対質量差の大きさゆえに、Liの安定同位体比である<sup>7</sup>Li/<sup>6</sup>Li比は、変質や風化等の水を媒介してLiが動く際に大きな同位体分別が起きる。そのため、Li同位体比は水・岩石反応の指標として注目を集めている。中でも、河川水のLi同位体比は風化反応の指標としての可能性が期待されている(Kisakurek et al., 2005など)。例えば、ケイ酸塩中でMgイオンを置換することで Liは6配位であるのに対して、水溶液中では4配位である。そのため、岩石中のLiは水より高配位である故に、一般的には岩石に比べて共存する水の<sup>7</sup>Li/<sup>6</sup>Liは高い。上記から、Li濃度や同位体比は、温度や流量による風化量の変遷や、河川が流れる地質の違いを反映しているのではないかと考えられている。このように、新しい大陸風化の研究ツールとして期待されるLi同位体指標であるが、河川水中のLiは数ppb から数百pptレベルと低Li濃度であるために研究は遅れていた。近年の分析機器の進歩により、数nmolと極微量のLiの高精度同位体比測定が可能になったため(西尾嘉朗, 2010)、河川水等の極めてLi濃度の低い水試料のLi同位体比の報告が2005年頃から急激に増加してきている。 そこで、本研究では、河川水中のLi濃度および同位体比の規定要因を明らかにするために、世界的な大河川であり、かつ河川毎に異なる成因・地質的背景をもつガンジス・ブラマプトラ水系を例に研究を行った。2011年1月の乾季にガンジス・ブラマプトラ・メグナ川のバングラデシュ国内における上・中・下流域において採水を行った。これらの水試料の各種元素濃度、Li及びSrの同位体比を測定し、考察を行った。LiとSrの同位体測定は、高知コアセンターの分析システムを利用した。特にLi同位体測定に関しては、4ng以上のLiを± 0.3‰ (2SD)の誤差と、世界でも最高レベルの微量Liの高精度同位体比分析が可能となっている。今後は、流量や温度が異なる雨季においても同様の採水、測定を行い、河川水中のLi同位体比指標の確立を目指す。