著者
矢島 太郎 松本 泰三 吉岡 謙 中山 健
出版者
資源地質学会
雑誌
資源地質
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.45-58, 1997

勢多の低硫化系浅熱水性金鉱床は日本において最も最近に発見された金鉱床である.現地性シリカシンター,カオリン鉱床,水銀鉱床,熱水爆発角礫岩等の熱水活動の地表近くの兆候がよく保存されており,これらが金鉱床発見の手がかりとなった.主鉱化帯は現地表面下約250m付近に位置しており,比較的浅所で金の沈殿が生じたと考えられる.<BR>鉱化作用は(i)所々角礫化した白色の縞状石英脈,(ii)黒色の硫化物に富む熱水角礫岩に分けられ,いずれも主として凝灰角礫岩や安山岩中に発達している.前者は掘進長で最大19mの幅を有し,部分的にAu50g以上の高品位部を伴う.これは中性熱水の湧昇によって形成されたと考えられる.脈は調査地域の北部では急傾斜で北西―南東に連続するが,南部~南西部では不規則な細脈群となり,さらに南部では水平脈に移行する.このことから,北部から南部に向かう導水勾配に規制された熱水の流れが示唆される.後者は,北西一南東方向の規制を受けた4列の雁行配列をなして産出し,最大幅25mに達するところがあるが金品位は一般に低い.これはH2Sの酸化により生成した酸性水と上昇する中性熱水が混合するところに形成されたものであり,地下水位の低下を反映しているものと考えられる.