著者
田端 健人 真竹 健人
出版者
宮城教育大学
雑誌
宮城教育大学紀要 (ISSN:13461621)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.255-276, 2012

本稿では、ある公立小学校3年生の学級が、前年度の「荒れた状態」から回復していくプロセスを、観察とインタヴューの文字記録によって提示する。まず、この学級が2年生の時の教室の様子と、問題行動の中心となっていた子ども「S君」の様子を描出する。次に、クラス替えを経て3年生になった時、この学級を担任した教師「A先生」の、担任を引き受けるにあたっての覚悟や教育観を、インタヴューをもとに紹介する。そして、3年生になり新しい学級がスタートした時のエピソードを、主に3つ(記録1・インタヴュー6・記録5)提示する。これらのエピソードは、学級みんなの前で、A先生がS君に、叱責と称賛という仕方で強く働きかけた場面であり、S君と学級みんなに変容をもたらしたと考えられる場面である。A先生のこうした働きかけによって、この学級はわずか1カ月ほどで、「荒れた」状態を克服していく。A先生の語りと働きかけは、一般的に流布する教育言説によっても理解可能であるが、それをはみだす独自の実践感覚と言葉遣いを含んでいた。そこで、A先生の語りと実践感覚を、一般的な教育言説を超えて、一層深く理解するために、マルティン・ブーバーの「人間関係の存在論」を参照する。特にクライエント中心療法のカウンセラー、カール・ロジャーズに対するブーバーの批判に着目し、ブーバーの「受容」論を明確化する。そして、これを資料解釈の導きとし、A 先生の語りと働きかけを、心理学的次元ではなく、存在論的次元において理解することを試みる。