著者
山浦 逸雄 矢島 征雄
出版者
信州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

ヒマワリとケナフを10数本以上育成し,その中から比較的生長の早い数本を選び一週間毎に測定を行った.4月に種を播き,発芽生長後,茎の太さが測定可能になった7〜8頃より測定を開始し,ほとんど枯れた11月まで測定を行った.この間の気象は,アメダス他の観測によったが,平年に比べ特に異常ということはなく,植物の生長は順調だったといえる.根の接地抵抗は植物の生長とともに変化するが,大地の水分量によっても変化する.この影響を除去するため,昨年度には根の接地抵抗を地表に接する円板電極の半径に置きなおす等価半径の概念を導入た.今年度は,新たに測定電流と電圧の位相差に着目して,根の抵抗を複素インピーダンスに拡張して,その変化を詳細に調べることとした.測定実験から植物の根の電気的等価回路は抵抗と容量の並列回路で評価でき,それら相互の量的変化が生長過程を知る上で重要であることがわかった.この変化を表現するために昨年度導入した等価半径を複素数化して,今年度は複素等価半径を新たに定義した.この実数部は等価回路の純抵抗によって支配され,虚数部は等価回路の容量によって支配される.純抵抗の大小は根の全体的な大きさや組織の抵抗に依存する.植物組織において細胞壁や膜の機能が低下したり,壊れると抵抗は低くなる.容量は根と土の接触界面における状況や組織細胞の壁や膜の活性度によって変化する.活性が落ちると容量は低下する.以上の考えのもとに実測した複素等価半径のベクトル軌跡をX-Y平面に描き,生長とともにどのように変化するかを調べた.その結果,ヒマワリ,ケナフとも開花するまでの生長期には,実数部虚数部ともに増加がみられ,それ以後は虚数部の減少が顕著であり,枯れて行く過程で組織が不活性化する様子がよくわかった.植物の生長とともに複素等価半径のベクトル軌跡は概ね時計方向の半円を描くことがわかったことは大きな成果である.